製鉄所
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製鉄所(せいてつじょ・せいてつしょ)とは、鉄鋼製品を作る一連の設備がまとまって存在する工場のこと。本稿では、その中でも日本の鉄鋼業の主流である、鉄鉱石から鉄を取り出すところから最終製品の製造までを一つの敷地内で行う(間接製鋼法による)銑鋼一貫製鉄所を取り上げる。なお、2004年7月現在、日本における事実上の銑鋼一貫製鉄所は、新日本製鐵系5(室蘭・君津・名古屋・八幡・大分)、JFEスチール4(東日本2・西日本2)、住友金属工業系3(鹿島・和歌山・小倉)、神戸製鋼所2(神戸・加古川)、日新製鋼1(呉)の15カ所である。
目次 |
[編集] 製鉄所の立地
製鉄業は広大な敷地に加え、多様な設備・大量の用役(水やエネルギー等)が不可欠な、典型的な装置産業である。特に、現在主流である銑鋼一貫製鉄所ではその傾向が強い。このため、製鉄所の建設に当たって、その立地条件は製鉄所の命運を左右しかねないもっとも重要な要素の一つである。
製鉄所に必要とされる立地条件は、一般に次のような項目と考えられる。
- 巨大な設備を支えることができる、安定して強固な地盤
- 豊富な水利
- 原料や製品の入出荷に対応できる水深の深い良港(が建築できること)
- できるだけ風水害が少なく、安定した気候であること
[編集] 製鉄所の建設
日本初の近代製鉄所である八幡製鐵所が官営で建設されたことからも解るように、国際競争力を持つ大規模な製鉄所を新たに建設するのは、国家的大事業であった。立地選定から始まり、土地の造成、各種設備の建設、用役の確保と供給手段の確立、物流手段の確立、防災・環境対策、情報処理・通信インフラの整備、そして従業員の居住地など、およそ都市をまるごと一つ作り上げるような作業が必要となる。
高炉と転炉のペアを新たに1基作るだけでも1,000億円単位の資金と数年の歳月が必要である。このため、日本国内で現在の高炉・転炉を用いた製鉄所を新たに建造することは不可能に近い。一方で、鉄鋼の消費量が急速に拡大しているアジア各国では、半ば国策として大規模な製鉄所の建設が相次いでいる。
[編集] 製鉄所における製造フロー
製鋼プロセスの例 |
鉄鉱石 |
高炉:鉄鉱石から銑鉄を取り出す |
溶銑予備処理:不純物を酸化させる |
転炉:不純物を取り除き鉄鋼にする |
二次精錬:成分を微調整する |
連続鋳造:一定の形の半製品をつくる |
圧延:半製品を加工して所定の形状の製品にする |
出荷 |
ここでは銑鋼一貫製鉄所における鉄鋼製品の製造フローを概観する。実際には、各製鉄所によって様々な創意工夫が行われていることに注意。
[編集] 原料受け入れ
鉄鋼を作る原料は主に、鉄鉱石・石炭・石灰石の三つである。日本の場合、石灰石はほとんど自給できているが、鉄鉱石と石炭は事実上全量を輸入に頼っている。これらはいずれも巨大なバラ積み船で製鉄所の原料岸壁まで輸送されてくる。製鉄所では、積荷の原料をアンローダーと呼ばれる装置で荷揚げし、所定の原料ヤードに移送・山積みする。原料ヤードには、約30~60日分の原料が在庫されるのが普通。
[編集] 原料処理
現在産出される鉄鉱石の多くは粉鉱のため、そのまま高炉に入れると高炉が目詰まりを起こしてしまう。そのため、(還元促進剤の役目を果たす)石灰石といっしょに焼き固める(焼結)。また、石炭も多くは粉状であり、強度と燃焼エネルギーが不足しているので、コークス炉で蒸し焼きにしてコークスにすることで、適度な強度と高い燃焼エネルギーを確保する。
[編集] 製銑
鉄鉱石から鉄を取り出す工程のことを製銑と呼ぶ。日本では高炉と呼ばれる、製鉄所のシンボルとも言える巨大な溶鉱炉を用いている。大型高炉の場合、最上部までの高さは100mを超える。処理された原料は、ベルトコンベアで高炉上部に輸送され、そこから順次高炉の中に装入される。高炉の壁面下部からは1,000℃を超える熱風が大量に供給されている。炉の内部では高温の空気中の酸素とコークス中の炭素が反応して、2,000℃近い雰囲気になる。
この中で、鉄鉱石に含まれる酸素とコークス中の炭素が結合して一酸化炭素となり、還元された鉄は溶解した状態で高炉下部へと流れ落ちてゆく。また、鉄鉱石中の岩石成分は石灰石と反応してスラグとなって流れ落ちる。高炉下部には溶解した鉄とスラグが雨のように降り注いでいる。
