うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
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『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は、高橋留美子原作の漫画及びテレビアニメシリーズの『うる星やつら』の劇場版オリジナル長編アニメーションである。1984年2月11日公開。
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[編集] 概要
前作の劇場用アニメ『うる星やつら オンリー・ユー』の監督と、テレビシリーズのチーフ・ディレクターを務めていた押井守が、テレビ側の主要スタッフを引き抜き、テレビ側の制作をわざと犠牲にしてまで作り上げた、現在にまで続く押井アニメの原点にして出世作となった作品である。荘子の『胡蝶の夢』がヒントとなっており、テレビシリーズ第101話『みじめ! 愛とさすらいの母!? 』というエピソードが「夢から覚めない夢を見続ける」という点で、これが本作のプロットになったともいわれている。結果、監督の意向を強烈にまで露出させ、それまでのアニメにはない斬新な表現を開拓した。
原作とイメージがかけ離れているが、「最高傑作」と賞され、アニメ界のみならず当時の映画界や文学界にまで多大な影響を与え、同年キネマ旬報読者選出ベスト・テン第7位(邦画)という快挙を成し遂げている(ちなみに1位は『風の谷のナウシカ』)。しかし押井はこの作品を完成した後、ほどなくして『うる星やつら』テレビシリーズを降板、スタジオぴえろも退社する。
凝りに凝った作画と、作曲家・星勝の躍動感溢れるロック・フュージョン調の曲、叙情や哀愁、不安を表現したバラード曲、フルオーケストラによる重厚感溢れるクライマックスの曲といったBGMが、この作品世界をより引き立たせている。主題歌やタイトルが、エンディングで初めて流れるのも特徴である。
この作品のキーパーソン的なキャラクター『夢邪鬼』(原作やテレビシリーズに登場する『夢邪鬼』とはやや異なる)役として故・藤岡琢也が流暢な関西弁で声優を務めた。
映画パンフレットの小見出しは筒井康隆の作品名をもじったものとなっている。なお、当時筒井康隆の長編SF『脱走と追跡のサンバ』と、ストーリーのアウトラインが類似しているとした記事もあった。
通常ビデオソフトは公開終了から数ヶ月遅れての発売であるが、この作品では劇場公開日と同時にビデオ・LDがリリースされており、この点でも異例の作品である。ちなみにこの作品は元々4:3のスタンダードサイズで撮影がなされ、劇場では上下の映像を断ち切った形(通称・貧乏ビスタ)で公開していた。公開時に同時発売されたビデオではこの撮影時と同じ4:3での収録であったが、後に発売されたDVD版では劇場公開時と同じ16:9でのアスペクト比で収録された。
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
友引高校の「学園祭の前日」が延々と繰り返される日々。その異常な日々に気付いた教師の温泉マークがノイローゼに罹る。彼はまるで自分が『浦島太郎』の様だと言う。事態に気が付いたサクラは、温泉マークと共に友引高校を閉鎖し、泊り込みの生徒を追い出す。そしてサクラは叔父の錯乱坊を呼ぶが、彼のテントはもぬけの殻で、やがて温泉マークも姿を消す。面堂やしのぶ、メガネ一行は何故か自宅に帰ることが出来ず、タクシーを拾ったサクラは、怪しげな運転手から竜宮場へ行く事を勧められるが、妖気を感じて祓い、間一髪で助かる。そして皆、いつの間にか友引高校へと戻っていた。
彼らは結局、諸星あたるの家へ泊り込む。テンは「変なおっさん」から貰ったという風変わりな豚と遊んでいた。「原因は友引高校にあり」という面堂とサクラは、あたる達を連れて校舎の捜索を始めた。何故か不条理な作りの校舎にあたる達は翻弄されるが、原因は掴めなかった。そこで面堂は隠し持っていたハリアー戦闘機で脱出を試みた。そこには友引町だけが巨大な亀の背中に隔離された異常な光景が。しかも、その友引町を陰で支えるのは錯乱坊と温泉マークの巨大な石像であった。
その光景を見た翌日から、友引町は辺り一面廃墟と化す。何故か光熱・水道とメディアが供給され続ける諸星家と、商品の絶えないコンビニだけを残して。衣食住を保証された、まるで夢の様なサバイバル生活をラムとあたる達は楽しく遊んで暮らす。一方面堂とサクラは、この世界の捜索を地道に続けていた。果たして、この世界を作った張本人と「浦島太郎を竜宮に連れて来た亀」 とは誰なのか?
