里親
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里親(さとおや)とは、通常の親権を有しない者で児童を養育するもののことである。日本では行政が要保護児童をあらかじめ認定・登録された者に委託し養育する里親制度が存在し、児童養護施設・乳児院等による児童の養育と並ぶ制度となっている。里親制度は2002年に大幅な改正が行なわれた。東京都では独自の里親制度として養育家庭という名称を用いている。2005年3月31日現在、全国に7,542人の里親がおり、うち2,184人の里親に計3,022人の児童が委託されている。
児童福祉法第6条の3には、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童(要保護児童)を養育することを希望する者で、都道府県知事又は政令指定都市の市長が適当と認めるものを里親と定義している。里親希望者は都道府県または政令指定都市に認定を申請し、児童福祉審議会の審議を経た上で認定・登録を受ける。児童の養育の委託を受けると、行政から児童の養育費・里親手当等が支払われる。養育の方法などについては省令に最低基準の定めがある。養子縁組を目的として里親を希望する場合もあるが、一般には両者は全く別の制度である。
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[編集] 里親の種類
里親制度における里親には、養育里親、親族里親、短期里親、専門里親の4種が「里親の認定等に関する省令(平成14年厚生労働省令第115号)」に定められている。
養育里親は2002年の制度改正前からの一般的な里親で、要保護児童の養育を行政から委託され、最大で児童が20歳になるまでの間養育を行なう。
短期里親は養育委託の期間を1年以内に限定された里親であるが、期間は必要に応じて更新することができる。
親族里親は両親が死亡・行方不明等で児童を養育できないときに、児童の3親等以内の者が代わって養育する場合の制度である。このような場合、児童扶養手当の受給も考えられるが、養育する者が児童の祖父母など高齢者で、老齢年金等の受給を受けている場合、児童扶養手当は受給できないという問題があった。この問題を解決するために親族里親の制度が創設された。(児童扶養手当#年金との併給の問題)。
専門里親は一定の期間、里親としての養育経験や児童福祉分野の経験がある者が、専門的な研修を修了した上で登録を受けられるもので、児童虐待等により心身に有害な影響を受けた児童、知的障害を持つ児童、非行傾向を持つ児童などを預かることができる。専門里親による養育は原則2年を限度とするが、必要に応じて更新することができる。
これらのうち、養育里親・短期里親の登録者の中には、将来的な養子縁組を目的として身寄りのない児童の委託を受けることを目的として登録を希望する者もいる。特に、特別養子縁組を行なうためにはその前に6か月以上の試験養育期間を設ける必要があるため、その間の養育を里親制度による委託によろうとする場合がある。
2005年の児童福祉法改正前には、これらのほかに義務教育修了後行き場のない児童を引き受け、職業指導を行なう保護受託者(職親とも)という制度が存在したが廃止された。
[編集] 里親の認定
里親になることを希望する者は、一般的には居住地の児童相談所に申し込みを行なう。児童相談所では書類および訪問・面接等により、里親要件を満たしているかを調査する。要件は里親の認定等に関する省令に定められており、下記のものがある。
- 心身ともに健全であること。
- 児童の養育についての理解及び熱意並びに児童に対する豊かな愛情を有していること。
- 経済的に困窮していないこと(親族里親には適用されない)。
- 児童の養育に関し虐待等の問題がないと認められること。
- 児童福祉法及び児童買春禁止法の規定により、罰金以上の刑に処せられたことがないこと。
さらに、専門里親には下記の要件が追加される。
- 里親としての養育経験又は児童福祉に関する経験が一定以上あること。
- 専門里親養成を目的とした指定の研修を受講し、修了後2年以内であること。
- 児童の養育に専念できる環境にあること。
これらの要件を満たすと、里親の適否は各地方公共団体の児童福祉審議会(または地方社会福祉審議会)によって判定される。審議会に適当と判断されると、希望者は里親として認定・登録される。認定・登録は一定期間ごとに更新が必要である。養育里親・短期里親は5年ごと、専門里親は2年ごとに再度認定を受けなくてはならない。親族里親は更新の必要はないが、対象となっている児童を養育しなくなると自動的に認定は取り消される。
[編集] 児童の受託
親族里親を除き、里親登録してもすぐに児童の委託を受けるわけではない。里親・児童・児童の保護者の意向をもとに、適切と思われる里親と児童の組み合わせを児童相談所が提案し、数度の面接、試験養育(里親宅での短期の同居)を経て児童を里親へ措置することが決定される。委託される児童は俗に里子と呼ばれる。複数人の里子を受託することも可能であるが、児童の数は実子などと里子を含めて6人を超えてはいけない。
児童の養育にあたっては、里親に一定の監護権・教育権・懲戒権を有するが、懲戒権を乱用してはならないなど、養育にあたっては「里親が行う養育に関する最低基準(平成14年厚生労働省令第116号)」の遵守が求められている。
[編集] 養育にかかる費用
児童を養育することになると、都道府県又は政令指定都市から里親委託費が支給される。委託費は児童の一般生活費と里親手当からなり、一般生活費は他の児童福祉施設に委託される場合とほぼ同額(月額50,000円弱)で、その他児童の通う学校等に応じて加算がある。里親手当は養育里親・短期里親の場合月額30,000円、専門里親の場合月額90,200円(平成16年度)であり、親族里親には里親手当の支給はない。このほか、児童が医療機関を受診した場合、その費用は全て行政が負担する。
