行け!稲中卓球部
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
行け!稲中卓球部 | |
---|---|
ジャンル | ギャグ漫画 |
漫画 | |
作者 | 古谷実 |
出版社 | 講談社 |
掲載誌 | 週刊ヤングマガジン |
連載期間 | 1993年14号 - 1996年47号 |
巻数 | 全13巻 |
ウィキポータル |
日本の漫画作品 |
日本の漫画家 |
漫画原作者 |
漫画雑誌 |
カテゴリ |
漫画作品 |
漫画 - 漫画家 |
プロジェクト |
漫画作品 - 漫画家 |
『行け! 稲中卓球部』(いけ いなちゅうたっきゅうぶ)は、古谷実の長編第一作に当たるギャグ漫画である。
目次 |
[編集] 概要
「週刊ヤングマガジン」(講談社)において、1993年第14号から1996年第47号まで連載された。全157話。1996年、第20回講談社漫画賞一般部門受賞作品。
その多彩な人物、意表を突くギャグ、そして思春期真っ只中の少年・少女の青春を描いた物語で、性別を問わずに大人気となる。1990年代の掲載誌を代表する作品と位置付けられている。
TBS系で、1995年にテレビアニメ化された。が、原作のファンからの評価は決して高いものではない。原作の作中でもアニメ版の出来を作者自ら批判するような描写があった。
[編集] あらすじ
稲豊市(いなほうし)の、稲豊市立稲豊中学校が舞台。稲中の男子卓球部には6人の部員がいる。部員数は少ないが、卓球の大会に優勝したこともあり(連載前の読みきりで優勝した。稲中厳選集「稲作」収録)、その存在感は大きいのだ。下品な行為で皆から馬鹿だと非難されている主人公・前野。その前野と行動を共にする盟友・井沢ひろみ。前野や井沢と似たような性格だが、口数が少なく、かつとんでもなく卑劣漢の田中。一見まともに見える田辺も、実態はワキガの激しい「毒ガス王子」。
一癖も二癖もある彼らに、部長・竹田、副部長・木之下、顧問の教諭・柴崎は毎日振り回されていた。こうして稲中卓球部と言う奇妙な集合体は形成されていたのだ。
こんな彼等の周辺には、いつも破天荒な事件が巻き起こる。彼等は物語を動かす磁場だ。女子卓球部顧問・立川盛夫が、部員が増加して練習場所が足りない事を理由に男卓の部室を侵略すれば、それに激しく抗戦する。夏休みの間に、学校の鶏小屋にホームレスが住み着けば、井沢は見事に飼い慣らす。
勿論事件だけではなく、卓球の方も文字通りの全力投球。某短期大学のテニスサークルに卓球を破廉恥指導し、強烈な個性のおばさんグループと練習試合する。地区大会では、優勝候補の岸毛中学校をあの手この手で初戦で破り、準優勝するという、相当の捻じ曲がった実力を持っている。
どんな事件や強敵や荒波や逆風が待ち受けようとも、彼等は必ず行くのだ。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 登場人物
- 前野(まえの)(声:岡野浩介)
- 下品でくだらない行為を繰り返し、卓球部員だがろくに卓球の練習もしない(作中でまじめに卓球の練習をしたのは一度きり)。自己中心的で頭も悪く、「変態」呼ばわりされている。作中の数々の騒動の中心的役割を果たす。下らない事、下品な事、さらには自分の要求や利益に執着する情熱、意志は凄まじい物がある。意外とモテたり、喧嘩が強い。井沢と共に「死ね死ね団」(元ネタは『レインボーマン』の同名組織)を結成し、カップルを邪魔し続けている。必殺技は「はみちんサーブ」だったが、めったに卓球をまともにしないのでやった回数は少ない。前世はニュージーランドの羊。
- 井沢ひろみ(いざわ ひろみ)(声:山崎たくみ)
