リチャード1世 (イングランド王)
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リチャード1世（Richard I、1157年9月8日 - 1199年4月6日）はプランタジネット朝第2代イングランド王（在位：1189年 - 1199年）。ヘンリー2世の第3子。母はエレアノール・ダキテーヌ。妃はべレンガリア・オブ・ナヴァール（ナバラ王サンチョ6世の娘）。
生涯の大部分を戦闘の中で過ごし、その勇猛さから獅子心王（Lion hearted）と称され、中世騎士道物語の典型的な英雄であったが、イングランドに滞在することわずか6ヶ月で、統治能力は未知数であった。
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[編集] 父、兄弟との争い
父王ヘンリー2世には若ヘンリー、リチャード、ジョフロワ（ジェフリー）、ジョンの4人の男子がいたが、フランス国王や王妃エレアノールの扇動、ヘンリー2世のジョンへの偏愛もあり、フランス王、支配下諸侯を巻き込んだ、父子・兄弟間の争いが絶えなかった。リチャードは母エレアノールの所領アキテーヌを分配され、1183年に若ヘンリーが亡くなるとヘンリー2世の後継者となったが、代わりにアキテーヌをジョンに譲渡するよう父に命じられると、これを拒絶し反抗した。その後、一旦父と和解したが、支配権を巡る不満は残り、1188年にヘンリー2世とフィリップ2世の争いのさなかの和平交渉中、リチャードは父親の前でフィリップ2世に臣従の誓い（オマージュ）をし、父を裏切った。1189年に力尽きた父王がシノンで病死すると、イングランド王に即位した。
[編集] 第3回十字軍
即位するや、王庫の金やサラディン税、軍役負担金だけでは足りないため、城、所領、官職等を販売して十字軍遠征のための資金を集めた。父王が得たスコットランドの臣従を1万マルクで売り渡し、「買い手があればロンドンでも売る」と言ったとされる。資金が集まると、イングランドにはほとんど滞在せず、遠征に出発した。
第3回十字軍はフィリップ2世（尊厳王）、神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ1世が参加しているが、フリードリヒ1世は一足先に出発し、既にキリキアで溺死している。フィリップ2世とは途中まで同行し、シチリア島でも合流したが、フィリップ2世の妹との婚約を正式に取り消し、ナバラ王サンチョ6世の娘べレンガリアと婚約したことなどにより、互いに反目し、その後別行動を取った。
シチリアでは先代の王グリエルモ2世の未亡人である妹の扱いを巡ってシチリア王タンクレーディと争い、メッシーナを占領しこれを屈服させた。この時のシチリア王との協定の中で、リチャードの後継者を甥のブルターニュ公アルツール（アーサー）と明記している。
キプロス島で、婚約者であるべレンガリアと合流する予定だったが、ビザンティン帝国のキプロス太守が彼女を捕らえたため、リチャードはこれと戦ってキプロスを占領し、キプロスでべレンガリアと結婚した。
1191年、フィリップ2世、オーストリア公レオポルト5世とともにアッコンを攻め落とすが、その際、レオポルト5世の旗を叩き落させたため、レオポルト5世は怒って帰路についた。また、次期エルサレム国王を巡って、リチャードは旧臣でもある前国王ギー・ド・リュジニャンを推したが、フィリップ2世はティール防戦に功績のあったモンフェラート侯コンラード1世を推し対立した。結局、コンラートは即位直前に暗殺され、フランス王、イングランド王両方の甥に当たるシャンパーニュ伯アンリがエルサレム王女イザベラと結婚して王位につき、リチャードはギーにキプロス島を売り渡して納得させた。
フィリップ2世は、これで義務を果たしたとして病気を理由にフランスに帰ってしまった。 このため単独で、アイユーブ朝の英雄サラーフ・アッディーン (サラディン)と戦ったが、エルサレムに達することはできず「非武装のキリスト教徒の巡礼者がエルサレムを訪れることを許可する」休戦条約を結んで1192年8月に帰路についた。しかし、サラディンからはキリスト教徒一の騎士と称えられた。
[編集] ドイツでの捕囚
すでに帰還していたフィリップ2世は、神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世やジョンと結託し、ジョンの王位簒奪を支援した。リチャードは、その陰謀を聞いて帰路を急いだが、途中で船が遭難したため、変装して陸路をたどった。しかし、オーストリアを通過中に見破られ、オーストリア公レオポルト5世に捕らえられ、デュルンシュタイン城に幽閉された。この時王弟ジョンは、リチャードが死んだとして王位につこうとしたが、諸侯の支持を得られず断念した。
1193年にレオポルト5世からハインリヒ6世に引き渡されたが、イングランド側が15万マルクもの多額の身代金を支払うことで決着した。ジョンやフィリップ2世は、リチャードの解放を遅らせようとハインリヒ6世と交渉したが、身代金が支払われると、リチャードは1194年2月に解放された。この時、フィリップ2世は手紙でジョンに「気をつけろ、悪魔は解き放たれた」と知らせたといわれる。
[編集] 帰国後
解放後はイングランドに戻り、ジョンを屈服させ、王位を回復するが、イングランドはカンタベリー大司教で大法官のヒューバード・ウォルターにまかせ、その後はフランスでフィリップ2世と争い、各地を転戦する。この時期にノルマンディ防衛の為に、中東の先進の要塞構築技術を取り入れたことで有名なガイヤール城を築く。
1199年にアテキーヌ公領シュリュでシャールース城を攻撃中に、鎧を脱いでいた時に矢を受け、その傷が元で死亡する。42歳。リチャードは十字軍中には、後継者を甥のブルターニュ公アルツール（アーサー）と考えていたが、その後、アルツールがフランス王の元で育てられたため、ジョンを後継者にしたと言われる。少なくとも、死に立ち会った母のエレアノールはジョンを後継者とした。
中世騎士道物語の典型であったリチャード1世は、イングランドに滞在することわずか6ヶ月で、統治能力は未発揮のままであった。
[編集] 逸話、性格
政治的業績より、逸話の多い王であった。
- 死ぬ間際、自分を撃ったシャールース城の騎士を「正当な戦闘行為によるものであり、許すように」と言い残した。しかし、怒りに燃えた母エレアノールは、その騎士を謀反人として処刑した。
- 母エレアノールのお気に入りの息子であり、性格も似たところが多かった。
- 子供はおらず、男色家だったと考えるものもいる。
- 十字軍、身代金、フランスとの戦争で巨額の負担を支配下の民に与えた割には、不思議に人気があった。そのツケをジョンが払わされた面がある。
- アッコン降伏時の協定をサラディンが守らなかったとして、捕虜3千人あまりを処刑した。
- 十字軍から帰る途中、貧しい身なりに変装していたが、リチャードが贅沢な食事をしたがった、あるいは高価な指輪を身に付けていたため、変装を見破られたという話があるが、真偽は定かではない。
- リチャードが幽閉されているとき、その安否と捕囚場所を確認するため、お気に入りの吟遊詩人（騎士のトルバドゥールとも言う）ブロンデルが、ドイツ中の城の麓でリチャードの好きな歌を歌い、リチャードが歌い返すの待ったという伝説がある。
- アラブ地域ではこの後、言うことを聞かない子供に「リチャード王が捕まえにくるぞ」と脅したという。
- 中世騎士道の華として偶像化され、小説『アイヴァンホー』や『ロビン・フッド』などでは主人公を助けるヒーローとして登場する。
[編集] 関連項目
