転炉
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転炉(てんろ、converter)とは、金属精錬専用の炉である。鉄や銅の精錬に用いられている。回転・転倒ができるものが多いが、固定式のものもある。
「転炉」という名は、銑鉄を転炉に入れると鋼に転換する炉、つまり「転換炉」から由来している。回転できる炉だから「転炉」というのは本来の意味ではない。【英語では、転換という意味でconverterとなっている。ベッセマーが使い始めた語である。】
目次 |
[編集] 製鋼用転炉
[編集] 概要
製鋼プロセスの例 |
鉄鉱石 |
高炉:鉄鉱石から銑鉄を取り出す |
溶銑予備処理:不純物を酸化させる |
転炉:不純物を取り除き鉄鋼にする |
二次精錬:成分を微調整する |
連続鋳造:一定の形の半製品をつくる |
圧延:半製品を加工して所定の形状の製品にする |
出荷 |
製鋼用転炉は製鉄所、特に高炉で鉄鉱石を原料として銑鉄を生産するところから最終製品の製造までを一つの敷地内で行う銑鋼一貫製鉄所の設備の一つである。
高炉で鉄鉱石を還元することによって産出された銑鉄は、トーピードカー(溶銑車)という特別な貨車に流し入れて溶銑(溶融銑鉄)のまま溶銑予備処理(転炉内で不純物が分離しやすくなるための前処理)した後、転炉がある次の製鋼工場に運ばれる。
製鋼工場内の転炉で溶銑は溶鋼(溶融鋼鉄)へと転換される。転炉が一回の工程で精錬する鋼は約200~300トンである。製鉄所の製造ロットの基本は転炉の処理能力で決まる。
転炉が終了して、産出された溶鋼は、さらに硫黄などを取り除いたり合金元素添加など成分を微調整する二次精錬を行う。その後、圧延工程で加工しやすくするために連続鋳造工程へ運ばれる。
[編集] 転炉の役割
転炉の大きな役割は、溶銑中にある炭素を取り除く脱炭である。高炉で使われる還元剤は、コークス中の炭素および一酸化炭素ガスである。なので、還元と同時に浸炭が起こってしまい、高炉で得られる銑鉄は約4%の炭素を含む。銑鉄は硬いが、衝撃を与えると割れやすいため構造材料の面で信頼性がない。転炉に銑鉄を入れて、そして転炉内に空気(酸素)を吹き付けると、銑鉄から炭素が取り出されて(炭素が燃やされて)鋼が生み出される。こうして得られた鋼は、粘りがあり信頼性が高いので構造材料に欠かせない。【硬いけれど脆いについての例は、煎餅が挙げられる。】
また、もう1つの重要な役割は溶銑(溶鋼)中にある不純物を取り除くことである。転炉内に吹き付けた酸素は、溶銑(溶鋼)中にあるケイ素やリン、マンガンなどと反応して、それぞれSiO2(二酸化ケイ素)やPO43-(リン酸イオン)を生成する。比重の違いのため、不純物を含んだスラグは溶銑(溶鋼)の上に浮かぶ。このようにして、スラグと溶銑(溶鋼)を分離できる。その後、スラグを除去することによって、溶銑(溶鋼)中にあった不純物をまとめて除去できる。
転炉内で起こる主な酸化反応式は以下のとおりである。
- 炭素の除去
- ケイ素の除去
- リンの除去
- マンガンの除去
なお、高温になると鉄は酸素と化合しにくくなるので、以下の反応はあまり起こらない。
[編集] 転炉の構造
転炉の形は樽型やセイヨウナシ型である。軸が取り付けられていて、前後に自由に回転できる。溶銑の注入や溶鋼の取り出しは炉を傾けて、精錬時(反応時)は炉を立てた状態で使用する。このような形はベッセマーが発明した。現在でもほとんど同じ構造で使われている。なお、以下の図【精錬】では、転炉の底部から空気を吹き込んでいる。このような構造の転炉を底吹転炉という。
転炉の外部は鋼鉄で作られていて、内部は高熱や衝撃に耐える耐火煉瓦が内張りされている。転炉内の温度は約1600~1800℃にもなる。転炉内で空気(酸素)を吹き込んだ時、酸化熱が発生するので熱の補給は必要ない。転炉で発生する排ガスは、排ガスボイラーによって発電したり、熱を圧延工程に送るなど再利用している。転炉には溶銑だけでなく、鉄スクラップも少量(総投入重量の5~10%程度)入れている。また、転炉内の反応が進みすぎて想定温度よりも高くなった場合は、温度を下げる目的で鉄スクラップを少量入れることがある。
[編集] 転炉と電気炉