- 前野の親友の部員。漫画『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈に心底憧れて、髪型を真似ている(ちなみに髪を一回セットするのにハードスプレーを二本使うらしい)。行動を起こすときは大体前野と一緒のことが多い。女の子とは縁がなかったが神谷ちよこと出会い、何かにつけて指導するようになってからなりゆきで付き合うようになった。卓球の実力は、幼稚園児を相手に試合をしても負けるほど弱い。ただし一度だけ神谷ちよこと組んだダブルスで恐るべき集中力を発揮し木之下・北条ペアを下した事がある。前世は桶狭間のバッタ。
- 田中(たなか)(声:高戸靖広)
- 前野・井沢とともに、稲中卓球部の騒動の元となっている部員。普段は無口で多くを語らず、口を開いたかと思えば要所要所で強烈な個性を発揮し、周囲が仰天するほどの毒を吐くことも。小柄で坊主頭のため、見た目はかわいいが、その実態は超がつくほどのムッツリスケベ。性に関する知識が豊富で、それもかなり卑猥である。パンツを脱がせる事に関しては職人級。卓球の実力は、竹田にかろうじて認めてもらっている程度で、普段は田辺とダブルスを組んでいる。前世は桶狭間のモグラ。
- 田辺・ミッチェル・五郎(たなべ ミッチェル ごろう)(声:天田真人)
- アメリカ人の父と日本人の母のハーフの部員。普段は温和で優しい性格だが、怒りに任せて我を失う面がある。体臭が凄まじく殺傷力さえあるため、彼の周囲の人間はみな常に鼻栓をしている。但し本人に自覚はなく、また傷つきやすい性格のため、周りもそのことは黙っている。ただしその分場の雰囲気を読めないところもあり、寒いギャグで周囲を凍らせることがしばしばある。プールの消毒液に漬かると化学反応を起こすのか臭いが消えるが、ごく短時間しか効かない上、風呂に入るとすぐ効果が切れる。田中とよくダブルスを組む。前世はズバリドリアン。
- 竹田(たけだ)(声:高山勉)
- 卓球部部長。卓球の実力はかなりのもので、性格も体格も前述の3人(前野、井沢、田中)に比べて遥かに成熟している。そして、その3人と岩下京子との関係にいつも悩まされている。チンコは大人顔負けの大きさであることが判明してから、事あるごとにネタにされた。K-1MAXファイターの武田幸三がモデルとなっている(武田幸三談)。前世はスイスの羊飼い。
- 木之下ゆうすけ(きのした ゆうすけ)(声:加瀬田進)
- 卓球部副部長。竹田に次いで卓球が上手い。かなりの美少年で、多くの女友達がいるが本命は少ない。彼もまともな性格。初め陰毛が生えていなかったが、田中より先に生えたため、田中に襲われてしまう羽目に。前世は中世のフランスの画家。
- 岩下京子(いわした きょうこ)(声:上原さくら)
- 卓球部のマネージャー。校内で喫煙したりするなど素行不良だったため、顧問教師からマネージャーになることを薦められる。竹田とは幼馴染で後に交際を始める。大人びた容姿で勝気な女王様タイプだが、純情な面もある。男装して公式戦に出場した事も。前世は中世ヨーロッパの貴族の娘。
- 神谷ちよこ(かみや ちよこ)(声:黒崎奈那美)
- 当初は木之下のファンだったが、木之下宛てのバレンタインデーのチョコレートを回収していた井沢の目に留まり、地味で垢抜けなかった彼女は井沢の手により美少女へと変貌する。それをきっかけに、正式なマネージャーではないものの、卓球部に出入りするようになる。井沢を「教官」と呼び慕ううちに、いつしか2人は交際を始める。バストが大きく(当初は89センチだったが後に89.9センチになった)、性格も良い。前世はイギリスの詩人。
- 柴崎(しばざき)(声:長島雄一)
- 卓球部顧問の体育教諭。他の教師のパシリをさせられている。部員からはうだつの上がらない中年とみなされ、教員にもかかわらずひどい暴力行為を受ける。その上「柴崎」と呼び捨てにされるか、「ゲーハー」呼ばわりされるかのどちらかでしか呼ばれない、求心力に乏しい指導者である。馬鹿にされた挙句幼児退行化し、(アニメでは幼児退行していない)一時的に顧問が鬼頭に代った事も。
- 浜(はま)
