ペット
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ペット (Pet) は愛玩動物(あいがんどうぶつ)とも言い、主に愛玩を目的として日常生活で飼育される動物のこと。人間の生活サイクルに対応できる(あるいはサイクルに干渉しない)動物が好まれる。近年ではペットに替わって「コンパニオンアニマル」という概念も普及してきている。
ペットを飼育する者は、動物の虐待の防止や公衆衛生の観点から、「動物の愛護及び管理に関する法律」や「狂犬病予防法」などの法令により定められた義務を負う。
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[編集] ペットの歴史
ペットと家畜(実用的な理由に拠るもの)の歴史は古く、狩猟において助けとなるイヌや、農耕において害獣となるネズミなどを駆除してくれるネコやイタチのような小型肉食獣が珍重されていた。
[編集] 古代 - 近代
特にイヌの場合は、はっきりした主従関係を好む習性から、家族の一員として扱われた歴史が長いとされる。石器時代におけるイヌの墳墓(埋葬に際して添えられたと見られる花の花粉が見られたり、なんらかの食料の残骸が一緒に発見されるなどの特徴も見られる)も発見されている。その一方で、所有物という概念もあったようで、殉死によって飼い主と共に埋葬されたと思われるケースも見られる。
猫科の動物は古代エジプトにおいて神格化されたせいもあって、高貴な身分に相応しい愛玩動物として扱われ、実用的な用途よりも、より今日のペットに近い存在であったとされる。丁寧に埋葬されたネコのミイラも発見されており、同時代に於ける同種動物の地位が如何に高かったかを感じさせる。
古くは家畜とペットの境界は曖昧で、飼育する側の社会的地位によって、その境界は更に曖昧な物であった。今日では多くの国で愛玩用または訓練して道具として用いられるイヌであるが、日本でも鎌倉時代では一般的な食用動物として見なされており、その風習は江戸時代初期まで続いていた。しかし法令や宗教的な理由から獣肉を食べる習慣が日本では次第に廃れた事から、今日の日本ではイヌを食用と見なす習慣は稀である。しかしそのような過程を経なかった国では、今日でもイヌは、良く増えどんな餌を与えても食べる良い食用家畜とみなされており、殊更イヌを食べる習慣の無い国から、非難・中傷されるなどの社会現象が発生している。(犬食文化の項を参照されたし)
[編集] 近代 - 現代
今日その多くは家族として、パートナーとして、仲間として人の暮らしに密接に関わり、心癒され愛玩する相手、人と共生する存在であると言えよう。一方希少性のあるものをコレクションしたり、奇妙な習性のある(一般的な家庭で飼うには奇異・危険な生き物である場合も含まれる)動物が好まれるなど、ペットを玩具のように考える傾向もある。しかし近年では、人間もまた、進化の一形態上に位置する動物に過ぎないという科学的な教育もあって、動物にあっても無下に扱う事を忌避する人々もある。この中には、ペットを玩具や装飾品のように考える人との間に軋轢を生む事もあり、時には係争関係に陥るケースも見られる。
[編集] 問題
近年では、輸送技術の発達に伴い、様々な動物(特に野生動物)がペットとして供されるが、この中には危険な習性のあるものや、また危険な伝染病の病原体を持つ動物が含まれる事もある。又、動物の持つ寄生虫の影響も懸念されている。2000年代には、日本においてはほぼ根絶されたと思われていた狂犬病が、輸入ペットの中からみつかり大きな問題となっている。日本では輸入されていないものの、近年人気のあるハムスターから、南米にて狂犬病ウイルスが発見されたニュースが報じられている。