鋼鉄の生産は、溶銑を原料として転炉で生産する方式と、鉄スクラップを原料として電気炉で生産する方式の2通りがある。転炉で生産するのは、銑鋼一貫製鉄所を所有する高炉メーカーだけである。電気炉で生産するのは、高炉メーカーと比べれば規模の小さい電気炉メーカーや特殊鋼メーカーである。
日本での鋼鉄生産割合は、転炉約70%、電気炉約30%である。アメリカ、韓国、台湾、ヨーロッパなどでは、電炉が約40%である。これは、日本の電気料金が他国と比べて割高な面が影響している。
[編集] 製鋼用転炉の種類(歴史)
[編集] 転炉発明以前
転炉が発明されるまでは、鋼鉄を作るには1783年にヘンリー・コートが発明したパドル法が使われていた。しかし、パドル法で鋼鉄を作るのは非常に手間がかかった。当時、鋼鉄は貴金属並に非常に値段が高い製品だった。そのような状況では、現代のようにあらゆるところに鋼鉄材料を使うわけにはいかなかった。
[編集] ベッセマー転炉
ベッセマー転炉とは、1856年、イギリスの技術者ヘンリー・ベッセマーが発明した世界初の転炉である。革命的な製鋼法であり、この転炉を使った製鋼法をベッセマー法という。ベッセマー転炉の基本的な構造は底吹転炉である。溶銑を入れる口と、溶鋼が出る口は同じである。
1856年、イギリスのチェルトナムで行われた学会で、ベッセマーは「火なしでの鍛鉄と鋼の製造」の題目で講演した。この講演で転炉は「空気を吹き込むだけで酸化熱が発生し、この熱で反応が進むので、熱の補給が必要ない炉」つまり「火を使わない炉」として絶賛された。一般的なベッセマー転炉は、25トンの銑鉄をたったの30分で鋼鉄に転換できた。これは、それまでの何十倍の効率で鋼鉄が生産できることを意味していた。ベッセマー転炉によって安価な鋼鉄が大量生産できるようになり、それまでは設計図上の世界だった鋼鉄の橋・鋼鉄の建築物(高層ビル)・高性能の鉄道レール・大型船・大規模工場・・・・・・が現実的なものとなっていき、世界は「鉄の時代」から「鋼の時代」へと変わっていった。
革命的な製鋼法だったベッセマー転炉だが、欠点はあった。ベッセマー転炉炉壁の耐火煉瓦は、酸性酸化物である珪石でできていたため不純物であるリンがどうしても除去できなかった。リンを酸化してリン酸とし、それをスラグに含ませて除去すればよいのだが、珪石で出来た耐火煉瓦ではリン酸を溶かし込みやすいスラグが出来なかった。石灰(塩基性)を投入すればリン酸がスラグに溶け込むが、このスラグは塩基性のため酸性酸化物の炉壁と激しく反応してしまい、転炉の耐久性がなかった。かといって、リンを含む鋼は割れやすくて使い物にならない。そのため、ベッセマー転炉はリンを含む鉄鉱石(燐鉱石)が使えなかった。ヨーロッパで得られる鉄鉱石のうち、燐鉱石は9割だった。つまり、ベッセマー転炉で使用できる鉄鉱石はヨーロッパで得られる鉄鉱石のうちたったの1割だけだった(ベッセマーが実験で使っていた鉄鉱石は、偶然にもリンがほとんど含まれていなかった)。この欠点のため、依然としてパドル法は残っていた。この問題を解決したのが、22年後に現れたトーマス転炉である。
なお、アメリカで産出される鉄鉱石はリンをあまり含まない鉄鉱石だったため、アメリカではベッセマー法が積極的に採用されて鉄鋼業が飛躍的に発展していった。
(英語版のベッセマー法w:Bessemer process)
[編集] トーマス転炉
トーマス転炉とは、1878年にイギリス人裁判所書記シドニー・ギルクリスト・トーマスと彼のいとこの製鉄所技術者パーシー・カーライル・ギルクリストが共同で発明した転炉である。この転炉を使った製鋼法をトーマス法と言う。トーマス転炉の基本的な構造はベッセマー転炉と同様に底吹転炉である。この転炉は塩基性耐火煉瓦を使用することによってベッセマー転炉の欠点を解決した。
トーマスらは、ベッセマー転炉の欠点を解消するために新しい内張りの耐火煉瓦を発明した。この耐火煉瓦は、酸性酸化物ではなく塩基性酸化物で出来ていた。耐火煉瓦のベースは酸化カルシウムと酸化マグネシウムから出来ていて、酸化カルシウムと酸化鉄があればリンをスラグに溶かし込むことが可能だった。こうしてリンが溶け込みやすい塩基性のスラグを作って、リンもまとめて除去するやりかただった。そして、塩基性の耐火煉瓦は、塩基性のスラグとは反応しなかった。解決するための原理は簡単だが、転炉内の高温、溶銑注入時の衝撃、操業時と休業時の激しい温度差、反応ガスなどに耐えられるような塩基性耐火煉瓦を開発することが難しかった。