- 稲豊中学校理科教諭。つるりとした大きな顔が特徴的。生徒や教員からは無視されているが、前野、井沢、田中からだけは例外的に尊敬されている。理科の授業で極端なたとえ話を好み、PTAなどからも厳重に注意されている。その極端なたとえ話が騒動の発端になる。アニメ未登場。
- 立川盛夫(たちかわ もりお)(声:中村秀利)
- 稲豊中学校教諭で女子卓球部顧問。部員の半分以上がサボっており、実績も残せない男子卓球部を目の仇にしており、男子卓球部の部室を虎視眈々と狙っている。しかし特に女子卓球部員から信頼があるというわけでも無いらしい。所帯持ちにもかかわらず女子ソフトボール部顧問の橘先生に惚れており、それをエサにした前野たちの復讐を受けることになる…
- 北条理恵(ほうじょう りえ)(声:嶋村薫)
- 稲豊中学校三年生女子。井沢が恋焦がれ、「北条先輩」と呼んでいる。そのために神谷が苛立つことが多く、騒動の元に。
- 若林貴子(わかばやし たかこ)
- 稲豊中学校三年生女子。頭脳明晰で学校中から尊敬のまなざしを浴びている優等生。しかしどうしたことが前野に惚れ込み、コンピュータで複雑な計算をしながら前野との恋を成就させようと奮闘する。アニメ未登場。
- 岸本ありさ(きしもと ありさ)(声:真山亜子)
- 中年女性を中心とした卓球チーム「すずらん通りビューティーママーズ」の選手。卓球暦60年のつわもので、非常に高い卓球の実力を持つ。しかしなぜかそれを使わず、歳で垂れ下がった乳房を自由自在に動かすことができるという特技を生かして、相手を笑わせることで勝利を得る。その後は前野から卓球の指導を依頼されるようになるが、前野の身代りにもなって、公式戦にも何度か出場させられている。
- 末松カオル(すえまつ カオル)(声:茶風林)
- 稲豊中学校教諭。前野と田中の所属する問題児クラスの2年5組担任。熱血教師であり、前野やその周辺に煙たがられるもシリーズ後半では逆に仲良くなっているように見受けられる。顔と乳輪がでかい。
- 鬼頭(きとう)(声:小林優子)
- 稲豊中学校の女性教諭。女子水泳部顧問。容姿端麗だが大胆不敵な性格で、前野たちを恐れない。前野たちの将来と柴崎の指導力とを最も不安視している人物である。前野たちへの特別講習には毎回、と言ってよいほど参加し、直接講義を行っている。得意技は飛び膝蹴りと口から火を吹くこと。良く鼻水を垂らす。
[編集] 人物描写
連載初期は前野がその特異的キャラを前面に押し出して、ストーリーを形成していたが、連載が進むにつれ、突出したキャラが1人で物語を引っ張っていく展開から、様々な人物が強烈な個性を発揮する展開へと変わっていく。結果として、普遍的な青春群像劇となっているのが大きな特徴。
多くのサブキャラクターが、回を増すごとに存在感を増加させて、主要キャラクターへと昇格していった。岩下京子と神谷ちよこの2人のヒロインもそうである。両者とも最初はゲスト的な存在だったが、やがては部のマネージャーとなり、本作に無くてはならないキャラとなった。
また、幼稚園からの幼馴染の竹田と岩下、神谷と彼女に一目惚れした井沢の2組が付き合う様になり、本作は恋愛漫画としての側面も出て来るようになる。このため話は多重的に面白くなった。特に竹田と岩下がラブホテルに行く場面は真骨頂である。また、前野も毎回交際には至らないものの、意外とモテている。
最初は前野と井沢と言う強烈なキャラに押され気味で、引き立て役だった田中と田辺も、その存在感を発揮しだす。SM趣味のある田中と、女装趣味のある田辺は、本作の根幹を成す重要キャラとなった。主役扱いで描かれる話も多くなる。
さらに、他の多くの漫画では「一発キャラ」といって一度きりしか出ないキャラクターが多いが、その一発キャラの再利用が有効かつ何度も行われている事も、重要である。この技法が漫画自体をマンネリ化させること無く、逆にストーリー全体を引き締めさせている。
[編集] 表現
