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プロペラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アメリカ海軍の対潜哨戒機 EP-3EのNo. 4エンジンとそのプロペラ。ねじり下げから、向かって反時計方向に回ることがわかる。根元にはカフスがついている。ターボプロップエンジンの大出力を吸収するためにブレードの幅が広い。
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アメリカ海軍対潜哨戒機 EP-3EのNo. 4エンジンとそのプロペラ。ねじり下げから、向かって反時計方向に回ることがわかる。根元にはカフスがついている。ターボプロップエンジンの大出力を吸収するためにブレードの幅が広い。

プロペラ (propeller) とは、飛行機などにおいて、エンジンの出力を推進力へと変換するための装置。揚力を得るための複数枚のブレード羽根)・ブレードを支持するとともにシャフトからの出力を伝えるハブ・その他の部品(回転数を制御するガバナなど)によって構成される。

迎え角を周期的に変化させることが前提であるヘリコプターのローターとは、ブレードの構造など似ている部分もあるが、ピッチ関係では異なる点も多い。船の場合は一般にはスクリューと呼ばれるが、業界用語としてはプロペラである。同じ形状でも送風、排気などの目的の場合はファンと呼ばれることが多いが厳密な区分はない。プロペラの回転数を上げることで推力も上げることができるが後述のように空気中でも水中でも限界がある。

目次

[編集] 理論

地上で静止しているときは、プロペラが感じる速度は回転速度だけである。しかし飛行中には、回転速度と飛行速度とをベクトル的に合成したものになる。

[編集] ねじり下げ

回転中のブレードの流れに対する相対速度は、先端ほど大きい。揚力を効率よく発生させるために、先端に行くほど各翼素の回転中の迎え角が小さくなるよう、ねじり下げがつけられている。

[編集] 飛行機のプロペラ

レシプロエンジン(ピストンエンジン)かターボプロップエンジンに取りつけて使用される(プロップ (prop) はプロペラ (propeller) のこと)。

[編集] 歴史

第二次世界大戦中の1942年11月9日にフェロー諸島で墜落した、イギリス空軍所属機のプロペラ。
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第二次世界大戦中の1942年11月9日にフェロー諸島で墜落した、イギリス空軍所属機のプロペラ。

ジェットエンジン登場以前、飛行機の推進装置はレシプロエンジンとプロペラの組み合わせが一般的だった。2度の世界大戦を経て航空技術が大きく発展し機体の速度が大きくなると、飛行速度と回転速度の合成であるプロペラの対気速度、特に先端での速度が音速に近づき始めた(遷音速領域)。ブレードの一部が音速を超えると衝撃波が発生し、効率が大きく低下する。そこで、プロペラ先端での合成速度が遷音速になるような飛行速度以上での飛行には、プロペラでなくジェットエンジンを使うのが一般的となっている。ジェットエンジンは空気取り入れ口でいったん気流の速さを音速以下に下げるため、ファンやコンプレッサブレード先端(の合成速度)が超音速となって効率が悪化することはない。

第一次世界大戦時の戦闘機 フォッカーDr.Iのプロペラ。木製でハブとブレードが一体となった固定ピッチ。エンジンの出力が小さく、ブレードは2枚しかなかった。
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第一次世界大戦時の戦闘機 フォッカーDr.Iのプロペラ。木製でハブとブレードが一体となった固定ピッチ。エンジンの出力が小さく、ブレードは2枚しかなかった。
日本が戦後唯一製作した旅客機のYS-11のプロペラ。材質には零戦で使用したものと同じものが使用されているという。運動性や安定性を考慮し、ターボプロップ双発型の旅客機としては当時としてもかなり大きめのプロペラを採用している。
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日本が戦後唯一製作した旅客機のYS-11のプロペラ。材質には零戦で使用したものと同じものが使用されているという。運動性や安定性を考慮し、ターボプロップ双発型の旅客機としては当時としてもかなり大きめのプロペラを採用している。

