虹色のトロツキー

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日本の漫画作品

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『虹色のトロツキー』（にじいろのトロツキー）は、安彦良和の漫画作品。「月刊コミックトム」に1990年11月号から1996年11月号に掲載された。昭和初期の満州国を舞台に当時メキシコに亡命していたレフ・トロツキーを満州に招く「トロツキー計画」とノモンハン事件がモチーフになっている。潮出版から単行本が中央公論社より中公コミック文庫版が出版されている。

注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。

[編集] あらすじ

昭和初期、幼いころトロツキーに似た何者かに家族を虐殺され、自身も記憶を失った日蒙混血の青年ウムボルトは奉天師範学校校内で抗日ビラを配布した嫌疑により憲兵に逮捕されるが、関東軍参謀副長石原莞爾将軍に助けられる。そしてメキシコに亡命しているトロツキーが中ソ国境付近に潜伏しているという情報を元に、トロツキーを満州に招聘する「トロツキー計画」を実行するべく満州国建国大学に編入させられる。しかし石原将軍は本国に召還され、ウムボルトの命運は野心に満ちた関東軍の辻政信参謀に握られてしまう。さらに抗日運動の大物活動家となった幼なじみのジャムツ、同じく抗日運動をしていた仲間の麗花らに命を狙われる。

その後、建国大学を去り中国人や朝鮮人らと馬賊の頭目として活躍するもののウムボルトの出生の秘密を知っている関東軍大連特務機関長にしてユダヤ通である安江仙弘大佐にトロツキー計画の中止と辻政信参謀の暴走を止める為協力するように要請され、満州国軍に少尉として任官し満州国の士官学校である興安軍官学校に赴任する。ここで日本人、モンゴル人の同僚や部下たちとときには相対しながらも切磋琢磨する日々を送るが、校長代理であるウルジン将軍に呼び出され、将軍の口からウムボルトは出生の秘密を聞く。その直後に上海にトロツキーの偽物があらわれたという情報により、ウムボルトは安江大佐とともに上海に赴きトロツキーの偽物と接触しようと試みる。安江大佐は幼いウムボルトが接触したのはトロツキーではなく、彼の偽物であると確認し、トロツキー計画を破綻させようとした。しかし、その場に川島芳子があらわれ、偽トロツキーは殺害される。ウムボルトは幼い頃接触した人物が本物のトロツキーではなく、偽物のトロツキーであることを確信したものの、父の無念さを感じて恩がある安江仙弘大佐にもそれを秘密にする。失意の中、川島芳子のパーティーに招かれそこで李香蘭と出会い、お互いの複雑な心境を語りあう。そのころソ連軍が国境を越えノモンハンに進軍を始め、功名心にかられた辻参謀は同僚の服部卓四郎参謀らと司令部を欺き独断で大規模戦闘を開始しすべく次々と無謀な作戦立案をし実行していく。ウムボルトも前線に出動することとなりかつて命を狙っていたものの抗日組織の度重なる洗脳により放心状態になった麗花と結婚し一晩だけの契りを結ぶ。ノモンハンの戦場ではソ連軍の猛攻に加え、関東軍・満州国軍は経験の足りない兵とエリート将校たちのエゴ、払底する物資などの悪状況で戦況は暗転していく一方だった。このときウムボルトは戦闘の最中に満州人でありながら日本軍の高級将校になったジョンジュルジャップより父を殺害した状況を詳しく知る関東軍の花谷大佐に引き合わされ、父を殺害する命令を下したのが誰か聞き出すが仇は取らなかった。そしてウムボルトは壮絶な戦闘でなんとか生き延びるものの…。

[編集] 主な登場人物

ウムボルト - 主人公。蒙古人。幼いころ何者かに襲撃され父母の記憶を失う。師範学校で抗日活動をしているところを憲兵に捕らえられ厳しい拷問を受けるが石原莞爾将軍に助けられ満州にトロツキーを招聘する「トロツキー計画」に協力するように命令され運命を翻弄される。
ジャムツ - 主人公ウムボルトの幼なじみ。孫逸文の偽名で活動する抗日運動の大立て者。しばしウムボルトの命を狙う。
麗花 - 歌手、抗日運動の活動家で当初はウムボルトの命を狙うが…

[編集] 実在する登場人物

植田謙吉 - 関東軍司令官。
東条英機 - 関東軍参謀長、のち首相。本作中では冒頭にしか登場しないが短絡的で謀略を好む人物として描かれている。
石原莞爾 - 関東軍参謀副長、本作中でトロツキーを満州に招聘しようと試みる。
辻政信 - 関東軍作戦参謀、功名心の高い野心家で声が異常に大きな人物として描かれている。この作品では狂言回しのような役回りで登場する。
服部卓四郎 - 関東軍作戦参謀、辻の同調者。
安江仙弘 - 大連特務機関長、満州国にユダヤ人自治区を築くために活動している。作中では数少ないウムボルトの理解者。
犬塚惟重 - 海軍のユダヤ問題特務機関長。
甘粕正彦 - 満州国共和会の幹部、作中では共産主義と石原莞爾を極端に嫌っておりウムボルトの素性を探ろうとする。
松岡洋右 - 満鉄顧問、のち外相。作中では強面外交官として登場。登場シーンは少ないが対米英強硬派として描かれている。
植芝盛平 - 合気道創始者として建国大学で指導にあたる。かつて出口王仁三郎とともに満蒙分離工作に関与し、ウムボルトを厳しくも優しく見守る。
中山優 - 建国大学教授。東亜連盟論者として近衛文麿のブレイン。
天竜 - 元関脇。春秋園事件により大相撲脱退後、建国大学で相撲を指導。
川島芳子 - 清朝皇族粛親王の王女。男装の麗人。作中では度々ウムボルトを篭絡しようとする。
李香蘭 - 歌手・女優、戦後参議院議委員として活動した山口淑子。作中では国籍を偽って女優として活動している複雑な心中をウムボルトに告白している。
謝文東 - かつての土龍山事件の指導者で東北抗日聯軍の将軍。中国人農民を率いてウムボルトとともに日本人開拓移民を襲撃する。のち日本軍に帰順し漢奸として処刑。
レフ・トロツキー - ソ連の革命家、本作には「トロツキーによく似た」人物が何度も登場するが、それはトロツキーの影武者である。
ジョンジュルジャップ - 満洲国軍人。蒙古族。父親は満蒙独立運動で戦死した将軍パプチャップ
花谷正 - 満州事変の謀略に若い参謀として直接関わる。1956年その一部始終を公開した。部下を自殺に追い込むなどサディスティックな一面がある。
田中隆吉 - 日本軍の謀略を実行し、日本軍の闇に通じていた人物。戦後は東京裁判でその謀略を証言し、少数の犠牲者で天皇や多くの人の命を救う。しかし、自らが罰せられる事を免れるための行為と批判する声も大きい。
尾崎秀実 - 近衛内閣の嘱託として、政策決定に影響力を加えた人物。しかし、共産主義者でもあり、後にゾルゲ事件で逮捕・処刑される。
辻権作 - 日露戦争の旅順攻囲戦に小隊長として参戦する。疎開戦法小部隊戦闘指揮研究の大家。第一次上海事変に出征し勇名をあげ、予備役となった後は満州の建国大学教授となる。