蒼き狼と白き牝鹿
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蒼き狼と白き牝鹿 | |
---|---|
ジャンル | 歴史シミュレーションゲーム |
対応機種 | PC各種 ファミリーコンピュータ[FC] |
開発元 | コーエー |
発売元 | コーエー |
人数 | 1人 |
メディア | [PC] [FC]2M+128Kbitカセット |
発売日 | [PC] [FC]1989年4月20日 |
蒼き狼と白き牝鹿(あおきおおかみとしろきめじか)は、コーエーより発売されたパソコン用ゲームソフトである。
同社が販売する歴史シミュレーションゲームの一つであり、チンギス・ハーンとモンゴル帝国をメインに12世紀から15世紀のユーラシア大陸を舞台とする。これまで4作が発売されている。
タイトルは「元朝秘史」の冒頭部分「上天より命ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白き牝鹿ありき。」より採られている。
目次 |
[編集] 作品解説
1985年、コーエーの歴史シミュレーションゲームとしては比較的早い時期に第1作「蒼き狼と白き牝鹿」が発売され、同じくコーエーが発売していた「信長の野望シリーズ」と「三國志シリーズ」とともに「歴史三部作」のうちのひとつと位置付けられた。厳密には「三國志(第1作)」・「信長の野望全国版」・「蒼き狼と白き牝鹿ジンギスカン」の発売をもって歴史三部作完成とされる。「歴史三部作」の呼称は「信長の野望」や「三國志」よりも「蒼き狼と白き牝鹿」シリーズの発売時に特によく用いられたようであるが、本シリーズは信長の野望や三國志よりセールス的に一歩遅れていたためと思われる。「信長の野望」が日本、「三國志」が中国を舞台とするのに比べ、本シリーズはユーラシア大陸全域(=世界)を舞台とするスケールの大きさがセールスポイントであった。
しかし「信長の野望」シリーズは2005年に12作目・「三国志」シリーズは2006年に11作目が発売されたのに比べ、本シリーズの続編は1998年発売の4作目までにとどまっており、「歴史三部作」の呼称も本シリーズ4作目の「歴史三部作至高の到達点」というコピーを最後に使われなくなっている。
とは言え、潜在的ファンの多いシリーズであることは確かで、ファンの間では続編発売を要望する声が非常に多い。
[編集] 蒼き狼と白き牝鹿―ジンギスカン
もともと1985年に「蒼き狼と白き牝鹿(サブタイトルなし)」というタイトルで発売されていたが、サブタイトルが追加された上記のタイトルで1987年にリニューアルされたのが本作である。2003年に発売されたコーエー25周年パックでも本作品が収録されている。厳密にはシリーズ2作目であるが、前作をリニューアルしての発売なので事実上このシリーズの第1作とも言える。2005年にはコーエー定番シリーズの一つとして廉価版が販売されている。本作品では「蒼き狼と白き牝鹿」にオルドシステムや血縁将軍の重要性(血縁将軍は決して裏切らないのに対して、非血縁将軍は反乱を起こす可能性を必ず持っている)などを追加し、このシリーズの基本方針が定まった作品である。
シナリオは「モンゴル編(1174年冬スタート。コマンド開始は1175年春から)」と「世界編(1205年冬スタート。コマンド開始は1206年春から)」の2本である。選択できる主人公はモンゴル編がテムジン(モンゴル族)のみで、世界編ではジンギスカン(モンゴル帝国)、源頼朝(日本)、アレクシオス(ビザンツ帝国)、リチャード1世(イングランド)の4人を選択できる。
また、モンゴル編を1205年冬までにクリアした場合、金・食料・住民・特産品総数の10分の1と将軍候補(属国統治を行っていない将軍)5人、子供5人、全ての后を世界編に持ち越してプレイすることができる。その場合、プレーヤーはジンギスカンとしてプレイを継続することになる。
本作品ではコマンドを実行するたびに統率力・判断力・説得力・企画力・体力・武力といった各能力を消費することになっているため、こまめな自己訓練でこれらの能力の回復などを行う必要もある。