[編集] よもやま話
[編集] 原作者との軋轢
- 原作者の高橋留美子は、絶賛していた前作『オンリー・ユー』とは正反対に、この作品に対して激怒したといわれている。当時アニメージュ編集長だった鈴木敏夫(現・スタジオジブリ代表取締役)によると、試写を観た後、高橋が押井に対して「要するに感性が異なるんですね」とキレる寸前の寸止め笑顔で一言残して立ち去ってしまったという。
- 高橋はこの作品に対し否定的な発言は公式には一切していないが、平井和正との対談で「(『ビューティフル・ドリーマー』は)押井さんのうる星やつらです」という発言をしている。更に高橋は平井との対談集で、押井の手掛けるテレビシリーズについても「やってはならないことをしていた」と語るなど、強い不満を表している。
- こうして『ビューティフル・ドリーマー』共々、原作者の不興を買ったこと、押井が『うる星やつら』の監督を降板してしまったことに何らかの因縁があったと見る向きもある。押井自身も、当時のアニメ誌などのインタビューに「体力的・精神的な限界」というコメントを寄せ、DVD『ビューティフル・ドリーマー』に収録された、オーディオコメンタリーにおいても「原作者の逆鱗に触れる」という表現をしていた。
[編集] 制作にまつわるエピソード
- 押井とプロデューサーの落合茂一がともに明らかにしているところによると、映画版第2作については首藤剛志執筆によるシナリオが予定されていた。しかし、押井はそのシナリオ案に難色を示し続け、ついにこれ以上遅れると封切りに間に合わないという状況になる。そのとき押井が「自分の書いたシナリオ案がある」と提示したのが、『ビューティフル・ドリーマー』の原案であった。これは、前年の『オンリー・ユー』での経験に懲りた押井が、自分の企画を通すために仕掛けた戦略であったと後に語っている。
- 本作の制作にはいると押井は自室に籠もって絵コンテ切りや制作指示に没頭した。並行して放映中だったテレビシリーズは、資料を部屋まで届けてもらってチェックし、現場にはほとんど顔を出さなかったという。
- 作画においては、学園祭前夜の校舎内・あたるの家で大勢が飯を食べまくるシーンを職人芸で描ききったやまざきかずお渾身の作画、スピード感溢れる山下将仁の校舎を駆けめぐる作画、モノローグ・ハリアー脱出シーンで縦横無尽に画面を飛翔する板野一郎の「板野サーカス」、フィルムの傷や切り替え用の穴まで再現した廃墟映画館での「ゴジラ」など(そのためか、この作品のみ東宝が権利を所有している)、各スタッフも思いの限りをこの作品にぶつけている。又、作画監督がスケジュールの都合でやまざきかずお⇒森山ゆうじと途中で交代するため絵柄も変わり、途中から印象が異なって見える。
- オーディオコメンタリーで荒廃後の町をメンバーが楽しむシーンを「ぎゃろっぷの巨匠」が描いたと語っているが、恐らくぎゃろっぷ所属でスタッフロールにも名前を列ねている「丹内司」の事だと思われる。事実、ぎゃろっぷは本作の制作協力をしており、丹内は現在もぎゃろっぷで仕事をしている。
- 日本のアニメ作品としては珍しく、アフレコ時にはフィルムがほぼ完成しており(日本のアニメのほとんどは、アフレコ時点でも未完成な事が多く、絵コンテや原画などを撮影した映像を声優が見ながら収録している)、『メガネ』役の千葉繁曰く「友引全史」序説の朗読など、いつにも増して演技にも力が入ったという。これは、監督である押井が完璧な作画を犠牲にしてでも、音響や声優に良い仕事をして欲しいと言う気持ちと、音響や声優の力が作品をより良くすると言う信念からであった。
- 名曲喫茶でサクラ(鷲尾真知子)と温泉マーク(池水通洋)が語るシーン(テーブルを中心にカメラをまわすPANシーン)では、二人が画面から消えた状態でのセリフとなり、しかも徐々にテンポが速くなりながら時折二人が映るという演出だったため、声を当てるのが非常に難しいシーンだったとコメントしている。
