フルメタル・ジャケット
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『フルメタル・ジャケット』(Full Metal Jacket)は1987年のアメリカ映画で、ベトナム戦争を題材にした戦争映画である。監督はスタンリー・キューブリック。
原作はグスタフ・ハスフォードの小説『ショート・タイマーズ』(用語の意義としては『短期現役兵』、『徴兵』、邦訳『フルメタル・ジャケット』、意味は『被覆鋼弾』=弾体の鉛を銅と亜鉛の合金=真鍮で覆った軍用の通常弾のことである。詳しくは弾丸の記事を参照のこと)。戦争における人間の狂気を描いた作品。訓練教官をリー・アーメイが好演している。日本での公開は1988年3月。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 概要
本作の前半部では海兵隊の訓練キャンプ、後半部では戦場が舞台となる。ベトナム戦争時、アメリカ海兵隊に志願した普通の青年たちは訓練で徹底的にシゴかれ、兵士となり戦場に赴くこととなる。その教練課程を、鬼軍曹ハートマンからの叱責、連帯責任による懲罰、集団リンチなど軍部内での出来事を通して描く。それは徹底した言葉による辱めにより、一人の人間を完全に否定し叩き壊し、海兵隊員という鋳型にはめ込み作り変える作業であった。こうして人格崩壊ギリギリまで追い詰められた若者自身が兵器と化し、戦場に送り込まれてゆく…しかし、中には出征前に人格が崩壊する者も…。
訓練を修了した彼らがベトナムの戦場で待ち受けるものとは。若いアメリカ兵は、戦場で自分たちが戦っている相手の正体を目撃することになる。
戦争を華麗に扱わない、全てが壊れ狂ってゆく内容により、同様のベトナム戦争を題材にした映画群とは異なる趣を持つ。
[編集] スタッフ
- 監督:スタンリー・キューブリック
- 音楽:アビゲール・ミード キューブリックの娘。
[編集] キャスト
- J.T.デイヴィス(ジョーカー):マシュー・モディーン
- レナード・ローレンス(微笑みデブ ゴーマー・パイル):ヴィンセント・ドノフリオ
- ハートマン軍曹:リー・アーメイ
- エヴァンズ(カウボーイ):アーリス・ハワード
- アダム・ボールドウィン
[編集] 劇中で使われている音楽
- サーフィン・バード - The Trashmen
- 黒くぬれ - ザ・ローリングストーンズ
- ミッキーマウスマーチ
- ウーリー・ブーリー - サム・ザ・シャム・アンド・ザ・ファラオス
- Hello Vietnam - Johnny Wright (OPの散髪のシーンに使用)
[編集] 劇中で用いられるスラング
- PT(しごく)…Physical Training
[編集] ハートマン軍曹
ハートマン軍曹(ハートマンぐんそう、Gunnery Sergeant Hartman)は、スタンリー・キューブリックの映画『フルメタル・ジャケット』に登場する海兵隊訓練所の鬼の訓練教官を務める軍曹。当初、訓練教官役の人物に演技指導をする予定だったリー・アーメイが演じた。なお原作小説では登場人物の名前の異なるものが多く、ハートマンも「ガーハイム砲兵軍曹」である。
劇中で訓練生へのシゴキの際に数多くの印象的な台詞を披露したため、世界中に熱狂的なファンが存在する。特に行軍訓練における歌・台詞は日本でもファミコンウォーズのCMや野球の応援歌で使われ有名である。
[編集] 補足
- 訓練中に歌っている歌はmilitary cadence (en), cadence call または running cadence と言う。
- 訓練教官ハートマン軍曹が、躊躇なく罵詈雑言を機関銃のごとく放ちまくる。本来、ハートマン軍曹役のリー・アーメイは演技指導として招かれ、演技には別の役者があたる予定だったが、アーメイのあまりの罵詈雑言の迫力に、急遽本人が出演することとなった。
- 当初本作の翻訳は通常の翻訳者(戸田奈津子ともいわれている)が担当したが、作中の問題発言を柔らかめの表現で翻訳したため、その再英訳(キューブリックの場合、字幕作成の際は必ずその現地語訳を再英訳させてチェックする)を読んだキューブリックが拒否。急遽、当時ハリウッド在住だった原田眞人が意訳で再翻訳し、ようやくキューブリックの許可を得ることができた。例えば「BORN TO KILL」を直訳の「殺す為に生まれてきた」ではなく「見敵必殺」または「生来必殺」等と翻訳している。その後原田は後のキューブリック作品の映画公開およびビデオの新規リリース(「時計じかけのオレンジ」等)の翻訳のほとんどを手がけることになった。
- 前半の訓練キャンプ描写の方が評判となり話題にされやすいが、原作小説では全体の1/5程度を占める部分にすぎない。
- 徹底的にリアルにこだわったキューブリック監督だったが、なぜか後半で使用するM16はMGC(日本のモデルガンメーカー。現在は倒産廃業)製のモデルガンである。
- 実在の殺人鬼や殺人犯の技量を賛美する台詞がある。「チャールズ・ホイットマンは500ヤードの距離で柱の陰の男を撃ち抜いた。リー・ハーヴェイ・オズワルドは250フィートの距離の(自動車で)移動する目標に6秒で3発の弾丸を発射し、内2発を(ジョン・F・ケネディ大統領の)頭に命中させた。あいつらはどこで射撃を習った? もちろん海兵隊だ!」
- 2005年現在、実際の訓練最中に用いられる罵詈雑言の類は時代の流れに従い本作を凌ぐ過激なものになっている。これらの罵声と下品な歌は、新兵たちの入隊前の人格や社会的地位に関係なく、全員を一旦役立たずの最低レベルの存在に貶め、そこから一人前の海兵隊員に作り変えることを目的としている。
[編集] 外部リンク
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