他のコーエーの歴史シミュレーションゲーム作品と異なる点は内政の概念である。他のシリーズでは「開墾」「投資」などのコマンドがあり、それを選択しない限り、国力は上昇しないが、本作品では住民を「町造り」「城造り」「食料作り」「特産品作り」に配分するだけで自動的に国力が向上していく(訓練度などの軍事関係やモラルなどの一部の内政ステータスを除く)。このシステムは「元朝秘史」にも継承された。また、住民配分の中には兵士も含まれるため、全ての住民を兵士にしたり、逆に兵士を0にして全て内政関係に振り分けることもできる柔軟な戦略が可能とである(ただし、全住民を兵士にした場合には住民の忠誠が大きく低下して国力が激減したり反乱が発生するようになっている)。
[編集] コンシューマー移植版
[編集] 蒼き狼と白き牝鹿―元朝秘史
1992年発売(パソコン版)。2003年に発売されたコーエー25周年パックにも収録されている。2005年にはコーエー定番シリーズの一つとして単品販売もされている。 今作では新たに文化圏と気候の概念が導入され、文化圏や気候の違いを考慮しながら戦略を立てる必要が出てきた。戦略面でも、政治顧問の役職の導入や直轄地(プレイヤーが直接内政に関与する)の廃止により、より人事面の重要性が強まっている。また、シナリオ数が増えたこともあって登場する国家や人物の設定がより史実に近くなっている。
能力値もランペルールのシステムを継承して、細かい数値が廃され、AからEまでのランクで表されるようになった。
シナリオは4つ(プレイステーション版は5つ)である。シナリオ1「モンゴル高原の統一」は前作のモンゴル編に相当する。プレイできる族長もテムジンの他にジャムカ(ジャダラン族)、トオリル・ハーン(ケレイト族)、ダヤン・ハーン(ナイマン族)が追加された。
シナリオ2「チンギス・ハーンの雄飛」は前作の世界編にほぼ相当する。各地の国王も前作に比べて、より史実に近くなっている。プレイ可能な国王はチンギス・ハーンの他に源実朝(鎌倉幕府)、ジョン(アンジュー朝)、フィリップ2世(カペー朝)、ムハンマド(ホラズム帝国)、ゴーリー(ゴール朝)がいる。
シナリオ3「元朝の成立(1271年スタート)」は文字通り、フビライ・ハーンの時代であり、プレイ可能な国王はフビライ・ハーン(元)、北条時宗(鎌倉幕府)、アバカ(イル汗国)、バイバルス(マムルーク朝)、ミカエル8世(ビザンツ帝国)、シャルル1世(両シチリア王国)である。
そして、シナリオ1を1214年までにクリアした場合、ユーザーシナリオ「世界への道」が登場する。モンゴル編から継続してプレイする場合は、プレイヤーの使用していた族長をそのままモンゴルの国王としてプレイする。この場合、前作同様、将軍・政治顧問・子供・后などのデータをそのまま引き継いでプレイできる。前作と異なる点としては移行時に世界編に連れて行く将軍を選択できるようになったことと、クリアした翌年からプレイできる(前作では強制的に1205年冬に移った)ことである。
また、新規にユーザーシナリオを開始することも可能であり、この場合は1185年スタートとなり、チンギス・ハーン(モンゴル帝国)、源頼朝(鎌倉幕府)、サラディン(アイユーブ朝)、イサキオス2世アンゲロス(ビザンツ帝国)、フリードリヒ1世(神聖ローマ帝国)、リチャード1世(アンジュー朝)のうちいずれかでプレイできる。
なお、プレイステーション版では日本編である「源平の争乱(1180年スタート)」が追加され、こちらがシナリオ2となっている。源頼朝、平清盛、藤原秀衡、木曾義仲のうちいずれかでプレイできる。こちらも、「モンゴル高原の統一」と同様に1214年までにクリアした場合、ユーザーシナリオ「世界への道」が登場する。日本編から継続してプレイする場合は、プレイヤーの使用していた棟梁をそのまま日本の国王としてプレイする(以下、「モンゴル高原の統一」から入る場合と同様の規定なので省略)。
[編集] 文化圏
本作品から文化圏の概念が導入された。文化圏は東から順番に日本・中国・蒙古・中央アジア・インド・イスラム・東欧・西欧の八つである。文化圏の果たす役割は主に経済成長と兵士(軍団)の雇用の二つである。
まず、文化圏ごとに経済成長の進展が異なる。最も著しく成長するのが中国文化圏とイスラム文化圏であり、蒙古や中央アジア、日本などは成長しづらい。
文化圏が異なると雇用できる兵種が異なる。例えば最強の兵種といわれる「蒙古騎兵」は蒙古文化圏のみ、「武士」は日本、「騎士」は西欧・東欧のみで徴兵できる(ただし、商人から傭兵を雇うこともでき、その場合は地域の文化ではなく、商人の文化圏に関係する兵種を雇用できる。しかし、傭兵は相場に左右されやすく、一般的に高価である)。
