狙撃銃
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狙撃銃(そげきじゅう)、スナイパーライフルは狙撃用の小銃。専用に設計されたものと、アサルトライフルなど、本来狙撃用ではない小銃から精度の優れたものを選抜した上で改造されるものがある。
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[編集] 概要
[編集] 歴史
狙撃銃を発明したのはレオナルド・ダ・ヴィンチであるといわれている。彼は教皇軍の軍事総監督に就任していた頃、精度を高めた歩兵銃に小型の望遠鏡を取り付け、それを用いて城壁から敵兵を狙撃したという。
[編集] 本体
狙撃銃の有効射程は一般的に800メートルから2,000メートル以上にも達し、用途や作戦内容に合わせ口径は7.62mmや5.56mmなどが多く使用されている。一般の小銃に比べて部品の精度が非常に高く、弾道を安定させるために銃身は長く重く作られている。銃床(台座部分)と銃身は干渉しないようにフローティングバレル(浮き銃身、ぴったり嵌っているのではなく1~2mmの隙間がある)が採用され、銃床も従来は木製だったのが、材質も気温や湿度の影響を考慮して熱膨張率の低い合成樹脂素材(synthetic)やグラスファイバー(glass-fiber)、金属との複合素材(composite)を用いる傾向にある。
対物狙撃用には.50口径(12.7mm)の重機関銃弾を使用する対物狙撃銃(anti-material rifle)のようなヘリや軽装甲車などの対物狙撃を目的に開発された狙撃銃も存在する。従来は対戦車ライフルと呼ばれた銃に相当するものだが、強化した戦車装甲にライフル弾が及ばなくなったことや大口径の破壊力と長射程は対戦車狙撃以外にも有効であることから新設された呼称である。ハーグ陸戦条約の「不必要な苦痛を与える兵器」にあたるという意見があるが、規制される火器の口径を明示した条文は存在しない為、高い破壊力と1,000メートルを超える射程の長さから司法機関や軍などのテロ対策特殊部隊等はもちろん、一般の軍事作戦においても対人狙撃にも用いられている。
現在は銃身、機関部、銃床、スコープは目的に応じた各メーカー製品あるいは一部特注した仕様の製品を組み合わせ、ウェポンシステム化したものが主流になりつつあり、狙撃システムと呼ばれる製品が増えている。
[編集] 弾薬
狙撃銃には、通常の軍用実包(military ball / M80やM193など)より加工精度が高く実包ごとの公差も少ない市販の標的競技弾(マッチ弾 / match bullet)や、標的競技弾に準じた精度と狙撃に適した弾頭形状と重量・初速などを持つ狙撃専用弾(M118やM855など)が使用される。
[編集] 給弾機構
給弾については、簡素な構造を持ち、手動で一発づつ弾を込めるボルトアクション方式を用いるものが基本で大半だが、動作が確実で精度を高くしやすい反面、次の弾を込めるまでに時間がかかるため、撃ち損じたり、狙撃の目標が複数ある場合には問題となる。このため、近年では軍用に限っては自動で弾丸を送り込める速射性の高いオートマチック方式を採用した狙撃銃も登場している。しかし、オートマチック方式はスムーズに次弾を装填する為には弾を固定している薬室に間隙の余裕を持たせる必要があり、これによって弾道に誤差が生じて狙撃の精度を落とす恐れがあるため、高度な製造技術が求められる。警察用、または競技用では精度を最優先するために多くの場合、依然としてボルトアクション方式が採用されている。
[編集] 光学照準
狙撃銃の上部にはスコープと呼ばれる光学照準(単眼鏡)がついており、その倍率は20世紀初頭の古いものでも2倍以上、新しいものでは10倍から50倍にも達する。連射した場合銃身の放熱で映像が揺らぐのを防ぐため、銃身には陽炎ベルト(mirage belt)を装着することが多い。単眼鏡の中に現れる照準(レティクル / reticle)に目標を照らし合わせて狙撃を行うが、実際の弾道は直線ではなく、重力の影響を考慮するため遠距離では上向きの放物線を描くことになり、さらに手ぶれや風、湿度、気圧、火薬の劣化などの複数の影響が加わるため、長距離で弾が当たる場所を正確に予測するのは難しい。このため、射手は高度な技術と経験を頼りに照準を垂直/水平微調整(elevation/windage)して目標を狙う必要がある。最近では距離の測定にはレーザーを併用する場合もある。また狙撃手(スナイパー / sniper)に必要な風や目標、着弾点の情報を報告する観的手(観測手、スポッター / spotter)が狙撃を補助する場合もある。
[編集] 代表的な軍・警察用狙撃銃
- M1C/D - M1ガーランドを狙撃銃へ転用したもの。
- M21 - スプリングフィールド社。M14を狙撃用に改造。オートマチック方式。
- M700・M40 - レミントン社。ボルトアクション方式。民間用の銃を軍用に転用した例で、信頼のおける狙撃銃として定評がある。
- M24 - レミントン社。ボルトアクション方式。
- SR-25 - ナイツアーマーメント社。オートマチック方式。
- M82 - バレットファイアアームズ社。対物狙撃銃。
- モシン・ナガンM1891/30 - 狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフ(Василий Зайцев)の銃として著名。ボルトアクション方式。
- SVDドラグノフ狙撃銃 - オートマチック方式。
- VSS - 消音に徹した特殊な狙撃銃。オートマチック方式。
- トカレフM1940半自動小銃 - 半オートマチック方式。