[編集] 種類

大きくピッチが固定のものとピッチを変えられるもの(可変ピッチプロペラ)とに分けられる。可変ピッチのものでも、ピッチの切り替えを手動で行うものと、状態に合わせて自動的にピッチ調節がなされるものとがある。

固定ピッチプロペラ 
ブレードのピッチが固定されたもの。木製や初期のアルミ合金製のものなど。
選択ピッチプロペラ 
離陸時(低ピッチ)と巡航時(高ピッチ)の2段階や、多段階にピッチを切り替えられるようなもの。
定速プロペラ 
ピッチでなく回転数を選択するもの。ピッチの調節は、回転数を保持するように自動的に行われる(プロペラガバナ(調速機)による)。選択した回転数(回転速度)を一定に保つので「定速」と呼ばれる。

可変ピッチプロペラの中には次のような機能を備えたものもある。

リバースピッチ 
負の迎え角にすることで逆向きの揚力(つまり後ろ向きの推力)を発生させる機能。着陸直後にピッチをリバースにすることで着陸滑走距離を短縮できる。ジェットエンジンにおけるスラストリバーサと同様の機能。
フェザリング 
フルフェザーとも。エンジンが故障で停止したときや地上係留中など、プロペラが回転しない状態での空気抵抗を最小にするために、風とブレード面をほぼ平行に(迎え角がゼロ揚力角となるように)して固定する機能。

[編集] ブレード

[編集] 材料

初期の固定ピッチプロペラでは中実の木製だった。その後アルミニウム合金鍛造したもの(中実)が主流となり、一部には製の中空ブレードも存在した。複合材料の発展にともなって繊維強化プラスチックなどが使用されてきている。

第二次世界大戦時の戦闘機 スピットファイアMk. IX(マーク9)のプロペラ。ブレードは4枚だった。
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第二次世界大戦時の戦闘機 スピットファイアMk. IX(マーク9)のプロペラ。ブレードは4枚だった。
Mk. XIV(マーク14)ではエンジンの出力増大に合わせて5枚となった。更に後期のモデル(シーファイア)では3枚×2 = 6枚の2重反転プロペラとなる。
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Mk. XIV(マーク14)ではエンジンの出力増大に合わせて5枚となった。更に後期のモデル(シーファイア)では3枚×2 = 6枚の2重反転プロペラとなる。

[編集] 形状

誘導抗力を低減し、効率よく揚力を得るためにアスペクト比が大きい細長い翼形状となっているものが多い。大出力エンジン用のプロペラの場合、ソリディティを大きく取るため幅の広い(コードの長い)ものや、衝撃波の発生を遅らせるために後退角を付けたものも見られる。

根元付近は回転速度が遅く揚力が小さく(揚力は速度の2乗に比例する)、それよりも曲げやねじりのモーメントや遠心力(いずれも根元ほど大きい)に耐えることが要求されるため、断面形状は円形に近いことが多い。ただし、根元にはカフスと呼ばれる整形用の覆いを取りつけることもある。

[編集] 枚数

基本的に、プロペラブレードの枚数はエンジンの出力によって決まる。低出力のエンジンには少ない枚数の、大出力エンジンには多数のブレードをもつプロペラが装備される。特に大出力のエンジンに対しては2重反転プロペラを使用することもある。

だいたいの目安としては: 現代の小型機(いわゆるセスナ機)のエンジンは200馬力以下のレシプロエンジンであり、2 - 3枚程度。10人乗り程度の中型機(低出力ターボプロップ)や第二次世界大戦時の戦闘機(大出力レシプロエンジン)など1,000馬力クラスでは3 - 4枚程度。旅客機や爆撃機(ターボプロップや星形大出力レシプロエンジン)など2,000馬力を超えるようなものに対しては4枚以上。