[編集] 気候
もう一つ新たに導入されたシステムとして「気候」の概念がある。気候は熱帯気候、乾燥気候、温暖湿潤気候、西岸海洋性気候、地中海性気候、温帯夏雨気候、冷帯湿潤気候、冷帯夏雨気候の八つである。
気候は主に食糧生産と災害発生に関わる。温帯の4つの気候地帯は農産品作りに適しているが、それ以外の地域では農業にはあまり適していないため、畜産品をメインにするのがよい。特に乾燥気候では食料収入自体が少ないので、商人から買うこともしばしばである。
また、温暖湿潤気候や温帯夏雨気候、熱帯気候では台風、乾燥気候では砂嵐、冷帯湿潤気候や冷帯夏雨気候では寒波の被害を受けることもある。
[編集] コンシューマー移植版
- 蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史(MD):1993年3月25日発売
- スーパー蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史(SFC):1993年3月25日発売
- 蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史(FC):1993年3月25日発売
- 蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史~メガCD版(MD):1993年9月24日発売
- 蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史~CD-ROM2版(PCE):1993年9月30日発売
- 蒼き狼と白き牝鹿~元朝秘史(PS):1998年9月17日発売
[編集] チンギスハーン―蒼き狼と白き牝鹿IV
1998年発売(パソコン版)。このシリーズとしては初めて拡張ソフトである「パワーアップキット」が1998年に発売されている。ちなみにこの時期が丁度「光栄」から「コーエー」への社名変更の時期にあたり、通常版は「光栄」名義でパワーアップキットは「コーエー」名義で発売された。その後2002年より通常版はコーエー定番シリーズの一つとしても販売されていたが、2005年にコーエーとしては販売を終了し、以後はソースネクスト社より廉価版が発売されている。また、コーエーのHPにて通常版のダウンロード販売も行われている。しかし、パワーアップキットについては2005年に通常版とともに販売終了となり、ダウンロード販売も行われていない。また、ソースネクストの廉価版にパワーアップキットを導入することは可能だが、ダウンロード版にパワーアップキットを導入することはできない。
ゲーム内容としては、全国家でのプレイが可能となり、登場する実在人物(将軍)も大幅に増加、将軍の能力値は政治・戦闘・智謀という3つの100段階数値、歩兵・騎兵・弓兵・水軍という兵科適正としての4つのSからEまでのランク、6種類の内政特技および6種類の戦闘特技の有無という細かい設定になった。また、全ての領地に将軍単位でプレイヤーが命令できるようになったことに加え、世界を1枚のマップで表現し、その上を各将軍率いるユニットが移動して内政や戦闘を行う(ただし軍隊ユニット同士や軍隊ユニットと都市との戦闘は別画面で行う)という、いわゆる箱庭内政システムが導入されている。総じて前作までとはかなり毛色の違ったゲームに感じられるが、世界を舞台としたスケールの大きさ、各地に実在の国家や人物が多数登場すること、国王の血縁者の重要性、文化圏の概念など前作までの特徴も色濃く引き継いでいる。また、前作までは歴史イベントも存在しなかったが今作ではいくつかの国に盛り込まれている。
シナリオは2本。パワーアップキットを導入することで2本追加されて計4本となる。(新シナリオ1・2はパワーアップキット導入時の追加シナリオ)
- シナリオ1「草原を駆る狼」1189年
- チンギス・ハーンがハーンの位についた直後。本作ではモンゴル編・世界編の区別は無く、最初から世界を舞台としている。
- シナリオ2「蒼き狼の末裔たち」1271年
- 前作「元朝秘史」のシナリオ3に相当。フビライ・ハーンの治世。
- 新シナリオ1「群狼たちの咆哮」1229年
- チンギス・ハーンが没し、オゴタイ・ハーンが即位した直後。
