Opteron
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Opteron(オプテロン)は米AMD社が開発製造販売を行っているマイクロプロセッサのシリーズのひとつ。同じくAMDが開発したAMD64命令セットを採用し、サーバ・ワークステーション用途を念頭に置いて開発されている。オプティオンとの日本語表記が正式発表されていたが、2003年4月22日以後に非公式ながらオプテロンに差し替えられている。英語表記からそうは読めない為の改変だと思われる。 Athlon MPの後継にあたり、同社製コンシューマ市場向けプロセッサAthlon 64の上位モデルに位置する。
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[編集] 概要
[編集] Athlon 64との相違
Athlon 64との最も大きな違いはマルチプロセッサ構成が可能な点である。Opteron 1xxはユニプロセッサ構成専用、Opteron 2xxではデュアル(2)プロセッサ構成まで、Opteron 8xxでは8プロセッサまで、というように、モデルナンバーの百の位が、システムで構成できるプロセッサの最大数を示している。また、ハイパートランスポート(HyperTransport)インターフェイスがOpteronは3本なのに対して、Athlon 64は外部接続用の1本に制限されているのが最大の相違である。また、ハードウェアインターフェイスとして、Socket940を採用している。
しかし、2005年8月2日のAMD発表でOpteron 100シリーズはデスクトップPC向けソリューションであるSocket 939に移行し、HyperTransportも1本に制限されることになる。この変更は機能的には格下げと言え、それまで可能であったコンパニオンチップをOpteronに2つ接続する構成が不可能となってしまった。しかし元々ユニプロセッサで2つのコンパニオンチップが実装されたマザーボードはこれまでも存在しておらず、PC市場で入手可能な現実的対応を行ったことになり、それに併せてメインメモリで用いるメモリの種類がRegisteredからUnbufferdに変更され、Athlon 64化が実施されたと言える。
また、マルチプロセッサ構成のOpteron 2xxと8xxでは、DDR2 SDRAMに対応するため、Socket Fという全く新しいハードウェアインターフェイスに移行する。Socket Fは従来の940ピンから1207へと大幅にピン数が増加し、CPU側にピンがあったPGA(Pin Grid Array)-ZIF方式から、マザーボード側にピンがあるLGA(Land Grid Array)方式に移行している。シングルプロセッサ構成のOpteron 1xxも同様に、Socket 939からSocket AM2に移行している。(集積回路の項目も参照)
なお、世界のスーパーコンピュータランキングTOP 10には、AMDの Opteron搭載コンピュータがランクインしている
[編集] Athlon MPからの改良点
Athlon MPからの主な改良点は、メモリコントローラーの内蔵と、AMD64というx86命令の64ビット拡張命令の2つである。また、ストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)もサポートされ、後に同3(SSE3)も実装された。
Athlon・AthlonXP/Duron・Sempron等の32bitCPUシリーズプロセッサは、メモリコントローラーをCPUの周辺LSIであるチップセットに持たせている。この構成ではチップセットを介することでレイテンシが増え、メモリへデータを読み込んでいる間はCPU側の処理が行われていない事が少なくない。そのため、チップセットのメモリコントローラーの処理能力がそのままCPUの処理能力のボトルネックとなっていた。そこで、AMDはOpteron、Athlon 64ともにメモリコントローラーをCPUに内蔵することで、『CPU→チップセット→メモリ→チップセット→CPU』となっていた経路を『CPU→メモリ→CPU』と短縮し、CPUのメモリ読み込み要求からデータ受け取りまでの時間(メモリレイテンシ)を大幅に低減させた。これは分岐予測の効きにくい、処理の複雑なアルゴリズムを持つアプリケーションや、アクセス回数の少ないデータをメモリ上で大量に取り扱うようなアプリケーションに絶大な効果をもたらし、またアプリケーション側の対応を必要としない方法であったため、古いアプリケーションも新しいアプリケーションも高速化させる事が可能である。
[編集] Opteronの躍進
OpteronではSun、HP、IBM、DELLという4大サーバメーカの採用を勝ち取った。特に過去のいきさつからIntel製CPUのみを採用し続け、Intelの水平分業モデルの優等生と言われたDELLの方向転換は、大きなインパクトを与えた。
これは、インテルが過去の資産を全て無に帰して全く新しいアーキテクチャを備える64bitCPUを普及させようとしたことに対して、十分に安価でこなれているx86プロセッサの処理能力を高めるというシナリオを望んでいた業界のニーズに、x86アーキテクチャを素直に64bit拡張して従来の16/32bitアプリケーションもそのまま動作するAMD64のアーキテクチャ仕様が合致したためである。また、Microsoft WindowsがAMD64対応を発表[1]したことで、将来性も安定したものとなり、普及に弾みが付いた。これによりIntelは、今までの互換プロセッサを作られる立場からAMD64互換のCPU(EMT64アーキティクチャ)を作る立場となり、アーキティクチャ主導権をAMDが奪取した事に大きなインパクトを業界に与えた。