[編集] 防氷・除氷

プロペラに限らず、気温の低い高空を飛行するために、飛行機の機体前面には氷が張ることがある。プロペラの場合、ブレード表面、特に前縁付近に氷が張ると翼型が変わってしまい効率低下や振動の原因となる。ブレード外側(先端側)では遠心力が強いために氷は小さいうちに吹き飛ばされるが、内側では大きく成長しうる。そこで、ブレード内側には防氷・除氷用のブーツを取りつけることがある。多くは電熱線を利用した方式で、電力はスリップリングを通して供給される。他に薬品や加熱空気を用いる方式もある。

星形エンジンに取りつけられたプロペラ。スピナは無いか、取り外されていて、ハブが剥き出しになっている。
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星形エンジンに取りつけられたプロペラ。スピナは無いか、取り外されていて、ハブが剥き出しになっている。

[編集] ハブ

ブレードを保持し、エンジンからシャフトや減速ギアを通して伝えられた出力をブレードへと伝えるのがハブの基本的な役割である。回転中のプロペラの遠心力に耐える強度が必要とされる。木製固定ピッチプロペラの場合、ハブとブレードは明確に区別できないようなものもある(合板を張り合わせたものを削って成型したようなもの)が、可変ピッチプロペラの場合はハブ内部にピッチ変更機構を内蔵していることが多い。第二次世界大戦時の戦闘機には、プロペラシャフトとハブを通して機関砲を発射するものもあった。

ハブにはスピナ(スピナー、スピンナとも)と呼ばれる円錐状やドーム状の覆いが被せられることが多い。スピナの目的はハブの保護と、エンジンへ流入する空気流を乱さないことなどとされる。


[編集] 船のプロペラ

船のプロペラ
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船のプロペラ

スクリューとも呼ばれる船のプロペラは、形状が楕円、あるいは扇形に近く飛行機のプロペラに比べて面積が広い。金属製でブレードは2枚以上が用いられる。小型船では枚数が少なく、大型船では多い傾向にある。一般には舵の効きを良くするため舵の前に設置される。飛行機では必ずしも必須ではないが、船のプロペラは後進が要求される。一般に推進軸を逆回転させることで対応するが、ギアの関係で逆回転ができない場合は可変ピッチプロペラを採用し、プロペラピッチの変更で対応する。

可変ピッチプロペラの例。回転機構が内蔵されるため可変ピッチプロペラのプロペラボスは径が太く推進効率が多少下がるとされている。
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可変ピッチプロペラの例。回転機構が内蔵されるため可変ピッチプロペラのプロペラボスは径が太く推進効率が多少下がるとされている。

プロペラの回転速度が上がると、気泡が生じるキャビテーションという現象が起きて効率が悪化する。このため大面積のプロペラを低回転で使用する場合に効率が良いとされる。燃費を重視する貨物船では二重反転プロペラの採用などの工夫が行われる。客船ではプロペラと電動機をポッドに装備するポッド推進の採用例がある。ポッド自体を回転させる事でシャフトを廃し舵と後進の問題を解決する。

水中速力30ノット超の原子力潜水艦などではブレード枚数が7枚と多く、個々の翼は細長くて面積が小さく翼の後退角が大きいスキュード・プロペラと呼ばれるプロペラが採用されている。ハイ・スキューと呼ばれるプロペラでは後退角が連続変化する複雑な曲線で構成されている。さらに近年ではプロペラの周りをダクトで覆うポンプ・ジェットと呼ばれる推進方式の採用例がある。水中翼船など、より高速を得ようとする船舶ではウォータージェット推進が用いられる。さらにホバークラフトでは飛行機のプロペラと似たような空中のプロペラ(ダクテッドファン)を用いる。

船でエンジンとプロペラを結ぶ軸をプロペラシャフトという。端に自在継手があって軸が斜め、あるいは少しずれていても動力を伝達できる。プロペラを駆動するわけではないが自動車における同等の部品もプロペラシャフトと呼ばれる。これは英単語propellerが広義には「推進させるもの」を意味するからである。

[編集] 関連項目

Wikimedia Commons
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