- 新シナリオ2「西域よりいづる狼」1370年
[編集] 文化
今作のキーワードは「文化の交流と発展」と言えるだろう。前作同様に文化圏によって扱える兵科や有利な内政方法などが異なるが、支配範囲を拡大しつつそれぞれの文化を交流させ、各地の文化の良い部分を取り入れていくといったイメージである。「交易」や「文化アイテム」といったもので文化の交流と発展を表現している。また、文化圏による国王と将軍の相性の良し悪し(国王の出身文化圏から遠い文化圏出身の将軍の忠誠度が上がりにくいなど)があったり、将軍の出身文化圏によって兵科の相性が存在する(蒙古出身以外の将軍が蒙古騎兵を率いても本来の能力を発揮できないなど。もっともリチャード1世や完顔陳和尚などの戦闘能力値の極めて高い将軍であれば、相性の悪い武士や蒙古騎兵を率いた場合でもその能力値の高さでマイナス面をカバーできるために十分にその能力を発揮する事が可能となる)。
[編集] 内政
前作までの国単位・地域単位から都市単位となった内政はいわゆる「箱庭内政」である。各都市には農業、牧畜、武器、戦術、航海、建築、学術、芸術、医術、工芸という10種類の文化の発展の度合いが「文化レベル」という数値で表されており、各文化に関連する施設(例えば農業文化なら田畑)を都市の領域内に建設していくことで文化レベルが上昇していく。また各都市で産出される特産品を各都市間で交易することによって都市同士を互いに文化交流させ文化レベルを高い都市から低い都市へ伝播させていくという方法もとれる。文化レベルを上昇させることによって収入が増える、その都市所属の軍隊の強さが向上する、能力の高い将軍が登用される確率が高くなる、生まれてくる国王の息子の能力が高くなる、新たな兵科が開発されるなど様々な効果が得られる。
[編集] 戦闘
国・地域単位で軍を動かすのではなく、将軍単位で兵を率いるようになった。世界が1枚マップなのでその上をどう進行していくかも自由であり戦略性・戦術性ともに大きく向上している。前作までの国(都市)そのものを巡る攻城戦だけでなく、そこに至るまでに野戦が行われることがあるのも大きな変化である。前作よりも兵科の種類も増加し、将軍の兵科適正や特技の有無、攻城戦か野戦かによってもどの兵科を率いさせるのが有利かが変わってくる。
[編集] 血縁者の重要性
これは前々作・前作に引き続き今作でも重要な要素である。例えば国王が寿命や戦争によって死亡した場合に血縁者がいないと即ゲームオーバーになってしまうが、国王の息子(王族将軍)や兄弟など(親族将軍)がいれば国王が死んでも彼らのうち一人を後継者としてゲームを続行できる。また、王族・親族将軍は率いることのできる兵士数が一般の将軍よりも多いので戦闘において有利であるし、身分が高いということで外交の使者としても有利である。今作では将軍の忠誠度が数値で表されているため、これを管理することによって非血縁の将軍でも前々作や前作ほどは叛乱や離反の危険性は高くないのだが、非血縁の将軍を国王の娘と結婚させて婿将軍とすることによって率いられる兵士数が多くなる上、婿将軍も国王の後継者になれるという点は国王の息子しか後継者になれなかった前作までとは大きな変更である。しかし、前作まであった国王の血縁の将軍は絶対に裏切らないという特徴は無くなり、忠誠度が低ければ婿将軍のみならず国王の息子でも離反の可能性があるようになった。
[編集] コンシューマー移植版
パソコン版「パワーアップキット」よりも後の発売だが、ゲーム内容・シナリオ数などは基本的に通常版のもの。しかし、パワーアップキットで追加されたコマンドやイベントの一部が追加されていたり、一部の将軍の能力値が見直されている。ただし、容量の問題か世界のマップが小さくなっている。また、徴兵の仕方が大きく違っている。
[編集] 本シリーズが生んだ誤解
「蒼き狼と白き牝鹿―ジンギスカン」以降、本シリーズで導入された「オルド」コマンドは子供をつくるためのコマンドであったため、オルドと後宮やハーレムなどとを混同する見方が少なからず生じた(この言葉の正式な意味はオルドのページを参照のこと)。そのためか「チンギスハーン―蒼き狼と白き牝鹿IV」では従来の「オルド」コマンドは「宴」へとコマンド名が変更された。また、「蒼き狼と白き牝鹿―元朝秘史」の海外版では「オルド」コマンドは子供をつくるためのコマンドには違いないが「家族と共に過ごす」コマンドと言い換えられている。