頃合いを見計らって高炉下部に穴を開けると、溶けた鉄とスラグが流れ出してくる。スラグは比重が鉄より軽いので、この時点で容易に分離可能。こうして取り出した鉄は炭素を2~3%含んでおり、銑鉄 (iron) と呼ばれる。多くの製鉄所では、この銑鉄をトーピードカーと呼ぶ特別な形の貨車に流し入れて、液体(溶銑)のまま次の製鋼工場に輸送している。なお、途中で溶銑予備処理といって事前に簡単な成分調整を行うケースが多い。
[編集] 製鋼
高炉で取り出した銑鉄はこのままでは硬くて脆く、圧延加工をすることが困難である。銑鉄から炭素分を除去し、必要に応じて他の合金元素を混ぜることで、粘り強さを持つ鋼 (steel) を製造する工程を製鋼と呼ぶ。鉄鋼の基本的な性質を決める重要な工程であり、日本の製鋼技術は世界のトップクラスを走る。
トーピードカーで運ばれて来た銑鉄は、いったん取鍋(とりべ・とりなべ)に移されたあと、内部に耐火レンガを敷き詰めた転炉に装入される。その後転炉内部には酸素が吹き込まれる。その酸素と銑鉄中の炭素が結合して一酸化炭素となり、回収される。また、必要に応じて、ニッケルやクロム等の合金元素が投入され、対流によって均一な状態になるまで攪拌される。転炉内部の鉄が所定の成分になると作業は終了し、転炉は最初とは反対側に回転して、別の取鍋に完成した溶けた鋼(溶鋼)を排出する。高品位の鋼を作る場合、溶鋼を取鍋に入れたまま特別な装置にかけて、鋼中の不純物をさらに低減させることも多い。
転炉が1回の工程で製造する鋼は約200t前後。製鉄所の製造ロットの基本はここで決まっている。なお、転炉では成分調整が難しい場合や、極小ロット品の製造には、電気炉で製鋼することもあるが、転炉に比べて著しくコストが高い。
[編集] 鋳造
取鍋で運ばれてきた溶鋼は、加工しやすいように一定の形に鋳固められるが、その工程を鋳造と呼ぶ。日本では、上下が開口した鋳型の上部から溶鋼を注入し、あたかも心太(ところてん)のように連続して鋼を鋳固めてゆく連続鋳造という方式の採用が進んでいる。連続鋳造は極めて高度な技術管理が必要であり、鉄鋼各社は生産性と品質レベルの向上にしのぎを削っている。なお、連続鋳造ができない特殊な鋼については、昔ながらの鋳型を用いた鋳造が健在である。
鋳造されたものは、その形状により概ね
- スラブ
- 巨大なかまぼこ板のような形状。主に厚板・薄板に加工
- ビレット
- 巨大な円柱または角柱形状。継目無鋼管や小サイズの形鋼、棒鋼・線材などに加工する
- ブルーム
- スラブよりも小断面・厚肉で、羊羹のような形状。各種形鋼や棒鋼・線材、また上記ビレットなどに加工。
- ビームブランク
- ブルームの中でも、特にH字型に近い形に鋳造されたもの。H形鋼専用の素材。
に分類される。これらはいずれも半製品として次の工程の材料に用いられる。
[編集] 圧延
鋳造で製造された半製品に力を加えて「鍛える」ことで、所定の形状の製品に加工する作業を圧延と呼ぶ。ハンマーのような物体で叩きながら鍛えることを鍛造と呼ぶが、圧延も基本的には同じこと。圧延は多くの場合、ハンマーの役目をロールが担っている。
圧延には大きく分けて、材料が赤くなるほど熱を加えて圧延する熱間圧延と、材料を常温のままで(もしくは多少の熱を加えただけで)圧延する冷間圧延の2種類がある。鋳造で作られた中間製品は、まず熱間圧延で加工され、その後必要に応じて冷間圧延にも回される。また、工程中に熱処理を行うことで、製品の強度性質を細かく制御する技術が進んでいる。圧延の結果、厚板・薄板・形鋼・鋼管などの各種鉄鋼製品が完成する。これらは必要に応じて表面処理(めっき・塗装・研磨など)が行われたあと、検査を経て、出荷可能な製品として倉庫に移送される。
[編集] 出荷
倉庫に保管された製品は、需要家からの要請などに応じて所定の場所まで輸送される。向け先が比較的近い場合や遠くても緊急を要する場合には、トレーラーによって陸送されるが、多くの場合は製鉄所の出荷岸壁から内航船でいったん物流拠点に輸送され、そこから小口陸送されている。製品の出荷に鉄道を用いることは、現在ではまれである。輸出は基本的に全て海上輸送となっている。
[編集] 製鉄所と環境