初期の絵は、人物も風景も線が粗く、かなり雑である。ところが、(明確な区分分けは出来ないが) 第4巻前後から回を増す事に絵が上達していき、風景は緻密・精密に描写されるようになった。描き手の腕が上がっていく様子を観察する読者は、頼もしさを実感する事になる。第7巻前後から、絵は安定期に入る。しかし、4巻前後から7巻前後までの絵は、ほぼ完全に当時アシスタントの沖さやかの絵そのものであり(彼女の作品と見比べれば一目瞭然)、更に8巻以降とその後の古谷作品に関しても、沖がアシスタントをしていた時期や初期と較べて、画風があまりにも違いすぎているため、話は面白いが絵が下手すぎることを理由に、編集者が密かに作画担当をあてがうなどして、古谷実自身は途中から(稲中以降の作品に関しても)全く絵を描いていないのでは、という意見もある。
また、コマ割りも独特であり、ギャグの場面を唐突かつタイミング良く描写することで独特のギャグワールドを展開している。「読まなければわからない」と評価されるのもこの独特のタイミングが全編にわたって行き届いているからであろう。
[編集] ギャグ
ギャグはかなり暴走気味に発せられる。暴力ネタの他、スカトロネタも多くかなり下品。
芸能人のそっくりさんが多く登場している。初期では、同級生に井上陽水のそっくりさん・井上が居た。練習試合をするおばさんグループには、土井たか子のパロ・土井(声:嶋村薫)と松田聖子のパロ(声:丹羽紫保里)が居る。前野・田中御用達の大人のおもちゃの店の店長(声:チョー)はどう見ても加山雄三である。別の意味でのそっくりさんも存在しており、田原俊彦の名前だけのそっくりさん「田原年彦」(声:菊池正美)が登場している(外見は一切似ていない。また、「変な顔勝負」の助っ人として前野にスカウトされたこともある)。
そして、昔のテレビ番組、プロレスとプロ野球のパロディのネタがかなり多い。元ネタを知らない読者には全く理解できない箇所も少なくない。
またミュージシャンのコーネリアスのファンだったらしく、登場人物の着ている服に彼のロゴを入れたり、小山田圭吾をモデルにしたと思われるキャラを登場させたりしている。
[編集] 最終回
最終話の副題は、「終わり終わり」。皆で、卓球部に入部した日を回顧している。そして時間が現在に戻り、いつもの騒ぎが始まる寸前で物語は終わる。きれいな大団円を迎えたわけではなく、延々と続くかに見えた設定コントは、連載開始から3年半で突然の終幕を迎えた。
本作は掲載誌を代表する程の売り上げを誇ったベストセラー作品だった。そのため、編集者が人気作を打ち切るわけがなく、著者・古谷の意志による終了と受け取る方が自然である。古谷が新しい方向性を模索し始め、代表作である本作1作品のみにこだわらなくなっていた事は、この連載終了劇とその後の作品からも明白であろう。ギャグ漫画の頂点を極めた古谷が、その頂上から自ら降りて別な次元を目指した、と言ってもよい。
[編集] 評価
1997年と1998年に、手塚治虫文化賞の候補になるが、受賞には至らなかった。
著者・古谷は本作以降、純粋な意味でのギャグ漫画は描いていない。ギャグも笑いもあるのだが、作品全体はシリアスである。そして古谷は、“人間のより暗い部分を見せつける作品”と言う方向性で作品を描くようになっていった。
吉田戦車の『伝染るんです。』以降、難解でマニアックな作品が主流になったギャグ漫画に対して、待ったをかけた作品と位置付けられる。馬鹿馬鹿しいコメディに拠る圧倒的な笑いが齎す爽快感や醍醐味を、再確認させた。
[編集] 刊行書
- 講談社。ヤンマガKCスペシャル。全13巻。B6判。ソフトカバー。
TBS系 ワンダフル内アニメ枠 | ||
---|---|---|
前番組 | 行け!稲中卓球部 (再放送) |
次番組 |
- | セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん |