パスタ
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- パスタ (料理) : イタリア料理で使われる小麦を加工した食品全般。本稿で詳説
- パスタ (音楽) Pasta : アラブ伝統音楽で声楽曲を指す言葉。アラブ音楽のジャンル名。どちらかと言うと、民謡的・民俗音楽的なものでなく、古典音楽的な声楽曲について言われる。ひろく声楽曲一般を指す場合もある。また、更にひろく、音楽作品一般を意味することもある。トルコ古典音楽で使われる言葉「ベステ(これもある種の声楽曲を指す)」とつながっている。
- パスタ (医薬品): 軟膏剤に類似した製剤。
パスタ (Pasta) とはイタリア料理で使われる小麦を加工した食品全般を指す。イタリア語の "pasta" は厳密には "pasta alimentare" と言い、直訳すれば「食用ペースト」の意味がある。広義で粉物全般を表し、パン、ケーキ及びそれらの生地なども含まれる。そのため麺類に限ってあらわす場合は pastasciutta とすることもある。日本では、スパゲッティなどの麺類やマカロニ、板状のラザニアなどを呼ぶことが一般的である。
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[編集] 概説
パスタの主な原料は小麦粉で、他に水、塩、卵などが用いられる。デュラム小麦(デュラセム小麦)から作られたデュラムセモリナ粉(「デュラム小麦の粗引き粉」という意味)を使ったものが最も良いとされ、イタリアにおいてはパスタ用の小麦粉はデュラムセモリナ粉のみに限定されている。デュラム小麦はガラス質と呼ばれる半透明の硬い胚乳が特徴で、パンやうどんなどに適した小麦とは性質が異なっている。
パスタは大きく分けると2種類に分類でき、スパゲッティに代表される麺状のロングパスタと、マカロニに代表される小型のショートパスタがある。他にも団子状や板状のものがある。 イタリアには650種類ものパスタがあると言われており、毎年のように新しい種類が発表され続けている。乾燥パスタが多く市販されているが、家庭で生パスタを手打ちすることも出来る。今日見られるような乾燥パスタが普及したのは16世紀半ばにナポリで飢饉に備えるために保存食が必要になったことがきっかけであったとされる。
パスタはマルコ・ポーロが1295年頃に中国から麺類を持ち帰り、スパゲッティを作ったことから始まるという話が一般に流布しているが、マルコ・ポーロ以前の資料にその存在が記されていることなどから事実ではないことがわかっている。英語版Wikipediaによれば、ヨーロッパで最も古いパスタは、チェルヴェーテリで紀元前4世紀のエトルリア人の墓から出土したものである。
日本ではイタリア料理店に必ず備わっている料理であり、喫茶店、学校給食や学生食堂、社員食堂などでも広く親しまれている。イタリア料理を代表する料理と考えられ、特にスパゲッティは代表的なパスタとして知られる。本来のイタリア料理としてだけでなく、梅しそ、たらこ、納豆、刻み海苔など、日本独自の味付けによるスパゲッティ料理も数多く存在し、スパゲッティ屋と呼ばれるレストランまである。 肉料理や弁当などにパスタが付け合せとして添えられることも多い。
食料品店では、レトルト食品や瓶・缶詰のソースが売られており、簡便に食事を取れることから、米飯やパンに替わる主食としてパスタは広く普及している。
イタリアでは食事の際に第一皿としてスープなどの汁物の代わりに供する。日本では「パスタは一皿目の料理であり、パスタだけを注文できない」などと言われることもあるが、これは現在では必ずしも正しくなく、正式な食事の際や高級レストランでの食事以外では、普通のパスタだけで主食として供される。また、ロンバルディア州ヴァルテッリーナ(Valtellina)にはそば粉を使用したピッツォッキエーリ(Pizzoccheri)と呼ばれるパスタが存在する。
