眼鏡
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
眼鏡(めがね、がんきょう)とは、目の屈折異常を補正したり、目を保護したり、着飾るための器具。
目次 |
[編集] 眼鏡の発明
眼鏡の発明者や発明の年代ははっきりとしないが、1306年2月23日水曜日朝にサンタ・マリア・ノヴェーラのフィレンツェ教会において行われた説教の中で、修道士フラ・ジョルダーノ・ディ・リヴァルトが眼鏡について触れ 「この20年以内の発明である」「発明者と話をしたことがある」と述べていることから、遅くとも13世紀末のイタリアでは製作されていたことが分かる。当初の眼鏡はもっぱら老眼の矯正に用いられた。
中世において眼鏡は知識と教養の象徴であり、聖人の肖像には、たとえ眼鏡発明以前の人物であっても、眼鏡がしばしば描き入れられた。
[編集] 眼鏡の構成
眼鏡とは、英語でa pair of glasses(一組のガラス)と呼ばれるように、本質的には眼前に置かれた2枚のレンズであり、レンズを支えるフレーム、テンブルなどから構成される。
- フレーム
- テンプル・モダン
- ブリッジ
- 智・蝶番
- パッド・クリングス
[編集] 眼鏡の効用
眼鏡は視力を矯正する目的のほかに、眼球を保護するという重要な役割がある。
[編集] レンズ
[編集] 用語について
球面レンズという言葉は、2つの異なった意味に使われている。一つは球面凹レンズと球面凸レンズの総称であり、もう一つは「非球面レンズ(後述)でないレンズ」という意味である。本項では混乱を避けるため後者の意味では従来型レンズと表記する。
[編集] 屈折作用による分類
眼鏡に使われるレンズは、眼の屈折異常によって異なる種類のレンズが使われる。
[編集] 近視
凹レンズ
[編集] 遠視
凸レンズ
[編集] 乱視
円柱レンズ
――というのが基本だが、実際に眼鏡店でオーダーメイドで作成されている眼鏡は上記ほど単純ではない。
まず、近視だけとか遠視だけという人はあまりいない。多くは乱視を併発している※。したがって多くの眼鏡レンズは球面レンズであると同時に円柱レンズでもある。
- ※ 視力に問題のない人を含めてまったく乱視のない人はほとんどいない。近視や遠視で眼鏡を作成する場合は、軽い乱視でも「ついでに」矯正する場合が多い。一方で軽い乱視ならば矯正しないほうが眼鏡に慣れやすくてよいとする意見もある。
[編集] 老眼
凸レンズ
眼の調節機能が加齢とともに弱り近点に合わせた際、水晶体を膨らませることが困難となった場合に起こる。上記遠視で使用した凸レンズで補うが、屈折異常のメカニズムはまったく別物である。
[編集] 遠近両用
累進レンズ
1枚のレンズ上で、遠く・近くを矯正できる。累進帯と呼ばれる度数の変化する場所が存在し、境目のないレンズとして年齢を気にする中高年が使用する。
また矯正レンズの種類によって、以下のような組合せになる。
- もともと正視の人が老眼になった場合は上部は素通しで下部が凸レンズになったレンズが使われる。
- もともと遠視だった場合、上部が弱い凸レンズ、下部が強い凸レンズになったものが使われる。
- もともと弱い近視だった場合は上部が弱い凹レンズ、下部が素通しまたは弱い凸レンズになったものが使われる。
- もともと強い近視だった場合、上部が強い凹レンズ、下部が弱い凹レンズになったものが使われる。
[編集] 材質による分類
現代の眼鏡レンズには材質で分類してプラスチックとガラスがある。また、極めて高価なため使用する人は稀だが、人工サファイアを使用したレンズもある。現在では販売量の9割近くがプラスチックレンズである。
[編集] プラスチックレンズ
プラスチックレンズの利点としては、
- 割れにくい
- 軽い
- 染色によってカラーの選択が自由
などがある。
逆に欠点としては、
- 傷が付きやすいためハードコート(後述)が必須だが、それでもガラスレンズの傷つきにくさには及ばない。耐擦傷性向上の努力が続けられ、最近ではガラスレンズ並みの傷つきにくさを謳う製品もある。
- レンズが厚い。屈折率の高いプラスチックが開発され薄くなってきているが、同時に屈折率の高いガラスも開発されているので追いつけない。
