ジダンの頭突き問題
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ジダンの頭突き問題(-ずつ-もんだい)は、2006年7月9日にベルリン・オリンピアシュタディオンで行われた2006 FIFAワールドカップの決勝戦(イタリア代表対フランス代表)における出来事をめぐる問題である。フランス代表のジネディーヌ・ジダンがイタリア代表のマルコ・マテラッツィに対して頭突きをしたことにより退場になった。
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[編集] 経緯
当初、その背景にはアルジェリア移民2世であるジダン自身への人種差別によるものや、のちにマテラッツィがジダンの家族を侮辱したことが原因であるとも言われたが、同年9月5日のイタリアの新聞、ガゼッタ・デロ・スポルトのインタビューでマテラッツィが「ユニホームよりもお前の姉妹(sister)の方が欲しい」とジダン側に言ったと明かした。マテラッツィ側は同時に「良くない言葉ではあると思うが、選手のほとんどはこう言った言葉を発しているものである。しかしジダンに姉か妹がいるとは知らなかった(この場合は姉の方)」とも答えた。
またこの判定が主審や副審ではなく第4の審判からの指摘により下されたが、その際に一部メディアからビデオ判定によるものとの報道をされたたため、その真意も含めて判定自体に問題があるのではないかと言われている。その後、主審は「自分では直接見ておらず、副審の手助けがなければ判定を下せなかった」ことを認めた。 なおマテラッツィは「先にジダン側が侮辱発言をした」とも語っている。
[編集] 解説
[編集] フランス代表の決勝までのいきさつ
この大会を最後にサッカー選手としての現役引退を表明していたジダンは、グループリーグのトーゴ戦で出場停止になるなど不調に陥っていた。しかし決勝トーナメントでは強豪のスペインからロスタイムで得点をあげると、続く準々決勝では優勝の大本命といわれたブラジルに対して、ティエリ・アンリのゴールをアシストして快挙に一役を担うなど、試合を重ねるにつれ往年の輝きを取り戻していった。
この活躍に他の選手たちも、2004年に一度は代表引退を宣言したものの、低迷するチームを救うべく他の選手とともに復帰したジダンを1試合でも多く戦えるようにしようと団結していった。そして準決勝でポルトガル代表戦では33分にゴールをあげ、自身にとっても、またチームにとっても2大会ぶり2度目となる優勝まであと一歩まで迫ることとなった。
[編集] 決勝戦
イタリアとの対戦となったこの試合は、同時にジダンにとって現役最後の試合となった。この晴れ舞台を飾るように試合は動いた。
7分にペナルティキックのチャンスを得たフランスは、ジダンにキックを任せ、見事に成功した(この試合でのPKのきっかけとなったファウルはマテラッツィであった)。この大会ではそれまで、失点はオウンゴールのみであった相手から早い時間帯にゴールを奪ったことで、試合はフランス有利にいくかと思われたが、19分にマテラッツィのゴールでイタリアが同点にすると、その後は固い守備を誇るチームのゴールマウスを捕らえることなく、試合は延長戦にまでもつれることとなった。延長後半5分にジダンがマテラッツィに頭突きをして退場、数的有利となったイタリアがPK戦で5-3で勝利し6大会ぶり4度目の優勝となった。
[編集] 人種差別に対する取り組み
この大会では開催前、あるアフリカ系の選手に対する人種に基づく差別が問題視されていた。そこで国際サッカー連盟(FIFA)は準々決勝を行うにあたり、試合開始前のセレモニーで各チームのキャプテンがそれぞれ人種差別に反対することを宣言する文章をグラウンドで読み上げることを行っていた。
[編集] その後の顛末
この試合で退場処分となったジダンであったが、記者による投票でMVPにあたるゴールデンボール賞を受賞することになった。投票が決勝戦前から受け付けられていたのもひとつの要因であった。しかしながら、決勝での言葉による挑発に対して頭突きで反撃するという行動は許されないものであったので、FIFAのブラッター会長から授賞を再考する可能性を示唆する発言があった。FIFAによる事情聴取の後、ジダンには出場停止3試合と罰金7500スイスフラン(約71万2500円、2006年7月当時のレート。)マテラッツィに同2試合と5000スイスフラン(約47万5000円)が科された。しかし人種差別発言は両者とも否定したため、問題からはずされた。今回、マテラッツィが真相を語り、「姉の存在等のことは何も知らなかった」「この問題に巻き込んでしまったジダンのお姉さんに謝りたい」と答えている。また、この頭突きのペナルティとしてのMVP剥奪の可能性に対して、マテラッツィは「彼は偉大なサッカー選手であり、尊敬している。今回のMVPもそれに値するプレイをしていると思うので、MVP剥奪は好ましくない」とインタビューにて語っている。
しかしその反面、マテラッツイは「ジダンとの握手は時期尚早である」と語っている。また「ジダン側の謝罪も待っている」とも語っている。
[編集] この問題についての議論
当初、一部メディアが頭突きの原因はマテラッツィの差別発言(「ハゲ」と言われたからとのこと)によるものと報道したため、サッカー界にはびこる人種差別主義に対しての議論が盛んに行われたが、ジダン本人、マテラッツィ本人、及びジダンに発言の内容を聞いたフランス代表のリリアン・テュラムなどが差別発言については否定したため、議論は侮辱発言そのものの是非についてに移行した。 2004年に開催されたEURO2004において、イタリア代表トッティがデンマーク代表ポウルセンに試合中過剰な挑発行為を受け、ポウルセンの顔に唾を吐いたとして3試合の出場停止処分を受けたが、この際挑発した側であるポウルセンには何らペナルティは課されなかった。また、サッカーのみならず、スポーツ界において、言葉での挑発は日常茶飯事とも言えるため、挑発した側まで処分を課されたFIFAの裁定は大いに議論を呼んだ。この裁定により、今後試合中の挑発行為は駆逐されていくのか、それとも今回だけの判断に留まるのか、その後の動向が注目されている。
[編集] 備考
- インターネット上では、ジダンの頭突きが題材となったゲームが多数作られ、話題となる。
- 中国人がジダンの頭突きシーンを用いたイラストを商標登録し、話題となる。またこの中国人は、ジダンの頭突きをモチーフに作成した木製の像も限定販売して、話題となる(ヤフーニュースでも発表されていた)。
- フランスではジダンの頭突きをネタにした楽曲『Coup de Boule』(歌:La Plage、邦題:『頭突きdeジダンだ!?~ヘッド・バッド・ダンス』)が販売され、フランス国内のダウンロードチャートで1位を獲得するなど話題となる(フランス人が作成したらしく、歌詞の内容はジダンの頭突きを擁護するものであった)。
[編集] 和解
マテラッツィはイタリア紙にジダンの姉を侮辱する発言が発端になった真相を明かし、自身の自宅にジダンを招待し、その席で和解を求める構えでいると伝えた。またFIFAのブラッター会長も2人の和解を希望、南アフリカのロベン島(同国のアパルトヘイト政策で政治犯が収容された地)で2人を再会させるという構想を持っているといわれる。
[編集] その他
- マテラッツィはこの頭突き問題のジョーク本を執筆することが明らかになった。しかし、ジダンはこれに対して不快感を示し、「本を受け取る気はない」と回答している。
- イタリア代表MFガットゥーゾが大会後、「(あの頭突きがなければ)W杯決勝の試合後に、ジダンのためにピッチ上で引退セレモニーを計画していた。」と明かした。