年間数百万tの鉄鋼製品を生産する製鉄所は、大量の物資や用役を消費している。それは環境に多大な負荷をかけていることに他ならない。その負荷が適正なものかどうかをよく見極めることが肝要である。
[編集] 用役と再利用
鉄鋼製品を1t作るのに水が100t必要であると言われるほど、鉄鋼業は設備冷却・加工品の冷却・洗浄などに大量の水を必要とする。こうした水は工業用水から確保しているが、使い終わった水は徹底的に回収・処理することで、極力新水の使用を削減している。現在の日本の製鉄所における水の再利用率は90%を大きく超えており、熱で蒸発した以外はほぼ全量再利用されている。
製鉄業には各所で加熱工程があり、膨大な熱量が必要となる。こうした熱源には、コークス炉・高炉・転炉などで発生する一酸化炭素を主成分とする可燃性ガスを回収して用いている。製鉄所内にはこれらのガスを貯蔵するタンクや配管がいたる所に見られる。多くの製鉄所では場内で回収されるガスで全ての熱源を賄えるばかりか、都市ガス会社に余剰ガスを販売している所もある。また、加熱時に発生した大量の熱は、仕事が終わった後も回収され、余熱・乾燥などに用いられている。また、でき上がったばかりのスラブなどの半製品はかなりの高温であるが、それをできるだけ冷却させずに熱間圧延することでエネルギー消費を抑制しようという動きも盛んである。
製鉄所の設備を稼働させるのに電力は不可欠である。これらの電力は電力会社から購入しているが、製鉄所内では自家発電も盛んである。先ほどの場内発生ガスを利用した発電所の他に、高炉で発生した高温高圧のガスでタービンを回すことにより発電する炉頂圧発電といったエネルギー回収設備が実用化されている。
転炉での製鋼作業や製品の切断などには、大量の酸素が使用される。酸素は大気中から分離設備で製造され、場内に供給される。製鉄所で製造される酸素は多量であり、同時に分離される窒素・アルゴン・二酸化炭素などと共に、ガス会社に外販されている。ある地方では製鉄所の酸素設備が壊れると病院での手術ができなくなるほど、重要な供給源になっている。
[編集] 製鉄所と公害
高度成長期に発生した大気汚染による「公害病」は国や企業の責任として、幾つかのいわゆる公害訴訟が提訴され、幾つかの訴訟では製鉄所を抱える鉄鋼メーカーが被告となった。製鉄所での工程には燃焼現象が欠かせないうえ、その規模が大きいため、製鉄所がいわゆる大気汚染物質の大きな発生源になっているのは事実である。また、地球温暖化の原因物質としての二酸化炭素も、鉄鋼業はその性質上大量に発生させている。原料ヤードにある鉄鉱石や石炭などによる粉塵被害も、健康に影響がないとしても近隣住民にとっては大きな問題である。再利用できないレベルになった廃熱もかなりの量になり、製鉄所周辺の海水温が上昇して、局地的に生命層が変化していることも多い。
ただ、鉄鋼メーカーが、公害問題が重要視されてからやむを得ずという一面があるにせよ、その時々の最高水準の公害防止設備を導入してきたことも事実である。日本の製鉄所の環境対策は現在世界トップレベルであり、その導入がほとんど進んでいない中国などへの技術協力などが、今後の大きな課題である。また、二酸化炭素の発生に関しては、製品重量当たりでは鉄鋼はアルミニウムやチタンなどより一桁小さいレベルであることにも留意する必要があろう。
[編集] 製鉄所とリサイクル
鉄はスクラップから容易にリサイクルが可能であることからもともと環境循環型素材であるといえる。さらにアルミニウム・銅といった非鉄金属についても脱酸材や成分調整材としてリサイクルが行われている。 近年環境への関心が高まる中、ゴミの分別回収が多くの自治体に広がっているがプラスチック類の処置に困っているところが多い。プラスチックを元の原料にリサイクルするのが理想的な循環サイクルであるが、実際には不純物の混入・分子鎖の切断等によりまったく同質の原料にリサイクルを行うのは難しいのが現状である。そのためプラスチックと可燃物を混合・成形したRDF等に加工する自治体も多いのだが、RDFに対応した発電所が少ないという問題がある。近年、いくつかの製鉄所ではプラスチックを高炉やコークス炉に装入し熱源・炭素源としてリサイクル可能な設備を導入している。この方式では大量のプラスチックを処理できること、高温で処理を行うためダイオキシンの発生が少ないことが特徴である。
[編集] 製鉄所と情報処理・輸送