[編集] 養育の期間
児童の養育は、原則として満18歳に到達するまでであるが、必要に応じてこれを20歳になるまで延長することができる。ただし、幼児期から養育してきた場合などでは、委託が終了したとしても里親と里子との間で実の親子同然の関係が成立していることが多く、里子の自立後も進学・就職・結婚等にあたって里親が里子の相談に応じたり、自発的に生活の援助を行なったりするケースも多い。
[編集] 真実告知
乳幼児期に里親委託を受け、以後ずっと実親との交流がない場合、特に学校などでも里親の姓を名乗り、里親を「おとうさん」「おかあさん」などと呼ばせている場合には、里子は里親を実の親と思い続けている場合がある。このとき、里子に実の親の存在を告げることを真実告知といい、里親として児童を養育する場合の大きなポイントとされている。真実告知にあたっての注意点として下記が挙げられる。
- 年齢が高くなるほど、里親以外のものから知らされるほど真実告知時の里子のショックは大きくなるため、できるだけ早いうちから、里親自身によって真実告知をする。
- 産みの親を「本当の親」とは呼ばない。産んだ親と今育てている親は別であるが、両方とも里子にとって本当の親であり、両方とも里子のことを大切に思っていることを伝える。
- 実の親が虐待・酒乱・薬物依存等の状態にあったとしても、産みの親のことを決して悪く言わない。
- 里子が自らの出自を知りたい、実の親に会いに行きたいと考えた場合、里子が充分に成長しているのならそれを阻害しない。
[編集] 里親に関わる団体
里親に関わる団体としては、まず里親会があげられる。全国組織としての財団法人全国里親会のもと、各都道府県・政令指定都市ごとに里親の団体が存在する。社団法人やNPO法人など法人格を有するものは少なく、大抵は児童相談所や福祉事務所、社会福祉協議会に事務局を置く任意団体である。
社団法人家庭養護促進協会などでは、里親制度の普及、研修の実施のほか、要保護児童の養子縁組のあっせんを行なっている。
財団法人恩賜財団母子愛育会では、厚生労働省の指定を受けて専門里親として認定されるために必要な研修を実施している。
[編集] 里親制度の問題点
[編集] 里親委託費の額の問題
里親の委託を受けた場合に行政から受けることができるのは、1人あたり月額50,000円前後の一般生活費と、人数にかかわらず里親1人あたり月額30,000円の里親手当というのが標準である。この額は里子を養育していくための費用としては充分でなく、多くの里親がこの額を超えて私費を里子の養育に費やしている。特に里親手当については児童福祉施設における事務費(定員1人あたり10万円以上)と大きな開きがあるため、全国里親団体をはじめとして一般生活費と里親手当の増額を求める声が根強い。2002年の制度改正以前には「里親は児童の養育を委託しているだけであり、監護権・教育権・懲戒権は原則として都道府県が行使し、最低基準も定められていないため、児童福祉施設とは取り扱いが違う」という説明がされることがあったが、これら児童福祉施設と里親との違いは改正によって無くなったため、里親・施設間格差是正を要望する声は一層大きくなっている。
[編集] 里親委託推進の問題
児童福祉施設における生活に比べ、家庭で家族同様の愛情をもって養育される里親制度の方が児童の健全な育成にとっては望ましいとされていることから、国では施設から里親委託への転換・推進を目標としている。少子化社会対策基本法に基づき国が定めた子ども・子育て応援プランにおいては、全要保護児童のうち里親に委託されている児童の割合を、2003年度の8.1%から2008年度までに15%に引き上げることを目指しているが、目標達成のためには前述の里親委託費の問題をはじめとした里親の地位・待遇向上など、解決すべき課題がある。
[編集] 里子のパスポート取得の問題
未成年者がパスポートを取得する際には、親権者又は未成年後見人の承諾が必要であるが、里親はこれらに該当しないため、里子を海外旅行に連れて行く、または修学旅行等で里子が海外旅行をするという場合にパスポートの取得に困難を来すことがあった。里親関係団体等の運動の結果、2001年から里親の承諾でも可能となるよう外務省の取扱い基準が改正され、里子のパスポート取得が容易になった。
[編集] 里親名称の独占の問題
「里親」という名称自体は古く平安時代から存在すると言われ、法令でも名称を児童福祉法に定める里親以外が使うことに関して特別の規制がない。このため、例えば引き取り手のない動物を「里子」、飼い主のなり手を「里親」と呼んで募集する民間団体や、道路や公園などを地域の住民が自発的に清掃・管理する「道路里親」「公園里親」といった事業を行なう地方公共団体が存在する。里親団体などでは、こういった名称が里子の心を傷つけるとして、「里親」「里子」といった名称を人間以外に使用しないよう働きかけている。
[編集] 里親制度の歴史
[編集] 日本以外の国における里親制度
[編集] 参考文献
- 家庭養護促進協会『里親が知っておきたい36の知識』家庭養護促進協会神戸事務所、2004年、ISBN 4899851243
- 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(監修) 『子どもを健やかに養育するために』日本児童福祉協会、2003年
- 坂本洋子 『ぶどうの木』幻冬舎、2003年、ISBN 4344002954
- 庄司順一 『Q&A里親養育を知るための基礎知識』明石書店、2005年、ISBN 4750321729
- 湯沢雍彦 『里親制度の国際比較』ミネルヴァ書房、2004年、ISBN 4623040011
- 湯沢雍彦 『里親入門』ミネルヴァ書房、2005年、ISBN 4623044211