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ボストン美術館

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外観
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天心園
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天心園
内部
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内部

ボストン美術館 (Museum of Fine Arts, Boston) は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン市にある、世界有数の規模をもつ美術館である。

館名の英語表記は'Museum of Fine Arts, Boston'であり、'Boston Museum of Fine Arts'ではないことに注意したい。つまり、「ボストン美術館」というよりは「ボストンの美術館」という語感に近い。

ボストン美術館は1870年地元の有志によって設立され、アメリカ独立百周年にあたる1876年に開館した。王室コレクションや大富豪のコレクションが元になった美術館と異なり、ゼロからスタートし、民間の組織として運営されてきたという点は、ニューヨークのメトロポリタン美術館と類似している。所蔵品は50万点を数え、「古代」、「ヨーロッパ」、「アジア、オセアニア、アフリカ」、「アメリカ」、「現代」、「版画、素描、写真」、「染織、衣装」および「楽器」の8部門に分かれる。エジプト美術、フランス印象派絵画などが特に充実している。

ボストン美術館は、仏画絵巻物浮世絵刀剣など日本美術の優品を多数所蔵し、日本との関係が深いことでも知られる。20世紀の初めには、岡倉天心が在職しており、敷地内には彼の名を冠した小さな日本庭園「天心園」が設けられている。

隣接するスクール(the School of the Museum of Fine Arts, 通称the museum school)は美術館と同年の開設。現在ではタフツ大学と連携して学位プログラムを提供している。

2006年7月現在、入場料は大人15USドル。なお、入場時の半券は10日間有効で、再訪時に無料で入館することができる。

目次

[編集] 日本国内にある姉妹館

名古屋ボストン美術館(名古屋市中区金山)は、平成11年(1999)にオープンした、ボストン美術館の正式な姉妹館である。姉妹館契約は20年間となっており、契約満了前に更新するかどうかを検討することになっている。名古屋ボストン美術館自体の所蔵品はなく、特定のテーマに添った美術品をボストン美術館から借り受けて展覧会を実施している。

10年間で37億円と高額の美術品賃貸契約が響き、慢性的な赤字から2009年度での閉館も検討されたが、契約料金の20億円割引や地元政財界による55億円規模の財政支援を受けて2006年3月30日、閉館から一転して存続することが決まった。

この美術館は金山駅前の大型ビルの2フロアを使用して運営されている。開館からしばらくは上のフロアを古代オリエント美術の常設展としていたが、現在ではこれは廃止され、企画展用のスペース「オープンギャラリー」となっている。しかし予算上の制約からか「オープンギャラリー」で開催される企画展はデッサンやドローイング、あるいは地元の作家の作品など、地味なものが多く、「ボストン美術館」の看板との落差は小さくない。

[編集] コレクション概観

収蔵品画像の公開でも先進的な美術館だけあって、そのほとんどを公式サイトから検索・閲覧する[1]ことができる(英文)。その膨大なコレクションを概観するには、名古屋ボストン美術館での企画展を手がかりにするのも便法である。同館は、2006年5月現在で、計14回の展覧会を開催している。