燐鉱石も使用できるトーマス転炉が発明されたことにより、世界中でトーマス転炉が広まった。トーマス転炉の発明は、鉄鉱石の産出地図を塗り替えるほどインパクトがあった。特に、独仏国境地帯にあるロレーヌやルクセンブルクに大量に埋蔵されていたミネット鉱の高燐鉱石が使用可になったことより、フランスのロレール地域やドイツのルール地域の製鉄業は発展した。そして、燐鉱石も使用できるトーマス転炉により、完全に時代遅れとなったパドル法は消滅した。
なお、川崎市市民ミュージアムでは世界で唯一保存されているトーマス転炉がある。
[編集] 現代の転炉
- LD転炉
LD転炉(エルディーてんろ)とは、炉の上部から水冷ランスで、高圧(約10Kg/cm2)の純酸素を炉内の溶銑中に吹き込む方式の転炉である。1952年にオーストリアのリンツ(Linz)工場、1953年にドナウ(Donawitz)工場で開発されたのでLDという名前が付いている。純酸素上吹転炉ともいう。この転炉を使った製鋼法をLD転炉法という。
LD転炉は、空気ではなく酸素を上から吹き込むことに特徴がある。これによって、空気中の80%を占める窒素を除去し(窒素は転炉内の温度を下げ、そして鋼鉄中に混じる不純物となってしまう)、さらに反応を速めることができた。また、高圧の酸素なら、上から吹き込むだけで転炉内が攪拌できることがわかった。
- 純酸素底吹転炉
純酸素底吹転炉とは、炉の底部から酸素を吹き込む方式の転炉である。1970年代に開発された。底部から酸素を吹き込む方が攪拌力が強く、炉内の反応速度が速い。しかし、溶銑上部の温度が上がりにくかったり、過剰な攪拌も見られるなど欠点がある。また、酸素を吹き込むため反応時の温度が高くなってしまい、底部のパイプが損傷しやすい。それを防ぐために、アルゴンなど不活性ガスも同時に吹き込む構造になっている。なお、冷却ガスのパイプは、酸素パイプを囲むように出来ている。
- 純酸素上底吹転炉
純酸素上底吹転炉とは、炉の上部から高圧の純酸素を炉内の溶銑に吹き込み、なおかつ、炉の底部から適度な攪拌をするために酸素、炭酸ガス、冷却ガス、不活性ガスを吹き込む複合型の転炉である。1980年代に開発された。LD転炉と純酸素底吹転炉、両者の長所を組み合わせて反応性を高めた転炉で、現在の主流転炉である。
戦後の日本は、世界に先駆けてLD転炉を全面的に採用し、これを発展させることによって、世界一の製鋼技術の座を占めるようになった。初期のLD転炉は約30トン程度の溶銑を入れたが、現在の純酸素上底吹転炉は約200~300トンの溶銑処理能力を持っている。
これらの転炉の1プロセスに要する時間は約30分である。あらかじめ計算した総酸素量の95%を吹き込むと、酸素の吹き込みが止まる。その後、センサーによって炭素濃度と温度を測定してもう一度計算をして、酸素吹き込み量を再設定する。そうして転炉を操作するオペレーターがセンサーやコンピュータを活用して、転炉内の状態を見積もり、プロセスが終了したかどうかの判断をする。このようにして誤差を少なくする工夫がなされている。(現実的には、転炉内の反応は非常に複雑で、また温度や炭素濃度の正確なリアルタイム情報は取得できない。センサーやコンピュータの情報も活用するが、最終的にはオペレーターの経験とカンに頼っている。)
[編集] 銅転炉
銅用の転炉の基本的な構造は底吹転炉であり、基本的には鉄用の底吹転炉と同じである。
銅鉱山で得られた、銅製鉱を溶錬炉で溶融し、銅分を銅マットや銅鈹(どうかわ)【銅精製への中間製品。硫化銅と硫化鉄の化合物から成る】の形で濃縮する。そして、銅マットを転炉に入れて空気を吹き込む。すると、最初は銅マットの中の鉄が酸化されて、FeO(酸化鉄(II))となってスラグへと分離される。ある程度反応が進むとスラグの量が多くなるので、転炉を倒してスラグだけを流し出す。この操作を2~3回繰り返す。この時期を造鍰期(ぞうかんき)という。造鍰期が終わるころには、転炉内の溶解物の大部分はCu2S(硫化銅(I))の状態になっている。そして、さらに送風を行うと下記の反応が起こり、硫黄が除去されて、粗銅(銅含有率は約98%)が精錬される。これを造銅期という。
その後、粗銅は電解精錬によって、99.99%以上の純銅に精製される。
[編集] 関連項目
- 平炉
- 電気炉