ハインケルHe162
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ハインケルHe162(ザラマンダー)はドイツのハインケル社が第二次大戦末期に投入した小型ジェット戦闘機。
BMW社製のターボジェットエンジン1基を胴体上部のナセル内に設置し、生産ラインを簡略化するため、主翼などは合板製であった。装備は20mm機関砲2門。敗戦までに275機が製作された。
なお、一般には「ザラマンダー(サラマンダー)」の名で知られるが、正式な名称は「シュパッツ(Spatz;スズメ)」である。
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[編集] 開発
大戦末期、Me262でジェット戦闘機を実用化したドイツは、戦況が逼迫するに伴ない、国民戦闘機(フォルクスイェーガー)計画を実施。1944年9月、連合軍に制空権を奪われてゆく中で空軍省は航空機メーカー各社に対し、「簡単な機体構造、容易な操縦、連合国の機体を上まわる高速性」という無茶な要求を指示した。
殆どのメーカーはこの指示を満たす事は無理だと回答したが、ブローム・ウント・フォス社とハインケル社が設計を提示。提示された2つの計画書のうち、設計がすぐれ、又、九日という異常な速度で生産計画を提出したハインケル社の仕様が採用され、He162として1944年6月に開発が始められた。同年12月6日には初飛行を行なうという驚異的な速度で開発は進み、1945年2月には、本機で構成された航空団が組織されるまでになっていた。
ハインケルは、世界初のジェット機He178を開発し、やはり初のジェット戦闘機He280の開発にも成功していながら、当局からは冷遇された過去があり、この計画に対しては異常な程の意気込みで取り組んでいた事がうかがわれる。
パイロット不足や、燃料不足に悩まされながらも一部実戦投入もされ、タイフーン戦闘機を撃墜した記録も残している。なお、計画では本機を装備した航空団のパイロットにはグライダーで訓練を受けたヒトラーユーゲントが当てられる予定であったが、未経験者に形ばかりの訓練を施して最新のジェット戦闘機を操縦させようという無謀な計画はまさに驚異であり、実現していれば事故が続出して多数の死傷者が出ていた可能性がある。
He 162は、アブ・ノーマルな機体設計とあまりにも急ぎすぎた実戦配備が災いして操縦が難しく、国民戦闘機とは名ばかりでベテランパイロットでも手に余る飛行機だった。パイロットには「安定性が極めて悪い為、絶えず操縦桿で補正しなければならず、急激な機動は全く不可能」と酷評された。
しかし、空軍総司令官ヘルマン・ゲーリング国家元帥は、この現実を無視した無謀な計画を危惧し、より確実なメッサーシュミットMe262の生産促進を主張する戦闘機隊総監アドルフ・ガーランド中将の意見を退けた。ゲーリングとの対立はガーランドが罷免される一因ともなった。
[編集] 派生型
- He 162A-0:プロトタイプ。エンジンはBMW 003A-1
- He 162A-1:初期生産型。
- He 162A-2:機体形状を変更した型。
- He 162A-3:武装を30mm機関砲に変更、重武装化。計画のみ。
- He 162A-6:機体強度を強化。武装はA-3型に同じ。計画のみ。
- He 162A-8:胴体を延長し、燃料タンクを大型化。計画のみ。
[編集] スペック (He 162A-1)
- 乗員:1名
- 全長:9.05m
- 全幅:7.2m
- 全高:2.6m
- 翼面積:11.20m2
- 自重:2,050kg
- 最大重量:2,700kg
- エンジン:BMW 003E-1 ターボジェットエンジン 1基
- 推力:800Kg×1基
- 最高速度:840km/h
- 航続距離:600km
- 上昇限度:12,000m
- 武装:MK108 30mm機関砲 ×2、またはMG151/20 20mm機関砲 ×2