  • 第1回 モネ、ルノワールと印象派の風景
    バルビゾン派からゴーギャンゴッホシニャックまでの風景画。ルノワールの数少ない風景画[2]などの、貴重なコレクションを惜しみなく展示した。
  • 第2回 岡倉天心とボストン美術館
    天心周辺の日本画家の作品と、天心が在職中に収集した東洋美術品。ボストン美術館の中国美術コレクションは、西欧世界では屈指の規模。(天心収集の中国美術品[3]
  • 第3回 母なる大地の声―アメリカ・サウスウェストプエブロ・インディアン
    プエブロ陶器はボストン美術館のネイティブ・アメリカン・コレクション[4]の中核。
  • 第4回 レンズがとらえた20世紀の顔―カーシュ写真展
    カーシュ(en:Yousuf Karsh 1908-2002)はカナダの肖像写真家。ボストン美術館の写真コレクション[5]の歴史は長く、スティーグリッツの自作の寄贈(1924年)に始まる。
  • 第5回 紅茶とヨーロッパ陶磁の流れ―マイセン、セーブルから現代のティー・セットまで
    ボストンはながらく、ヨーロッパ船との交易で財をなしてきた街。かつての富裕層の収集品が数多く寄贈されてきた。(ボストン美術館所蔵のヨーロッパ・デコラティブ・アート[6]
  • 第7回 ミレー展
    ピューリタン文化がかつての富裕層の共通基盤であったアメリカにあって、質素、勤勉、自足をイメージさせるミレー作品の人気は根づよい。ボストンはミレー・ブームの先駆けの地であり、ボストン美術館は本国外では最大規模のコレクションを誇る。ボストンの財はミレー晩年の生活を支えていた。(Wikimedia commons『種まく人』1850年[8]
  • 第8回 時を超えた祈りのかたち―アジアの心、仏教美術展
    ボストン美術館の「目玉」は日本美術であるとともに、東洋美術でもある。地理的にはアジア全域、歴史的には2000年を超えるスパンで秀逸な仏教美術品が収集されている。
  • 第9回 ボストンに愛された印象派
  • 第10回 ドイツ・ルネサンス版画の最高峰―デューラー版画展
    デューラーレンブラントゴヤなどは版画の大家でもある。この分野でもボストン美術館は充実したコレクションを誇る。デューラーを600点所蔵というのは桁外れの規模である。(ボストン美術館所蔵のデューラー版画作品[9]
  • 第11回 ドラクロワからムンクまで―19世紀ヨーロッパ絵画の視点
  • 第12回 レーン・コレクション アメリカンモダニズム―オキーフとその時代
    戦間期のモダニズム時代に活躍していたアメリカ作家の、とくに具象系の作品は、抽象表現主義を消化してすでに久しい今日の目から見た方がかえって新鮮に映る。ボストン美術館にしてはむしろ手薄な領域であったが、1980年代以降、拡張されつつある。(レーン・コレクション[10]
  • 第13回 ボストン美術館の巨匠たち―愛しきひとびと
    ルノワールの代表作中の代表作『ブージヴァルのダンス』[11]は待ち望まれた出品。
  • 第14回 花鳥画の煌き―東洋の精華
    徽宗の『五色鸚鵡図』[12]は、中国に残っていれば国宝指定はほぼ間違いない。1933年、富田幸次郎(後述)が日本で購入した。

[編集] そのほかの主な収蔵品

  • モネ『ラ・ジャポネーズ』[13](1876年)
  • 平治物語絵巻[14](鎌倉時代)
  • 吉備大臣入唐絵巻[15](平安時代)

[編集] ボストン美術館と日本

ボストンは貿易港としてアジア諸国との関係が深かったこともあり、ボストン美術館では早くから中国、日本、インドなどアジア地域の美術の収集に力を入れていた。中でも日本美術のコレクションは、日本国外にあるものとしては質・量ともにもっとも優れたものとして知られている。本項ではボストン美術館の日本美術コレクション形成に貢献した何名かの人物について略説する。

[編集] モース

エドワード・シルヴェスター・モース(1838-1925)は、ボストン郊外のマサチューセッツ州セイラムに住んでいた動物学者であった。モースは日本では大森貝塚の発見者および縄文式土器の名付け親として知られているが、彼の来日目的は考古学の研究ではなく、日本近海に住む腕足類という原始的な海生生物の採集のためであった。1877年、船で横浜に着いた彼は、横浜から東京へ向かう列車の窓から偶然、大森貝塚を発見した。モースは後に貝塚の発掘調査を行い、創立まもない東京帝国大学から発掘報告書を刊行しているが、これが日本考古学史上最初の学術的発掘調査とされている。当初3か月の滞在予定で来日したモースは東京大学の教師となり、前後3回の来日で通算2年半滞在することになった。この間、モースは日本の陶磁器や各種民俗資料の収集に励んだ。彼が日本の陶器を集めるきっかけとなったのは、ある店で自分の研究対象である貝の形をした陶器を見付け、購入したことだったという。知人から、その貝形の陶器は骨董品でも何でもない安物だと聞かされたモースは、一念発起して陶磁器の勉強を始め、日本人をしのぐ目利きになったという。

アメリカに帰国後の1892年、彼は収集した日本陶磁器約5千点をボストン美術館へ譲渡した。これらの陶磁器は、科学者の収集らしく、産地や作風別に系統的に分類され、モース自身がすべての作品についての解説を書いたカタログを著している(陶磁器以外の民俗資料などの収集品はセイラムのピーボディ博物館にある)。モースはアメリカへ帰国後、日本のすばらしさを友人たちに熱心に語り、しきりに日本行きを勧めた。後述するフェノロサとビゲローの来日もモースが仲立ちしたものであった。

