スペクトル
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最も広い意味でのスペクトル (Spectrum) とは、複雑な情報や信号をその成分に分解し、成分ごとの大小に従って配列したもののことである。2次元以下で図示されることが多く、その図自体のことをスペクトルと呼ぶこともある。様々な領域で用いられる用語で、様々な意味を持つ。
数学や物理学では時間信号をフーリエ級数展開したときの各調波成分の振幅の大きさを周波数の関係から見たものという意味で用いられる。
[編集] 天文学におけるスペクトル
天文学においては天体からの光をプリズムや回折格子といった分光器を通すことにより得られる、光の波長ごとの強度の分布をスペクトルという。
- 連続スペクトル
- 熱放射による光はあるゆる波長の光を含んでいる。このような光はプリズムで分光すると連続的な虹色の模様になる。そこでこのような光のスペクトルを連続スペクトルという。
- 輝線スペクトル
- 電離あるいは励起された原子から放射される光は原子内の電子のエネルギー準位が量子化されているため、ある特定の波長だけに限られている。このような光はプリズムで分光すると離散的ないくつかの光の線となる。この光の線を輝線といい、輝線からなるスペクトルを輝線スペクトルという。
- 吸収線スペクトル
- 連続スペクトルを放つ光源と観測者との間に原子が存在すると、その原子がある特定の波長の光を吸収して励起されるため、その波長での強度が減少したスペクトルとなる。このような光はプリズムで分光すると連続的な虹色の模様の中にいくつかの暗い線が見られる模様となる。この暗い線を吸収線または暗線という。吸収線を持つスペクトルが吸収線スペクトルである。
恒星は中心部の核融合反応で輝くガス球であり、その分光学的性質はほぼ黒体に近い。そのため、恒星のスペクトルは大雑把にはその表面温度の黒体放射に対応する連続スペクトルとなっており、その中に恒星大気中の原子や分子による吸収線スペクトルが見られる。その吸収線スペクトルのパターンによって恒星の分類がされている。これをスペクトル分類という。 太陽も恒星の一つであるから、そのスペクトルには吸収線が見られる。この吸収線は発見者の名前をとってフラウンホーファー線と呼ばれている。
[編集] 化学におけるスペクトル
化学においては試料に対してなんらかの刺激を与えた際、その刺激や応答を特徴づける量に対して応答強度を記録したものをスペクトルという。刺激としては電磁波が用いられ、そのとき用いた波長に対して吸収強度を記録したものをスペクトルという例が多い。しかし、質量分析法では刺激として電子衝突を用いて、分解によって生じた破片の質量に対しその量を記録したものをスペクトルと呼んでいる。分光法も参照のこと。