サーバー市場への参入は以前からのAMD社の悲願であったがOpteronの登場により大々的かつ広範囲の参入が可能となり、利益率の高いエンタープライズ市場で高利益のCPUを売りコンシューマでの価格競争力を維持するという収益構造を構築することが可能となった。数々の快挙を成し遂げたOpteronは、AMD社のチップ生産力の引き上げを目的として新しく建設されたFab36の立ち上げとともに、さらなるシェアの向上が見込まれている。
世界的な検索エンジン企業Googleも、2005年より自社のバックエンドサーバをOpteron搭載サーバに切り替えている。
[参考文献(AMD社)]
- ↑ Microsoft社内ではWindows NTの生みの親であるデヴィッド・カトラーが開発段階よりAMD64を強く支持したとされる。
[編集] Opteronナンバー1xxの意外なキャパシティ
本来サーバー向けCPUのOpteronだが、個人ユーザーの一部から爆発的な人気を集めたナンバーが存在する。Opteron144/146である。人気の秘密は、オーバークロックによる性能向上率が非常に優秀な点にあった。2万台半ばのOpteronが12万円台のOpteronに匹敵する性能(3GHz)をオーバークロックにより引き出せると言う評判が、特に自作パソコンユーザーの間で立ったのである。もちろんクロック数が同レベルでも大元のアーキテクチャが変わらない限り性能は2xxナンバー製品に見劣りするが、コストパフォーマンスという観点からみれば1xx台の方がはるかに有利である。
しかし、2005年12月初頭、AMD社の正規流通によるリテール販売中止に伴い、入手困難になってしまった。
[編集] EEとHE
消費電力が比較的少ないOpteronは、更なる低消費電力のOpteronを発表している。Opteron EEとOpteron HEである。Opteron EEはTDPを30W枠に、Opteron HEは同55W枠におさめた製品で、これにより熱密度が大きくなりがちなブレードサーバなどでの利用も容易となった。当然ながら、性能は通常版よりも低く抑えられていてCPU自体の価格は比較的高価である。ちなみに、EEはEnergy Efficient、HEはHighly Efficientの略。
[編集] SE
またEE/HEとは逆にOpteron 1000/2000/8000シリーズの最上位の位置付けとして高クロック、高TDP仕様のSEが存在する。TDPは120W~125W。SEはSpecial Editionの略。
[編集] クアッドコア
2007年投入予定のOpteronで4コアを持つ。
[編集] 各世代についての詳細
以下のCPUコアの名称はAMD内部での開発コードネームである。
[編集] SledgeHammer(スレッジハマー)
2003年4月にリリースされた第一世代のOpteron。0.13μmのSOIプロセスで製造され、1MBの2次キャッシュを搭載する。拡張命令は3DNow!Professional(SSE)とSSE2に対応する。
- ラインナップ(括弧内はモデルナンバー)
- 1.4GHz(x40)、1.6GHz(x42)、1.8GHz(x44)、2GHz(x46)、2.2GHz(x48)、2.4GHz(x50)
[編集] Athens / Troy / Venus(アテネ/トロイ/ヴィーナス)
2005年2月にリリースされた第2世代のOpteron。製造プロセスが90nmのSOIプロセスに微細化され、対応するハイパートランスポートバスのクロックが1GHzに高速化され、新たにSSE3もサポートした。リビジョンはE。2次キャッシュはSledgeHammerと同じく1MB。
なお、「Athens」はモデルナンバー800番台の製品に、「Troy」は200番台の製品に、「Venus」は100番台の製品にそれぞれ付けられたコードネームである。
- ラインナップ(括弧内はモデルナンバー)
- 2.6GHz(x52)
[編集] Egypt / Italy / Denmark(イジプト/イタリー/デンマーク)
2005年5月にリリースされた第2世代のリビジョンEのOpteronの中で、Athens/Troy/Venusと同等の機能を持ったCPUコアをダイの中に2つ搭載するデュアルコア構成を採用する。「Egypt」はモデルナンバー800番台の製品に、「Italy」は200番台の製品に、「Denmark」は100番台の製品にそれぞれ付けられたコードネームである。
[編集] Santa Rosa / Santa Ana(サンタローザ/サンタアナ)
2006年8月にリリースされた第3世代のOpteron。リビジョンはF。Socket Fを採用し、モデルナンバーは12xx/22xx/82xxのように各プロセッサの拡張性を表わす数値「1」・「2」・「8」に第2世代ソケットを表わす「2」を付与した形で一新している。Santa Rosaは8200番台および2200番台、Santa Anaは1200番台に相当する。
[編集] Hound(ハウンド)
2007年前半に予定されているリビジョンGの総称となるコードネーム。K8よりさらにIPCを高めたK9、K10というロードマップが存在していたが、消費電力やコストの割りに性能が伸び悩むことが確実となってきた為に中止され、現在のK8をマルチコア化するK8Lに開発の方向性が転換された。最初の製品はDeerhound(ディアハウンド)と言われている。
[編集] Barcelona(バルセロナ)
元々は上記のディアハウンドと呼ばれていたもので、ネイティブ4コアを持つOpteronである。
[編集] Zamora(サモラ)
2007年前半に予定されているリビジョンHの総称となるコードネーム。
[編集] 関連項目
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[編集] 外部リンク
- AMD Opteron Processor(日本AMD公式サイト)