[編集] フェノロサ

アーネスト・フェノロサ(1853-1908)は、日本の近代美術史を語る上で忘れてはならない研究者・コレクターである。フェノロサは、モースと同じセイラムに住む知り合い同士であった。東京帝国大学が政治学の教授を捜していることを知ったモースはフェノロサをその職に推薦した。フェノロサは1878年に来日。アメリカで絵を学んだこともあった彼は日本絵画に魅せられ、政治学や哲学の講義のかたわら、日本美術の研究と収集に没頭するようになった。

彼は特に狩野派の絵を高く評価し、東京で生まれた自分の息子にアーネスト・カノーと名付けるほど狩野派に心酔する一方で、南画(文人画)はだめな絵であるとして徹底的に攻撃した。ついには狩野派の画家に入門し、「狩野永探」という画号まで得ている。明治維新後まもない当時の日本では伝統美術は衰微し、軽んじられていたが、フェノロサは著述、講演などを通じて日本美術の優秀性を人々に説いた。また、文部省の依嘱を受けて近畿地方を中心とした社寺の宝物調査を行った。教え子で当時の文部官僚であった岡倉天心とともに法隆寺の秘仏・夢殿観音(救世観音)を調査したことはよく知られている。フェノロサはアメリカへ帰国後、ボストン美術館日本部(のち「東洋部」となる)の初代部長となった。また、日本で収集した「平治物語絵巻」、尾形光琳筆「松島図屏風」などの膨大な美術コレクションを館に寄託した。これらはフェノロサの死後の1911年に正式に館に寄贈された。フェノロサのコレクションを一括して買い取ってボストン美術館へ遺贈したのは、資産家のチャールズ・ゴダード・ウェルド(1857-1911)という人物で、コレクションはウェルドの名を付して「フェノロサ=ウェルド・コレクション」と呼ばれている。

[編集] ビゲロー

医師であったウィリアム・スタージス・ビゲロー(1850-1926)もモースの知り合いで、1882年、モースの3度目の来日に同行して来日した。短期の観光旅行のつもりで来日したビゲローは日本の文化や伝統をこよなく愛し、短期の一時帰国を除けばその後7年も日本に滞在することとなった。和服や日本食を好み、天台宗の三井寺(園城寺)に入門して修行し、「月心」という法名を得ている。また、彼は当時の日本の画家や美術研究者に援助を差し伸べ、岡倉天心の日本美術院創設に際して2万円を寄付するなど、日本の美術界の発展に貢献した。また、奈良時代絵画の貴重な遺品である「法華堂根本曼荼羅」を筆頭に多くの日本の美術品を収集した。1万数千点にのぼる彼のコレクションは、1911年ボストン美術館へ寄贈された。

フェノロサのコレクションが絵画中心であるのに対し、ビゲローのコレクションは幅が広く、金工、漆工、染織、刀剣甲冑なども含まれている。ビゲローの遺骨は遺言により日本にも分骨され、三井寺の法明院にはフェノロサの墓と並んでビゲローの墓が建てられている。

[編集] 岡倉天心と富田幸次郎

岡倉天心(1862-1913)は、東京美術学校(後の東京芸術大学)創設に尽力し、日本美術院を創設して日本画を興すなど、近代日本の美術史研究、美術教育、伝統美術の復興、文化財保護などに多大な貢献をした人物で、英文の著作を通じて日本文化を外国へ紹介することにも尽力した。彼は1904年にボストン美術館へ入り、1910年には東洋部長となった。ボストン美術館には快慶作・弥勒菩薩立像など、天心のコレクションも入っている。

富田幸次郎(1890-1976)は天心の弟子で、10代の時から半世紀以上ボストン美術館に在職し、1931年から1962年までは東洋部長の地位にあって、日米の文化交流に貢献した。日本の絵巻物の代表作である「吉備大臣入唐絵巻」は、1932年、富田を介してボストン美術館に入った。当時の世相下で、富田は日本の貴重な美術品をアメリカに売った「国賊」とののしられた。実はこの絵巻はボストン美術館に入る数年前から日本国内で売りに出ていたものだったが、不況下の日本で買い手がつかないため、ボストン美術館が購入したというのが真相だった。

[編集] 参考文献

  • 「芸術新潮」1992年1月号特集「ボストン美術館の日本」、新潮社
  • 「ボストン美術館所蔵 日本絵画名品展」図録、東京国立博物館・京都国立博物館編集、日本テレビ放送網発行、1983
  • 「ボストン美術館秘蔵 近世日本屏風絵名作展」図録、日本経済新聞社編集・発行、1991

[編集] 外部リンク

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