のび太と雲の王国
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『のび太と雲の王国』(のびたとくものおうこく)は1992年3月7日に公開された ドラえもん・大長編ドラえもんシリーズの映画第13作目。
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[編集] 概説
シリーズで初めて、ドラえもんが故障してしまうという危機的状況が描かれた。ドラえもんは故障してしまうと、目が★になったり#になったりしてしまい、台詞があやふやになり、口も変形する。また、体をのび太にさわられると、「H!」と反応してしまう。このドラえもんを見てショックを受けた人も多いだろう。この後の映画版(大長編)でも何度かドラえもんが故障する事があるが(次作『のび太とブリキの迷宮』、『のび太のねじ巻き都市冒険記』など)、1エピソード中に2回も故障したのは本作のみである。
『のび太の日本誕生』同様、OP前のプロローグにはのび太達が登場せず、どこからともなく「ドラえも~ん!」の叫びが聞こえてOPに移る。
作中、雲がジャイアンとスネ夫の顔になる描写があるが、これは当時のED「青空っていいな」にも似たような描写がある。
原作、製作総指揮、脚本は藤子・F・不二雄。但し『コロコロコミック』連載時は、藤子・F・不二雄の体調不良のため、ラスト2回が描かれず、藤子プロによる絵物語として掲載されるという異例の事態となった。その後の1994年3月、「ドラえもんクラブ」に完結篇が掲載され、映画上映から2年を経て本映画の原作は正式に完結を迎えた(このため、大長編ドラえもんシリーズの単行本は、次回作『のび太とブリキの迷宮』のそれよりも後の発売となった)。ちなみに、その絵物語と映画版とでは結末が異なり、原作の完結篇に映画版が採用されたことにはスタッフ一同大変喜んだという。また主題歌の「雲がゆくのは・・・」も評価が高い。
配給収入16億8000万円。
同時上映は「21エモン 宇宙いけ!裸足のプリンセス」、「トキメキソーラーくるまによん(前面にドラえもんの顔をあしらったソーラーカーを扱ったショートフィルム)」
同時上映に関連してか、同作品には「ソーラーカー」が登場する。
1985年にテレビ朝日で放送されたテレビアニメ「ドンジャラ村のホイ」と関係がある。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 物語の舞台
- 天上世界(天上連邦)
- 12の州から成り立つ架空の連邦国家。首都は中央州中央市。宇宙との交流が盛んであり、ドラえもん達が訪れた時には植物星の大使が訪れていた。クリーンエネルギーの技術は発達しているものの、地上からの公害が原因で年々人口が減少し続けている。天上人は基本的に地上人と同じ種族の人類であり、住んでいる場所が違うだけで生物種的には同種。その為、ドラたちの言語もそのまま通じた。(日本語がそのまま通じることについては疑問が残る)天上世界は全てこの天上連邦に属しており、地球上に外敵はいないが、軍隊・警察などはかなり強力で地上世界に対して敵対的。大統領制を採っているので共和制国家であると思われる。また、この国の元首・要人・役人は皆背中に羽の生えた衣服を身に着けている。
- 雲の王国
- のび太がドラえもんの道具で作った自称天国。王国という名がついているが実際は金銭上の理由から1株100円の株式制を採用。製作にあたっての総工費のうち殆ど(3万円、つまり300株)をスネ夫が出した(静香は100円で1株、ジャイアンは50円で半株)。小さな国であるが、山・谷・川・滝などが存在していて、レストラン、ホテルなど充実している。
[編集] ゲストキャラ
- パルパル(声優:伊藤美紀)
- 天上世界の絶滅動物保護州管理員の女性。グリオと同じく地上人を敵視していたが、年上のキャラであったこともあり、のび太たちを諭したり味方になったりするシーンもり、ドラえもん達と行動を共にするうちに考え方が徐々に地上人たちへの見方が変わってくる。ゲストとしては「のび太の魔界大冒険」の美夜子に続いて年上キャラ。
- グリオ(声優:村山明)
- 天上世界の絶滅動物保護州管理員の男性。地上人を敵視している。
- 大統領(声優:屋良有作)
- 天上世界の大統領。ノア計画の実行が議会で可決された場合、地上に大雨を降らす為のスイッチを押さなければならないという使命を負っている。
- タガロ(声優:高乃麗)
- 漁の途中で船が難破し、無人島にいた所をノア計画の実験に巻き込まれ、天上人に植物と共に天上世界に吸い上げられた少年。地上に残してきた母に会う為、仲良くなったグリプトドンと共に天上世界脱出を試みる。
- タガロの父(声優:池水通洋)
- タガロと共に天上世界に吸い上げられた、タガロの父親。
- タガロの祖父(声優:松田文雄)
- タガロと共に天上世界に吸い上げられた、タガロの祖父。天上人の事を神様だと思っている。
- ホイ(声優:松尾佳子)
- 原作35巻「ドンジャラ村のホイ」に登場した、小人族の少年。ドラえもんとのび太に移住させてもらったアマゾン奥地が開発されるようになり、天上人によって天上世界へと移住した。