製鉄所で製造される製品は、基本的には全て受注生産品であり、全ての製造命令には、それに対応する注文が存在する。また、銑鉄から最終製品になるには通常1~2ヶ月、長い製品では4ヶ月ほどもかかる。さらに、問屋などの流通業者が介在するとはいえ、鉄鋼業の顧客層の広さは群を抜いており、全ての顧客に正しいタイミングで正しい製品を届ける作業はたいへんである。1年間の製品出荷量が百万t単位となる製鉄所にとって、こうした製品の注文情報や工程進捗状況をどう処理するか、また中間製品や最終製品をどう輸送するかは重要な課題である。
[編集] 情報処理
鉄鋼業は、全産業の中でもっとも早くコンピュータによる情報処理が導入された業界の一つである。製鉄所では膨大な量の受注情報をもとに、製銑・製鋼・鋳造工程までの中間製品を作る計画を策定し、次に完成した中間製品をどのタイミングで各圧延工場で加工するかを決めてゆく必要がある。効率よく生産を行うには、製造ロットをまとめたり、圧延サイズの順番を工夫したりなど、様々な制限が必要となる。また、それぞれの注文に応じた適切な仕様を製品に付加する必要もある。大きな製鉄所になると年間100万件にも達する注文をこなすためには、大量の情報を速く正確に処理し、その情報を必要な部署に正しく伝達できる能力が必要となる。また、各工場の稼働状況や、製品の品質データなどを常時収集・分析・保存する必要がある。
こうしたニーズに対応するため、製鉄所では産業用にコンピュータが実用化された初期から、当時の最高水準のコンピュータが多数導入されている。現在でも各製鉄所にはスーパーコンピュータが稼働しているほか、それを補佐する多数のメインフレーム機、さらには工場毎・ライン毎のプロセスコンピュータなど、無数のコンピュータが存在している。また、所内のスタッフ要員の多くにも、個人単位でパソコンが支給されていた。これらのコンピュータはかなり早い時期から営業部門も含めた全国的規模で大規模なネットワークが構築されていた。1990年代前半、apple社のパソコンを用いた日本国内のネットワークのうち、上位五つのうち二つが鉄鋼メーカーのものであったことは一部では有名だった。その当時、製鉄所内で700台を超えるパソコンが全てLAN接続され、光ケーブルが10km以上あるだけでも、情報産業界から驚きを持って迎えられていたが、製鉄所内ではそれでも能力が不足していると考えられていたらしい。
なお、一つの製鉄所で使用されている独自プログラムを合わせると数千万ステップ規模になり、鉄鋼メーカー全体では億ステップ単位の大きさになる。これらを開発・改良・保守するために、鉄鋼メーカーでは専任のスタッフを多数抱えていた。鉄鋼メーカーのグループ会社に比較的大規模な情報関連企業が存在するのは、こうした理由による。
[編集] 輸送
鉄鋼製品が出来上がるまでには、原料ヤードの鉱石から最終製品倉庫までいくつもの工場を原材料が移動する。その度に形状や温度・重量などが目まぐるしく変化しており、それぞれの段階で如何に適切な方法で迅速に輸送するかが求められる。また、広大な敷地内を1日のべ数十万tもの物資と数千人単位の人が移動しており、それを効率よくかつ安全に行うことが、製鉄所の競争力を左右する。さらには、完成した製品を保管し、それを的確に出荷する能力も、近年重要度が増している。こうした理由から、製鉄所にとって物流の効率化は常に重要なテーマである。
重量物を輸送する場面(溶銑を運ぶトーピードカーは、満載時1両250tになることもある)が多いため、多くの製鉄所では鉄道が重要な役割を果たしており、場内に数十kmにおよぶ線路網を持つ製鉄所もある。常に変動する工程状況に柔軟に対応して輸送能力を確保するため、新幹線のCTC並のコントロールシステムを保有するケースもある。また、極めて特殊な形態の車両が多い。(トーピードカーや熱片輸送車など)
また、道路を用いた輸送も重要である。場内専用車の中には積載量100tを超える車両も珍しくない。一部の製鉄所では、玉掛作業を削減するために専用のパレット台車を開発して、それを移動させる専用の車両を配備している。こうした車両を安全に移動させるため、場内には各所に信号機はもちろん、警備部門がねずみ取りをしている光景を見かけることすらある。製鉄所からの出荷にもトレーラーが活躍している。ただし、積載重量規制の厳格化に伴い、使用車両数が増加したため、車両の不足が発生すると同時に環境負荷も増大している。こうした問題をどう解決するかが、今後の課題である。