- 終盤の白い帽子とワンピースを着た少女の声は、当初平野文が演じていた。しかしネタばれしてしまうので、最後の一言を除き、島本須美の声に替えられた。島本がノークレジットなのはクレジット入れに間に合わなかったためである。
- 夢邪鬼とラムが水族館で初めて出会い、夢邪鬼から名刺を貰ったラムが「夢邪鬼さん?うちラムだっちゃ」と答えた際、それを聞いた夢邪鬼が「らむだっちゃさん?ああ!ラムさんか」と答える台詞は、夢邪鬼の声を演じた藤岡琢也のアドリブだったという。
[編集] 没シーンについて
- 物語後半ではあたるが夢邪鬼の手により次々と悪夢を見続けるが、この悪夢の一つでフィルム・音声とも完成しているにも関わらず没にされたシーンがある。
- あたるは老人になり、地球は太陽が巨大化した影響で滅亡の危機に晒された。次々と人類が宇宙船で脱出する中、夢邪鬼の扮するパイロットに乗り込む様に諭されるが、あたるは愛している人が待っているから、と宇宙船に乗り込む事を頑なに拒む。だがその愛した人、すなわち「ラム」の事を何故か思い出す事がどうしても出来ない
- というものであった。押井は「長過ぎるから」という理由でこのシーンをカットしたが、ファンの中には「このシーンが無いとラストへ向けての辻褄が合わない」という指摘もある。なお、この他にも没にしたシーンが若干あるという。現在においてもこの没シーンはソフト化に至らず、ファンからはDVDで完全版としてほしいとの声も多い。
[編集] その他
- 友引高校の探索シーンでは、通常3階建ての校舎が4階建てになっているというセリフがあるが、画面では屋根にかかる窓を含むと5階建てになっており、では屋根部分を外して数えていたと解釈すると、今度はエンディングで2階建ての勘定になるという、異変に気づいた者もまた異変の中にいるというメタ虚構の世界が存在している。なお、スタッフの意図ではない演出という話もある。
[編集] スタッフ
- 原作:高橋留美子
- 監督・脚本:押井守
- 演出:西村純二
- キャラクターデザイン:やまざきかずお
- 作画監督:やまざきかずお、森山ゆうじ
- 美術設定:小林七郎、森山ゆうじ
- 撮影監督:若菜章夫
- 音楽:星勝
- 音楽監督:早川裕
- アニメーション制作:スタジオぴえろ
- アニメーション制作協力:スタジオディーン
- 製作:多賀英典
- 企画:落合茂一
- 製作:キティ・フィルム
- 配給:東宝
- 主題歌:「愛はブーメラン」
- 作詩:三浦徳子
- 作曲:松田良
- 編曲:清水信之
- 歌:松谷祐子
- 挿入歌:「ラメ色ドリーム」※冒頭のラジカセの音楽
- 作詩:宮原芽映
- 作・編曲・歌:小林泉美
- 挿入歌:「時代遅れの酒場」※お好み焼き屋のシーンで使用
- 作詞・作曲・歌:加藤登紀子
- 編曲:告井延隆、森下登喜彦
- 挿入歌:「ふたたびの」※劇中のテレビドラマのBGM
- 作詞:来生えつこ
- 作曲・歌:泰英二郎
- 編曲:竜崎孝路
[編集] 声の出演
- ラム:平野文
- 諸星あたる:古川登志夫
- しのぶ:島津冴子
- 面堂:神谷明
- テン:杉山佳寿子
- 錯乱坊:永井一郎
- サクラ:鷲尾真知子
- メガネ:千葉繁
- パーマ:村山明
- カクガリ:野村信次
- チビ:二又一成
- あたるの父:緒方賢一
- あたるの母:佐久間なつみ
- 温泉先生:池水通洋
- 竜之介:田中真弓
- 竜之介の父:安西正弘
- 校長:西村知道
- 夢邪鬼:藤岡琢也
[編集] 関連項目
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