アメリカでは「マカロニチーズ」(Macaroni and cheese、マカロニをチーズソースであえたもの)が非常に広く食べられており、食堂やスーパーの惣菜コーナーで提供されている他、様々なインスタント食品として売られている(詳しくはマカロニを参照)。北米では、茹でたショートパスタと生野菜をサラダドレッシングで和えた「パスタサラダ」も人気がある。
18世紀初めまでは、スパゲッティは民衆の食べもので、チーズだけをかけて手で頭上にかざして下から食べるものであった。1770年代、庶民の風俗を深く愛したナポリ国王フェルディナンド4世が宮廷で毎日スパゲッティを供することを命じた。しかし上記のような民の作法がハプスブルク家出身の王妃マリア・カロリーネ (Maria Caroline) に承認されるはずもなく、賓客がより上品にスパゲッティを食べられるように、料理長ジョヴァンニ・スパダッシーノ(Giovanni Spadaccino)に命じて、もともと口に運ぶものでなく料理を取り分けるためにあったフォークを食器として使わせた。このとき先が長く三本だったフォークをもとにして、口に入れても安全でスパゲッティがうまくからむ様に先を短く四本にしたフォークが発明されたといわれている。
19世紀半ばまでにはパスタをトマトソースで食べる食べ方が普及した。
[編集] パスタの種類
- ロングパスタ
- ショートパスタ(マカロニ)
- その他
- ラザーニェ Lasagne - 縁が波打った板状のパスタ。
- ニョッキ Gnocchi - 潰したジャガイモ、法蓮草、リコッタチーズ、南瓜などを混ぜて作られるダンプリング状のパスタ。
- ラビオリ Ravioli - 詰め物入りのパスタ。2枚で閉じている。
- トルテッリ Tortelli - 詰め物入りのパスタ。
- トルテッリーニ Tortellini - 小型のトルテッリ。正方形の生地で詰め物を包み、三角形になるように二つに折り、両端を合わせて留める。詰め物は挽き肉やリコッタチーズであることが多い。
- クスクス Couscous - 粟粒大のパスタ。シチリア島で作られる他、モロッコ料理をはじめとする、同名の北アフリカの料理に用いられる。ベルベル人の伝統料理とされる。
[編集] パスタの製法
基本的にはデュラムセモリナ粉に水などの材料を入れて混ぜ合わせ、空気を抜くように捏ね上げる。 生パスタは日本の麺類と同じように仕上げるが、乾燥パスタの場合は成形する機械の中に捏ねた材料を入れ、できるだけ空気を抜きながら押し出すように成形し、そのまま乾燥させる。
風味もしくは彩りを持たせるために、イカ墨、唐辛子、ホウレンソウ、トマトなどを加える場合もある。生パスタには鶏卵が入ることが多い。
[編集] パスタの茹で方
- 大きめの深鍋にたっぷりの湯を沸かし、塩を入れる。パスタ100グラムに対して、水1リットル、塩10グラムが基本。水はもっと多い方が茹でやすいが、その場合は塩も比例して増やす。塩には、パスタに下味をつける、パスタを引き締める、表面がうどんのようにぬるぬるするのを防ぐ(化学用語で塩析という現象)といった役割がある。
- パスタを鍋に入れる。全体を湯に浸からせたら、くっつかないよう、菜箸などでゆっくり掻き混ぜ、ばらつかせる。混ぜすぎるとパスタの表面が傷むので、ほどほどに。火加減は強すぎず弱すぎず、ポコポコと沸き続ける程度。
- パスタがほどよく茹だったらザルなどに上げる。(茹で上げには、アルデンテという目安がある)。パスタは、茹で上がってお湯から取り出した後も、余熱によって茹で加減が進行するので、パスタの包装紙に記載されている時間より少なめに茹でるように留意する。(茹でた後、ソース等をからめて加熱を要する場合は調理終了を合計時間とする)
- この茹で汁には意外なうまみがあり、スープ系パスタなどの割り汁としてソースの濃度を調節したり、ソースや具に少量加えてパスタに絡めやすくしたり、パスタがくっついたりぱさぱさになってしまった場合に茹で汁を少量加えてほどくことができる。
[編集] 料理法・ソース