- 熱に弱い
[編集] ガラスレンズ
ガラスレンズの利点は、
- 傷が付きにくい
- 薄い
- 熱に強い
などである。
欠点は落とすと割れる、重い。
[編集] サファイアレンズ
サファイアレンズの利点は、
といったものであり、レンズとしての特性は非常に優れているが、一枚100万円以上、と極めて高価である。
ローマ皇帝ネロはサファイアのサングラスを愛用していた。
[編集] 高屈折レンズ
通常の眼鏡レンズより屈折率の高い素材を用いたものを高屈折レンズという。ガラス・プラスチックともに商品がある。
[編集] 利点
- 薄い。
- 通常は軽くなる。
- 屈折率の高さによるキラキラした外観が人によっては高級に感じられる。
[編集] 欠点
- 高価である。
- アッベ数が低いため、レンズ周辺部で色収差が感じられる。
- 割れやすい場合や、コーティングが剥がれやすい場合がある。
- 比重が高く、体積の割りに重い。この欠点は通常は薄くなることによって打ち消されるが、弱度では打ち消されないこともある。
- 屈折率の高さによるギラギラした外観が人によっては品なく感じられる。
[編集] 非球面レンズ
近年では非球面レンズといわれるレンズが広く販売されている。
元々球面レンズとは製法上の制約もあり文字どおり表面・裏面とも球体の一部分を切り取った曲面に研磨されるものだったが、これを意図的に球面でなくしたものが非球面レンズである。非球面の球面レンズとは言葉が矛盾しているが、「球面レンズと同じ用途に使えるが、レンズの曲面は球面になっていない」という意味である。具体的には、断面を見ると外周と内周でカーブの度数が違う。
球面でなくする意図には次のようなものがある。
- 周辺部の歪みを低減する。
- 従来型レンズではレンズの周辺部で度数が強くなっていたのを、周辺部まで一定の度数にする。
- 多少なりとも薄くする。
ただし、従来型レンズに慣れた人では、周辺部の歪みが少ないことが逆に歪みとして感じられたり、周辺部まで度数が一定であることが「周辺部の度数が弱い」と感じられたりすることもある。
さらに細かく分類すればレンズの外面(眼球から遠い面)のみを非球面にした外面非球面と、内面を非球面にした内面非球面、両面を非球面にした両面非球面とがある。
[編集] コーティング
レンズ表面に施されるコーティングには次のようなものがある。カタログ等に表記される名称はメーカーによって異なる。
- ハードコート
- レンズに傷がつくのを防止する。ハードコートの技術が開発される前のプラスチックレンズは極めて傷つきやすいことが嫌われて販売量が伸びなかったが、ハードコートが施されるようになってからは実用上問題ない傷つきにくさを得、販売量でガラスレンズを凌駕するに至った。現在ではハードコートの施されていないプラスチックレンズは事実上生産されていない。
- 反射防止コート
- 光の反射を防止する。これが施されていないと、装用者自身にとってはレンズ裏面に自分の目が映って見えたり、背後から来る光が反射して気になったりする。周りの人から見て白く光らないことが外観上の利点として挙げられることもあるが、これは価値観の問題である。芸能人の所ジョージや陣内孝則、さだまさしなどは白く光らせるためにあえて「無し」を指定しているようである。ファッション目的以外に、薬品を扱う仕事などでどうせ剥がれてしまうからとして無しを指定する者もいる。標準装備に近く、あえて指定しなければこのコーティングは基本的になされている。レンズとフレーム込みでいくらという安価なセット商品でも通常このコーティングのなされたレンズが付属するので、値段を理由にこのコーティングを省くことはあまり無い。
- 防汚コート
- レンズに汚れをつきにくくしたり、付いた汚れを拭き取りやすくする。
- 紫外線カット
- ガラスでもプラスチックでも素材自体に紫外線を通しにくい性質があり、紫外線をカットしないレンズを作るほうが難しいが、さらに完全にカットするためのコーティングが施されることがある。
- 防曇コート
- 付属の液体を定期的につけることでレンズの曇りを防ぐ。
- 衝撃吸収コート(インパクトコート)
- レンズに衝撃がかかった時、このコーティングでより強度を上げることができる。縁なしやナイロールに有用であるとされる。
