パラシュート
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パラシュートとは、傘のような形状で空気の力を受けて速度を制御するもの。落下傘(らっかさん)とも呼ばれる。
パラシュート(parachute)は、フランス語の2つの単語、'para'(守る)と'chute'(落ちる)を組み合わせた言葉である。
飛行する航空機などの高所から、地上に向けて落下着地や、海上に向けて落下着水するときに使用する。
初期のパラシュートは、絹製であったが、現在ではナイロンなどの化学繊維製である。
ドラッグレースやスペースシャトル、戦闘機の減速などにも同様の形状のものが用いられているが、これらは減速のみに用いるため、ドラグシュートと呼ばれる。
[編集] 歴史
パラシュートのような道具については中世から、いくつかの記録が残っている。852年にアンダルシアのアルメン・ファーマン(Armen Firman)がスペインのコルドバの塔から、木枠で補強した外套を使って飛び降り、軽傷だけで無事着地したという。1178年にあるイスラム教徒がコンスタンティノポリスの塔から同じように飛び降りたとしているが、重傷を負い、その怪我が元で死んでしまっている。
レオナルド・ダ・ヴィンチが1485年ごろにミラノで書き留めたパラシュートのスケッチが残っており、パラシュートを発明したとする説が多い。しかし、歴史家のリン・ホワイトによると1470年ごろにイタリアで無名の人物によって書かれたと推定される書類に2つのパラシュートの図面が残されており、そのうちの1つはダ・ヴィンチのそれに類似している。1617年にヴェネツィアでクロアチア人の発明家、ファウスト・ヴランチッチ(Faust Vrančić)が、ダ・ヴィンチのパラシュートを作成し、実験を行っている。
その後、必要性がなかったため長らく忘れ去られていたが、1783年にフランス人のセバスチャン・レノーマン(Sebastien Lenormand)がパラシュートを再発明し、彼の手によってパラシュートという名前が提案され、定着することになる。2年後の1785年、ジャン・ピエール・ブランチャー(Jean Pierre Blanchard)がパラシュートを使えば、熱気球から安全に飛び降りられることを実験で証明した。実験は犬を使って行われたが1793年にブランチャー本人が搭乗していた熱気球が破裂した際に、実際に自分で試すことになり、無事脱出に成功している。
この頃のパラシュートは木枠の上にリネンを張ったものが使われており、重くかさばり、実用性に乏しいものであった。1790年代にブランチャーはより軽く強靭な絹布で試作を始めた。1797年にアンドリュー・ガーナリン(Andrew Garnerin)が新しい絹製のパラシュートで降下を行っている。また、ガーナリンは、パラシュートに排気弁を取り付け安定した降下を行えるよう再設計している。1890年にポール・レッテマン(Paul Letteman)とカチェン・ポーラス(Kathchen Paulu)が背負い型のパラシュートを発明した。
1912年3月1日、アメリカ陸軍の大尉、アルバート・ベリーがミズーリ州上空で初めて飛行機からのパラシュートを使用しての降下を行っている。1913年にスロヴァキア人のステファン・バニッチ(Štefan Banič)が初めて近代的なパラシュートの特許を取得している。