- ホイの父(声優:山崎たくみ)
- ホイの母(声優:速見圭)
- ネッシー
- モア、ドードー
- 原作17巻、「モアよドードーよ永遠に」に登場した現在は絶滅した種類の鳥。初出の話でのび太がタイムとりもちによって現代に捕獲してきた後に孤島に住まわせることになった。その後に天上人が天上界に連れて行ったようである。
- キー坊(声優:丸山詠二)
- 密猟者(声優:小林清志・島香裕)
[編集] あらすじ
雲の上には本当に天国があると信じてそれを馬鹿にされたのび太に、ドラえもんは雲の上に自分の理想の王国を作ろうと提案する。紆余曲折あったものの、仲間たちの協力を得て雲の王国はついに完成。しかし、王国で遊んでいる途中偶然に、本当に天上人の住む雲の上の世界があることを発見する。自然に恵まれ絶滅動物も生息するその雲は、絶滅動物の保護地区だった。そこの監察員パルパルにつれられ、施設に移動する5人。友好的に見えたパルパルだが、天上界では「動植物と地上人をあらかじめ天上界に避難させ、大洪水で地上文明を洗い流して破壊する」恐ろしい方策『ノア計画』が実行されようとしていた。
[編集] スタッフ
- 監督:芝山努
- 脚本:藤子・F・不二雄
- 演出:塚田庄英、平井峰太郎
- 作画監督:富永貞義、渡辺歩
- 美術設定:川本征平
- 美術監督:沼井信朗
- 美術補:工藤剛一
- 色設計:野中幸子
- 撮影監督:高橋秀子
- 編集:井上和夫、渡瀬祐子、佐多忠仁
- 録音監督:浦上靖夫
- 効果:柏原満
- 音楽:菊池俊輔
- 監修:楠部大吉郎
- 制作デスク:市川芳彦
- プロデューサー:別紙壮一、山田俊秀、小泉美明
- 制作協力:藤子プロ、ASATSU
- 制作:シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
[編集] 特徴
大長編シリーズでは巨悪的な敵キャラが登場しストーリーを盛り上げていたが、本作では「敵キャラと真正面から戦う」というパターンがとられていない。密猟者グループが終盤での敵ということにはなるが、むしろストーリー全体を通して描かれた天上人の方が地上人にとっての「敵」であった。天上連邦の国民全体を地上にとっての脅威とするならば、敵組織としてはその人口・兵力などは群を抜いていると言えよう(匹敵するのは『のび太の魔界大冒険』における国家的体裁をとっている大魔王軍団と、『のび太と鉄人兵団』におけるロボットの星メカトピアの鉄人兵団くらいか)。しかし、天上連邦は文明的に劣る弱い種族(地上人)には強いが、自分と同等以上の力を持つ者には弱いという描写がなされていた(終盤で密猟者達が雲戻しガスを乱用した際には全く成すすべがなかった)。
今回はドラえもんが故障し、5人とも散り散りにはぐれてしまうという状況でストーリーが進むことや、今までのような確固たる「悪」とは言い切れない相手(地球環境保護を唱え、環境を破壊する地上人を批判する天上人は悪とは言えない)とやむなく敵対する……という展開からヒーローもの的な要素は薄められ、メッセージ性が重視されている作品として印象深い。『のび太と竜の騎士』における、恐竜人たちとの対立と和解の物語を更に一歩進めたものと言えよう。
上記以外に本作が他の大長編と比べて「異色」と言えるのは、物語中でジャイアンとスネ夫が天上人をハッキリ「敵」と見做しており、戦うか逃げるかという姿勢を示すという「メンバー中での対立」が緊張感を増していたことやドラえもん不在の状況下、秘密道具の使用も不可能なため地上へ逃げて国連軍や自衛隊に天上界攻撃を頼もうとするなどの「現実的」な点である(この「危機的状況に、国連や自衛隊に連絡を試みる」という現実的な描写は『のび太と鉄人兵団』や原作漫画のいくつかの話にも見られる)。
大長編ドラえもんの中で最も直接的に環境(自然)保護の重要性を訴えている作品(2年前に公開された『のび太とアニマル惑星』でも人類文明への警鐘を鳴らしている点は同じだが、露骨さでは本作品のほうが上と言われる)である。ドラえもんたちは自然を守ることを誓い、映画を見ている人に呼びかけているように見える。とともに、ドンジャラ村のホイくん、キー坊(天上世界で植物星大使になった)など過去の(原作・TVアニメの)作品に登場したゲストキャラクターが多数出演している作品でもある。解説も入っているが、TVアニメを見ていない人(特に子供)にはわかりにくい内容が一部入っている。
この様な非常にシリアスな内容であり、ファンの間でも本作を晩年の傑作であると高く評価するファンは多数存在する(特に、ラストにおけるドラえもんの特攻、意識不明になったドラえもんをキー坊が助ける場面はファンの間でも有名であり、絶賛するファンも多い)。しかし、あまりにメッセージが直接的すぎてあざといとの批判的意見も決して無視できない作品であり(例:斎藤貴男「カルト資本主義」においてドラえもんに出てくる天上人の発想はカルトにつながるディープエコロジーだという発言)、賛否の分かれる作品である。
[編集] 主題歌
「雲がゆくのは…」(作詞:武田鉄矢 作曲:深野義和 唄:武田鉄矢)