[編集] 偏光レンズ
釣りやスキーの時には水面や雪面からの反射光から眼を保護するため偏光レンズを用いる。
[編集] フレーム
眼鏡のレンズを眼前に固定するための枠をフレームという。
[編集] フレームの種類
[編集] 構造による分類
- つる付き眼鏡
- 鼻当てとテンプルによって支える、もっとも一般的な形式。
- 一山
- テンプルはあるが鼻当てがなくブリッジが直接鼻に当たって眼鏡を支えるもの。
- 柄付眼鏡
- 柄を手で持って使用するもの。現代では一般的でない。
![鼻眼鏡の例。人物はヴァルター・ネルンスト。](../../../upload/shared/thumb/7/71/Walther_Nernst.jpg/180px-Walther_Nernst.jpg)
- 鼻眼鏡
- テンプルがなく、鼻をバネで挟むような形で装用するもの。現代では一般的でない。鼻の低い人には適さない。フィンチとも。
- 片眼鏡
- 片方の眼窩にレンズをはめ込むようにして使うもの。現在では一般的でない。モノクルとも。
[編集] リムの形状による分類
- フルリム
- 金属製の縁でレンズの全周を覆ったもの。
- 縁無し
- リムレス、ツーポイントとも。レンズの外周を覆う縁のないもの。破損しやすいが、軽く、顔の印象をあまり変えない。
- ナイロール
- ハーフリムとも。レンズの上半分のみを金属製の縁で覆い、下半分はナイロン糸などで固定したものである。
- 逆ナイロール
- アンダーリムとも。ナイロールとは逆に、レンズの下半分のみを金属製の枠で覆ったものである。
[編集] テンプルの形状による分類
- 半掛け
- 一般的な形状。平仮名のへの字状になっている。
- 縄手
- 巻きつる、ケーブルテンプル、スポーツフレームとも。別名のとおりテンプルが、耳たぶのまわりをぐるりと巻きつくように作られたもの。もともとは眼鏡の必要な人が、乗馬中に眼鏡を落とすことがないよう開発されたものだが、最近は眼鏡の常用が必要な子どもが、激しい遊戯の最中に落とすことがないよう使用される場合が多い。中度以下の近視は、見えれば掛けなくてもいいが、遠視の子どもは正常な視力の発育のために眼鏡を常用することが多く、縄手フレームが使用されるのが普通である。眼鏡は衝撃が加わったとき外れることによりショックを吸収できるとする考えから、遊戯中の事故などの際に外れないと衝撃が耳や鼻に直接加わり怪我を負いやすくなるとして縄手フレームの使用に否定的な見解もある。ボールなどが当たった場合広い面積に圧力が加わることになるが、逆に繩手の蔓のメガネを掛けていた場合、狭い面積に力が集中し、特に蝶形骨を痛めた場合視神経を痛め、最悪の場合失明にいたる場合があると報告されている。
- 長手
[編集] 素材による分類
- メタルフレーム
- 金属製のフレーム。
- セルフレーム
- かつてセルロイドで作られたことからこのように呼ばれるが、近年ではアセテート製のものが殆どである。顔の印象を大きく変えるファッション性が魅力だが、掛け心地の調整の余地が少ないのが欠点である。
- 金無垢
- メタルフレームのうち、材質に金を使ったものをいう。純金では柔らかすぎるので18金や14金が使われる。表記は18K、14K。柔軟性がある、腐食しにくい、金属アレルギーを起こしにくい、などの長所がある一方、貴金属だけあって高価である。
- チタンフレーム
- チタン素材で作られたフレーム。腐食が起こりにくく丈夫で軽いことから、シニア向けフレームに用いられることが多くなった。表記はTi-PまたはTi-C。なお、-Pは純チタン、-Cはクラットチタン。後者はメタルフレームを芯にしてその外側にチタンを巻きつけてあるため、汗などでメッキ剥がれがあった際に同時に剥がれる恐れがある。
- 銀縁
- メタルフレームのうち、銀で作られたもの。銀は眼鏡フレームには適さないので商品としてはあまり流通していない。銀色のメタルフレームをいうこともあるが、眼鏡店の店頭では誤解を避けるためこの意味では使われず、俗称である。
- 鼈甲縁
- 鼈甲で作られたフレーム。現在ではワシントン条約により輸入が禁止されているため非常に高価である。化学合成で作られた鼈甲風のセルフレームをいうこともあるが、眼鏡店の店頭でこの意味で使われないのは「銀縁」と同じである。