- Kar98k - 大戦中、特に精度の高いものを選抜。ボルトアクション方式。
- G3SG/1 - H&K社。G3を改造。オートマチック方式。
- MSG-90・PSG-1 - H&K社。オートマチック方式。
- WA2000 - ワルサー社。オートマチック方式。
- R93、R93 Tactical - ブレイザー社。ボルトアクション方式。
- L96A1 - ボルトアクション方式。
- 九七式狙撃銃 - 旧日本軍。三八式歩兵銃を改造。ボルトアクション方式。
- 九九式狙撃銃 - 旧日本軍。九九式小銃を改造。ボルトアクション方式。
- 64式狙撃銃 - 64式小銃に照準器、チークパットを装備。オートマチック方式。
[編集] 狙撃銃としてのアサルトライフル(M16)
- 『ゴルゴ13』でのM16
漫画『ゴルゴ13』の主人公・デューク東郷が主にM16を狙撃に使用するために、日本ではM16が狙撃銃の代名詞との誤解も多いが、実際のM16はアメリカ軍のアサルトライフルである。ゴルゴはM16を用いて長距離射撃や精密射撃を要求する狙撃を実行するが、湾岸戦争(1990年)において「長距離射撃を必要とする砂漠の戦場では砂漠風によりM16から発射された弾が流されて命中しない」との情報が銃関係のホビー誌などで紹介された際に「ゴルゴ13」に言及したことで狙撃銃としてのM16の適格性が疑問視された。
この指摘を受け、『ゴルゴ13』作者であるさいとう・たかをも後に、考証不足であった事を弁明して作中のエピソードでも触れたこともあって、以来「M16はあくまでもアサルトライフルで狙撃銃としては不向き。ゴルゴが使用する設定は不適切」との通説が『ゴルゴ13』読者を中心に広がり、銃マニアにも通説として定着した。なお作中でこの銃は、コピー銃をハンドメイドしていることで有名なパキスタンに実在する都市のダッラにおいて、職人がゴルゴ用に一品物として手造りしたものであるため、正確にはM16に酷似したクローンである。
「ゴルゴはいつもM16を使用する」という通説も広まっているが誤りである。作中では早くから、M16では無理な距離では専用の狙撃銃を使っている描写や、狙撃以外の用途にも幅広く柔軟に対応するためという理由付けなどの、連載開始時の「M16を使用するスナイパー」という設定ミスのフォローがされている(詳細はゴルゴ13 (架空の人物))。
- 狙撃銃としての能力
しかし現実のM16は標的射撃のサービスライフル競技(service rifle=軍用ライフル)において、AR-15(M16の民間版)は600ヤード(約549m)以下の各種目では大口径を抑え常勝しており、1,000ヤード以上も M16の7.62ミリ版とも言えるAR-10がAR-15を抑えるのみである。これらの競技用AR-15は各部をチューンナップしたり、精度が高く薬量も考慮した競技弾を使用するが、市販の競技用 AR15でも通常200ヤード(約183m)で1インチ以内の命中精度はクリアしている。例外的だが、ベンチレスト種目では200ヤードで0.231インチ(約5.8mm)という驚異的な命中精度も記録されている。AR-15がこのように高い精度を実現できるのは、オートマチックでありながら銃身周りを精密射撃用にフローティング加工し、機関からの振動を低減させる事が可能な特有の構造にある。
だがM16が使用する5.56ミリ弾は、口径が小さく弾頭も軽量であり、運動エネルギー量を稼ぐために高速であるものの、風の影響を受け易く命中率が大口径のライフルに較べて低下すると専門家の間で言われていた。しかし実際の検証ではその偏差は600ヤードまでは7.62ミリ弾と互角で、900ヤードでもその差は20%以内である事が証明されている。これらの事はM16の潜在能力の高さを裏付けるものである。
ただM16のように、オートマチックライフルに分類されるアサルトライフルは、スムーズな排莢のために薬室や機関の遊びを大きく取っている、排莢時の振動や機関の回転に影響があるために、狙撃対象や環境に合わせて弾薬の薬量等を適宜調整する事が難しいなどの点が、ボルトアクションライフルに較べて命中精度面での短所となっている。この事は相対的比較であって、狙撃銃としての適格を問うものではないが、より高い精度や信頼性、安定性はボルトアクションや大口径より劣る事は事実である。
[編集] アサルトライフルから派生した狙撃銃
アメリカ軍は特殊部隊用として、M16を軽狙撃/精密射撃任務用にカスタマイズしたSPR Mk12などの特殊目的ライフル(Special Purpose Rifle)や、分隊上級射手用のSAMR(Squad Advanced Marksman Rifle) を開発している。軽狙撃(light sniper)とは、バレットM82など50口径クラスによるものは重狙撃(heavy sniper)とするためにこのように呼ばれる。これらの銃には、通常弾薬であるM855の弾頭重量を77グレイン(4.98g)に増量するなどして、実戦での命中精度向上させたMk262の使用を前提とするが、この弾薬は900ヤードで7.62ミリ弾を凌駕する精度を誇っている。
※注:1ヤード= 0.9144m / 1インチ=2.54cm。900ヤードは約823m。
M16以外にも、H&K G3をベースにした狙撃バリエーションのG3SG/1や派生モデルのMSG-90などのような例も少なくなく、M16と同じ5.56mmx45を使用するアサルトライフル系の狙撃銃には、H&K HK33やSIG SG550をベースにしたHK33SG/1やSG550スナイパーライフルなどが存在している。
[編集] 関連項目
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