- パスタソースとパスタの組合せで食べる。パスタに使用されるソースは、それほど難しいものではなく、分量さえあっていれば適当に作ってもそれなりにはおいしい。あくまでイタリア料理として作る際は、イタリア料理の基礎である「素材の味を活かす」事をテーマに作ると良い。ソースの種類としては、以下に挙げられるものがある。
- ほとんどのパスタとパスタソースは組合せて食べることが出来るが、ソースによっては特にお勧めのパスタがある場合がある。例えばナポリではスパゲッティ(ヴェルミチェッリ)はトマトソースやミートソースと、リングィーニは魚介類と相性が良いとされる。白米や玄米とパスタソースとの組合せで食べる場合もある。
- アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ - ニンニク、オリーブオイル、赤唐辛子を使った最も基本的な料理法。
- アラビアータ - ニンニク、オリーブ、赤唐辛子に、トマトソースを混ぜたもの。
- アルフレード - クリームソースのパスタ。
- ヴォンゴレ - アサリの入ったもの。白ワインベースのヴォンゴレ・ビアンコが一般的だが、トマトソースをベースにしたヴォンゴレ・ロッソもある。ペスカトーレ、マリナータに近いが、貝以外の魚介類は入らない。
- カルボナーラ - 炭焼き風。生クリーム、卵、コショウを用いたソースと、油を出すように炒めたグアンチャーレまたはパンチェッタを使う。
- ジェノヴェーゼ - ジェノヴァ風。普通は生のバジリコと松の実を主材料とするソース(ジェノヴァソース)を使ったパスタを指すが、ナポリでは肉、玉葱、ニンジン、セロリで作ったソースをからめたパスタのことである。
- プッタネスカ - 娼婦風。オリーブとアンチョビとケッパーのパスタ。
- ペスカトーレ - 漁師風。魚介類のパスタ。トマト風味の事が多いが白ワイン風味もある。
- ボスカイオラ - 樵風。キノコなど山の幸のパスタ。
- ボロネーゼ - ボローニャ風。いわゆるミートソースのパスタ。
- マリナータ - 白ワインベースの魚介類のパスタ。
- マリナーラ - 船乗り風。トマト、ニンニク、オリーブオイル、オレガノが入ったマリナーラソースを使用したあっさり味のパスタ。しかしナポリではプッタネスカのことをマリナーラと呼ぶことがある。
- アマトリチャーナ - アマトリーチェ (Amatrice) 風。オリーブオイル、ニンニク、赤唐辛子、玉葱、パンチェッタ、トマトソースを使用。仕上げのペコリーノ・ロマーノも欠かせない。
また、日本ではたらこ、納豆、梅、きのこなどを使った和風のソースも数多くあり、軽食として供されてきたナポリタンもまた日本独特のものである。
[編集] 慣用的用法
日本では、イタリア料理のロングパスタをすべて「スパゲッティ」と呼ぶことが多い。厳密には、パスタの種類で述べたように太さや形状などから様々な名前が付けられているが、日本語の「そば」が場合によっては他の麺類も含めて用いられるケースと同様と捉えるべきといえよう。
また、スパゲティをさしてパスタと呼び、「ランチにパスタを食べに行く」「好きな食べ物はパスタ」などと用いることもある。なお、ランチでのパスタ(スパゲティ)の利用は、女性が圧倒的に多い。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- Anderson, Jean. American Century Cookbook. Potter, New York, 1997
- Jamison, Cheryl Alters and Bill Jamison. American Home Cooking. Broadway, New York, 1999.
- Schwartz, Arthur. Naples at Table. Harper Collins, New York, 1996.
[編集] 外部リンク
- 社団法人 日本パスタ協会 - 「まんがはじめて物語」のモグタンがキャンペーンキャラクター