これと同時に、珍しい動物を飼いたいという需要もあり、この中には密猟によって捕獲された動物が含まれ、場合によっては飼育には充実した設備を要する物が、安易に密売買されるケースも少なくない。野生のオランウータンはワシントン条約で商取引が禁じられているが、これすら売買していた事例もあり、幼い内に親から引き離されたこれら個体が、再び森に帰れるよう、リハビリを行っている団体もあるが、本来はオランウータンの生態を研究するために生息域にいる研究者にこれらペットとして違法に飼われていたものが持ち込まれ、研究者らが自然環境への復帰作業に動員されてしまい、研究が滞るケースもあるという。また動物園などから珍しい動物が盗難に遭うなどの事件も発生しており、盗んだはいいが飼い方が判らず(情報も無いため)死なせてしまうといった事件も起きている。日本においては2003年にレッサーパンダなどが盗まれ売買された事件も発生している。(三ヵ月後に発見され戻された)
一方、ペットを玩具のように考える飼い主も後を絶たず、その性質に即した飼い方が成されていないケースも少なくは無い。中には、偏食の結果として糖尿病などの成人病的症状で通院するものや過度に愛玩された結果、神経性の円形脱毛症や胃潰瘍に陥るもの、場合によっては飼い主のストレス (生体)から鬱憤晴らしに虐待を被るケースまで見られる。
よく懐いている犬の場合、飼い主が与えた餌を食べると飼い主が喜ぶ事を犬が理解して、満腹であっても飼い主を喜ばせようと餌を食べる場合が見られる。これらの犬は肥満やそれに絡む健康被害を被る事もあるとされる。肉食性の動物に、菜食主義者の飼い主が野菜を主体とした餌を与えて、適切な消化酵素を持たないこれら肉食のペットが健康被害を被るケースも見られる。
この他、物品のように飽きたから捨てるという事態に至っては、飼い主がこれら動物を野に放ち、帰化動物となるなどの問題も、世界各地で発生している。日本では1970年代に放映されたテレビアニメーション「あらいぐまラスカル」の影響で、アライグマを飼う家庭が出たが、本来非常に気性の荒いこの動物は飼育が難しく、処分に困った飼い主が捨てるケースも発生、一部地域では野生化したアライグマがゴミや農作物を食い荒らすなどの被害も発生している。東京都には野生化したワカケホンセイインコが大量に住み着くなどの現象も確認され、温排水が流れ込む用水路にワニが・路上でカミツキガメが保護されたとするニュースが度々聞かれるなど、芳しくない現象が発生している。
保健所では日常的に保護された犬・猫などの動物が殺処分されている一方、ペットショップには珍しい外国産の動物がならび、また珍しい・人気がある種類の犬・猫では、一儲けを目論んだブリーダーが近親婚による繁殖を行うといったケースも報告され、それらの中には近親婚によって発生した、畸形や遺伝的な異常を持つ個体が販売され、飼い主とペットショップで品質面が問題となって係争されるなどの現象も起こっており、これを憂う向きもある。
[編集] ペットの種類
以下に上げるのは、普遍的ではない・やや特殊な事例に於ける項目である。
- 植物は従来、園芸によって育まれる物だったが、近年では愛玩する対象としても扱われるため、広義のペットと見なされるケースがある。
- 人間が人間を「飼う」というのは人権や人道に絡んで倫理上問題視される要素を含むものの、風俗的な観点からはそのような現象も見られる。奴隷制度もその一種ともいえよう。ただし近年に於いてその大半は仮想上のものや、有償や無償のサービスであったり、または犯罪行為のいずれかになるであろう。
[編集] ペットを取り上げたフィクション
- 『きみはペット』 - 仕事では有能だが孤独な女性が、自宅に転がり込んできた若い男性を「飼う」ことになるという漫画。テレビドラマにもなった。
- 『ペット・セマタリー』 - そこに埋葬すると死別したペットが甦るという禁断の墓地をめぐる、ホラー作家スティーヴン・キングの小説。映画化もされた(映画の邦題は『ペット・セメタリー』。1989年、監督メアリー・ランバート)。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書
- B. ガンター、安藤孝敏、金児恵、種市康太郎 訳 『ペットと生きる』ペットと人の心理学 北大路書房 ISBN 4762825034