ディストピア
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ディストピア(Dystopia)とは、デストピアあるいはアンチユートピアとも呼ばれ、理想郷ユートピアの正反対の社会である。極端な管理社会で、基本的な人権を抑圧するという社会として描かれることが多い。SF小説などでしばしば題材にされる。
ディストピア文学のはしりはH・G・ウェルズの『タイム・マシン』(1895年)や『モダン・ユートピア』(1905年)あたりとなろうが、実際に急増するのは1920年代、ソビエト連邦が誕生し、西欧では各国で全体主義が勃興するころである。
ただし、(そもそもトマス・モアの『ユートピア』が典型的であるが)16世紀以来ヨーロッパで書き継がれてきたユートピア文学に出てくる様々な「理想郷」の多くが全体主義的、共産主義的、管理社会的で、今読めばディストピアとしか思えない社会が非常に多く描かれている。
理性が統制する社会を楽観的に描き、非理性や感情が支配する現実の社会を批判してきたユートピア文学の書き手が、現実に社会が理性や科学で統制され始めた20世紀に入ってもはや楽観的ではいられなくなり、従来の『ユートピア』を逆転してディストピアとして描くようになったと思われる。
19世紀という啓蒙の時代の反動が、SF小説の始まりと共に20世紀に現れたとも言えよう。なお、多くのディストピアにおいて、ダーウィン主義や社会進化論をベースにした「ヒト」そのものの変革が主題の一つとなっているが、これは理性信仰・科学技術信仰を基にした19世紀の進歩史観が20世紀になり強く懐疑視されるようになったものとも考えられる。
ディストピア文学もユートピア文学同様、架空の社会を描写することを通じて(架空社会を鏡にして)、現在の社会を批判することが主眼である。ディストピア文学はユートピア文学の一形態である。
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[編集] ディストピアの特徴
一見すると平等で秩序正しい理想的な社会だが、徹底的な管理・統制により自由が奪われた社会。自らの政治体制をプロパガンダで「理想社会」に見せかけ住民を洗脳し、この体制に反抗する者には治安組織が制裁を加え社会から排除する(粛清)。
[編集] ディストピアを扱った作品
[編集] 小説
- ハーバート・ジョージ・ウェルズ『モダン・ユートピア』
- ハーバート・ジョージ・ウェルズ『タイム・マシン』
- ハーバート・ジョージ・ウェルズ『解放された世界』
- エヴゲーニイ・ザミャーチン『われら』
- フィリップ・K・ディック『偶然世界(太陽クイズ)』
- オルダス・ハクスリー『素晴らしき新世界』
- エルンスト・ユンガー『ヘリオーポリス』
- レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
- ジョージ・オーウェル『1984年』
- アントニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』『見込みない種子』
- K・W・ジーター『ドクター・アダー』
- ジャック・ウォマック『ヒーザーン』『テラプレーン』
- テリー・ビッスンNext
- ジェイムズ・モロウ City of Truth
- ウラジーミル・ナボコフ『ベンド・シニスター』
- マーガレット・アトウッド『侍女の物語』
- ロイス・ローリー 『ザ・ギバー ― 記憶を伝える者』
- 星新一『白い服の男』『生活維持省』
- 沼正三『家畜人ヤプー』(読者の資質によってはユートピアともとれる両面的な作品)
[編集] コミック
- アラン・ムーア、デイヴィッド・ロイド(共著)『Vフォー・ヴェンデッタ』
- 加藤伸吉・杉元伶一『国民クイズ』
- 浦沢直樹『20世紀少年』
- 徳弘正也『 狂四郎2030』 『近未来不老不死伝説 バンパイア』