黒体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
黒体(こくたい、Black body、あるいは完全放射体)とは、外部から入射する熱放射など(光・電磁波による)を、あらゆる波長に渡って完全に吸収し、また放出できる物体のこと。完全な意味での黒体(完全黒体)は現実には存在しないと言われているが、ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体はある。
黒体からの熱などの放射を黒体放射と言う(以前は黒体輻射ともいった)。ある温度の黒体から放射される電磁波のスペクトルは一定である。温度 T において、波長 λ の電磁波の黒体放射強度 B(λ) は
で表される。これをプランク分布という。プランク分布を全波長領域で積分することで、黒体放射の全エネルギーが T4 に比例する(E=σT4,σ=シュテファン=ボルツマン定数)というシュテファン=ボルツマンの法則を得る。また微分して B(λ) が極大となるλを求めることで、 放射強度最大の波長が T に 反比例するというヴィーンの変位則を得る。
[編集] 空洞放射
十分に大きな空洞を考え、空洞を囲む壁は一切の電磁波、光を遮断するものとする。この空洞に、その大きさに対し十分に小さな孔を開ける。孔を開けることによる空洞内部の状態の変化は無視できるとする。外部からその孔を通して入った電磁波(ある特定の波長のものが光)が、空洞内部で反射するなどして再び出てくることは、孔が十分に小さければ無視することができる。つまり外部から入射する電磁波(上に同じ)を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなすことができる。
この空洞からの熱などの放射を空洞放射と言う。
[編集] 黒体放射と量子力学
理想的な黒体放射を現実にもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存するという法則はグスターブ・キルヒホッフにより1859年に発見された。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究され、最終的に1900年にマックス・プランクによりプランク分布が発見され、その理論が完成された。
物理的に黒体放射をプランク分布で説明するためには、黒体が電磁波を放出する(電気双極子が振動する)ときの振動子の量子化を仮定する必用がある。(en:Planck's law of black body radiation)つまり、振動子が持ちうるエネルギ(E)は振動数(ν)の整数倍に比例しなければならない。
この比例定数は後に、プランク定数とよばれ物理学の基本定数となった。この仮定は古典力学と反する仮定であった(古典力学では物理量は連続な値をとり、量子化されない)。しかし、1905年にアルベルト・アインシュタインはこのプランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明したことにより、この量子化の仮定に基づいた量子力学が築かれることとなった。
[編集] 関連記事
カテゴリ: 統計力学 | 光 | 熱 | 自然科学関連のスタブ項目