[編集] レンズの形状による分類
- 丸目
- 丸いもの。ただし真円では眼の錯覚で縦長の楕円に見えるので通常は若干横長になっている。ロイド型とも。
- オーバル
- 楕円。
- ボストン型
- 逆おむすび型。
- ウェリントン型
- 逆台形。
- フォックス型
- つり目。「教育ママ」のカリカチュアに描かれるような型。
- カニ目
- 天地(上下の高さ)の極端に浅いもの。
- オクタゴン
- 八角形。
- 茄子型
- ティアドロップとも。一般に言う「レイバンのサングラス」型。マッカーサー元帥がかけていたタイプ。
[編集] フレームサイズ
眼鏡の大きさは『50□18-135』という形で表記されることが多い。この場合、レンズ横幅50mm、鼻幅(山幅)18mm、つる長さ(テンプルをまっすぐ伸ばした長さ)135mmを表記している。この表記法は□マークからボクシング・システムと呼ばれる。
消費者が注意すべき点は、たとえ同表記であっても、デザインによって横幅寸法などはまるで違うため、あくまで目安の一つで、実際に試着装用してみたり専門家による調整が必要であるという点である。(表記には総寸法の提示が無く、ちょう番部などがレンズから横に張り出したデザインやテンプルの曲げられてからのサイズはわからないため)
[編集] 装身具としての眼鏡
眼鏡は装身具としての側面も持っている。顔面の中でも目立つ場所である目の周りに装着する眼鏡の装身具としての可能性は高い。しかも、視力矯正という実用品の側面も併せ持つので、純粋な装身具であるピアスなどと違って装用しないように求められることが殆ど無い。
上記のように眼鏡のフレームには多種多様なものがあるが、実用品としてみればサイズ違いだけで十分である。壊れやすい縁無しなどは実用品としての性能は劣っているともいえる。多種多様なフレームが開発されてきたのは眼鏡が昔から装身具としての側面をもっていたことの証左である。
視力に問題がなくても装身目的で眼鏡を装用する者もいる。装身目的専用で視力矯正作用を持たない眼鏡を伊達眼鏡という。特にまぶしいわけでもないのにサングラスを用いるのも装身目的といえる。サングラスを掛けると眼球に入る光量が減るので、眩しさが減り瞳孔が開くことになる。UVカット性能が適切なレベルでない製品は紫外線をよけいに眼球に浴びてしまい、却って目を傷めることになるので注意が必要である。
レンズの改良においても外観の改善つまり厚みの低減には大きな努力が払われてきた。高価な高屈折レンズも、利点は外観の良さが主であり、光学性能ではむしろ劣ってさえいる。
一方で、眼鏡のイメージは様々である。マイナスイメージを抱く者もいる。曰くガリ勉イメージなどである。逆に東京ヤクルトスワローズ監督兼捕手の古田敦也は、ドラフト指名の際、阪神タイガースが眼鏡をかけたキャッチャーは不要として指名しなかったが、ヤクルト入団以来の選手として、また日本プロ野球選手会での活躍により、眼鏡をかけていることにより知的なイメージで捉えられ、眼鏡メーカーがスポンサーについていることも事実である。また一部では、「メガネ男子」及び「眼鏡っ娘」が流行しつつある。日本人は一般にサングラスを掛けると柄が悪く感じられる。
[編集] 治療用眼鏡等の保険適用
2006年4月より乳幼児の弱視や先天性白内障手術後の治療用眼鏡(コンタクトレンズも含む)に対して健康保険の療養費が支給(保険適用)されるようになった。詳しくは弱視の項目を参照のこと。
[編集] 検眼
眼鏡の度数を決定する行為を検眼という。検眼行為は法的には医師または患者本人にしか許されないが、実際には眼鏡店の店頭でも行われている。外国ではオプトメトリスト[1]のような公的資格を設けて規制している例が多いが、日本では国家資格は特に無く業界団体による自主的な規格しか無く、検眼行為自体も暗黙の了解であり扱いは曖昧なままなのが現状である。
※眼鏡店での検眼従事スタッフは度数決定に必要なそれなりの光学的教育を受けているが、眼病の発見など医療的教育はあまり受けていない上、診療・治療などは一切出来ないので、仮に発見しても医師の診療を勧めるに留まるしかない。眼病等の心配がある場合は眼科医による検診を受ける事が必要となる。