海上輸送は今も鉄鋼業において輸送手段の主流であり、製鉄所の岸壁には常時様々な船が接岸している。原料の輸入には10万トンを超える大型のバラ積み船が用いられることが多い。積荷の鉱石や石炭を迅速に荷揚げするため、各製鉄所では様々な工夫が取られている。製品の出荷には、中型の内航船や一般貨物船を用いることが多い。最近では玉掛作業を低減するためにRO-RO船の導入も進んでいる。これら船舶の動向は、しばしば人工衛星を用いた追跡・配船システムで管理されている。
製鉄所にある半製品・製品の所在を常に把握することは、その物量の多さと敷地の広大さなどで意外と大変な作業である。製鉄所では製品に物理的に荷札を付ける他、以前からバーコードをつけるなどして、現品が相違ないように管理していた。また最近では、PHSを用いた所在地確認システムや、ICタグを用いた現品確認システムも実用化されつつある。
[編集] 製鉄所の副産物
製鉄所を稼働させると、鉄鋼製品以外にも様々なモノが発生する。それらのうち、前項までに登場していないもので、比較的市民生活に身近な項目を取り上げる。
[編集] 石炭化学
石炭をコークスに加工する際、コークスガスと呼ばれる大量のガスが発生する。このガスは精製されて工場の燃料として用いられるが、精製の際発生する多種の化学物質は、製鉄所内の設備で分離・精製され、工業原料として販売されている。乾電池や工業用電極の材料となるピッチや、各種化学物質の原料となるタールは、多くが製鉄所で製造されている。また、窒素系化合物は加工されて、良質の肥料として販売されている。製鉄所内に化学工場で見かける分留塔が林立する様は少々場違いな光景だが、高炉系鉄鋼メーカーが保有する化学部門は、中堅化学メーカーとほぼ同じ規模である。
[編集] スラグの利用
製銑や製鋼工程を中心に、鉄鉱石の「石」の成分がその他の不純物と共に凝固してスラグが発生する。かつてのスラグは廃棄物扱いだったが、現在では様々な用途が開発されている。
高炉セメントは、高炉で発生したスラグを骨材にしたセメントで、古くから利用されていた。適度な強度と伸縮度の小ささが特色。現在ではJIS(日本工業規格)にも登録され、土木向けなどに広く用いられている。また、最近ではスラグを原料とした煉瓦・消波ブロックや、吸水性を持たせた道路の舗装材などの開発が進み、土木資材の原料としてのスラグの地位はさらに高まっている。余談ながら、製鉄所内で大量に使われている耐火煉瓦は、補修の際に適宜更新されるが、その際取り外された耐火煉瓦はそのまま下取りされて一般向けに再利用されることが多い(製鉄所で用いられる耐火煉瓦は高グレード品なので、割れさえなければ一般用途には十分)。
スラグを特殊な装置で石綿状の繊維に加工した物をロックウールと呼ぶ。ロックウールは、優れた耐熱性・保温性・吸音性を活かして、住宅の断熱・吸音材として需要が増えている。また、石綿に見られる呼吸器障害の発生がないことから、工業部門でも広く利用されている。
スラグには大量の珪酸塩が含まれることから、これを粉砕することで肥料として販売されている。また、海中にスラグ製の魚礁を設置することで、海藻類の生育を促し、漁場の育成に繋がる可能性があり、現在研究が進んでいる。
[編集] 硫黄の回収
製鉄所で発生したガスを精製する際、あるいは排煙を処理する際、大量の硫黄が発生する。これらの多くは石膏として回収され、広く市販されている。また、硫酸として回収された物は、そのまま外販される他、製鉄所内でも広くリサイクル利用される。もちろん、硫黄そのものに精製されることもあり、様々な工業原料に用いられる。
[編集] 水処理の副産物
製鉄所内で大量に用いられた水は、場内にある巨大な設備で処理されて、再利用される。この処理の際、大量のスケール(鉄を加熱した際に発生する酸化鉄の一種)が大量に回収される。回収されたスケールは、焼結鉱の原料として焼結され、製鉄原料としてリサイクルされている。一部の製鉄所では、このスケールを粉砕・加工することで微細な鉄粉を製造している。鉄粉は粉末冶金に欠かせない材料として幅広い分野で用いられる他、身近なところでは携帯カイロの発熱材として活躍している。