異性装
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異性装(いせいそう)とは、文化的に性役割に属するとされる服装をしないこと。
男性が女性に属する服装をすることを女装(じょそう)と言い、女性が男性に属する服装をすることを男装(だんそう)と言う。ただし、性別役割に則っている場合においては逸脱とはみなされない。
服装規範を逸脱した人が持つ性の歪みやフェティシズムを異性装嗜好およびトランスヴェスチズム(transvestism)ともいい、下着嗜好癖や性転換願望症などがその例といえる。異性装を行う者をトランスヴェスタイト(transvestite,TV)と呼ぶが、これは医学的な概念として外部から名付けられた呼称であり、この呼称にネガティブなイメージを持つと考える異性装者が自ら生み出した名称としてクロス・ドレッサー(cross-dresser, CD、クロス・ドレッシングとも)がある。比較的、男性に一層多い事が知られており、心理学的には母子の病的共生関係を背景にした、二重性別的なパーソナリティの形成にその原因があるといわれている。
また現代においては、男性の女装を性嗜好に結びつける偏見が強い一方、女性の男装に関しては比較的寛容な傾向にある。
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[編集] 異性装とは
一定にまで発達した文化は、多くの場合性別ごとに異なる服装の規範を与えている。この規範において異性のものと規定される服装を身につけることが異性装である。例えば、現代の日本ではスカートは女性に属するものとされているので、男性がこれを身につけることは女装と定義されることが多い。逆にネクタイは原則として男性に属するものとされているので、フォーマルな服装において女性がネクタイを締めることは男装とされる場合が多い。
男性と女性あるいはその他の性別にどのような服装規範を充てるかは時代や地域によって異なる。例えば、近代の欧米の文化ではスカートは女性に充てられることの多い衣装であるが、アジアでは必ずしもそうではない。またスコットランドの伝統的な衣装であるキルトは形態としては巻きスカートに当たるが、これは男性に属するものとされ1920年代までは女性がキルトスカートは穿かなかった。
[編集] 異性装の理由
宗教的祭礼の服装の場合や、遊戯(仮装)の服装の一種、身を隠す手段(変装)として一時的に異性装をする場合もある。
- 宗教
- 異性装は宗教儀式の一環として行われることもある。異性に属する神秘的な力を取り込む目的や、神が行った異性装を模倣する目的などがある。
- 例えば古代ギリシアではヘラクレスに仕える神官(男性)はヘラクレスに倣って女装を行なった。
- 女性の生命を生み出す力を取り込むための女装は原始宗教の中に広く見られる。
- 近代日本では大本教教祖(正しくは男性聖師)の出口王仁三郎(1871-1948)がしばしば女性装を行っていた。
- 芸術としての代替
- 何らかの事情により女性(もしくは男性)を排除しなくてはならない場合、その代替を異性装をした男性(もしくは女性)が担うことがある。
- 例えば歌舞伎は、いわゆる女歌舞伎が禁止された歴史があり、伝統的に男性のみで演じられるため、女形と呼ばれる女性を演じる役者が必要となった。また、そのほかに、女性のみで演じられる宝塚歌劇団において、男性役を演じる役者の例がある。
- また、服装パターンの性別への割り振りを解体することにより、ファッションとして新しい表現を試みることがある。
- ドラァグ・クイーンやいわゆるヴィジュアル系バンドの一部をこの例と見る論がある。ただし、後者の例では異性の服装をただのファッションとして着用しているため、これは異性装には含めない場合の方が多い。
- 映画『1999年の夏休み』では、少年役を全て少女が演じ、カルト映画として熱狂的なファンが存在する。
- また前述の女形や宝塚男役に関しても、単なる男性役者の代替ではなく、男役にしかない美を評価する支持者が既に存在することから、芸術としての異性装に分類することもできる。
- 遊戯行為
- 変身願望や、余興としての仮装や他者への道化などによって、異性装を行う場合がある。この場合も、行為者は自分が異性装を行っていると自覚していることも多い。この場合には、極端な異性装とはいかなくても、異性の服装で身を包みたいという願望の背後には正常範囲をやや外れて形成されたパーソナリティが認められるであろう。
[編集] 異性装嗜好者
- 性嗜好
- 異性装を行うことによって性的に興奮したり快感を感じたりする者がいる。多くは男性による女装であり、女性にはほとんど見られない。(しかし、男性を女装させたり、女装した男性を見ることに性的な快感を感じる女性はいる)アメリカ精神医学会『精神障害の診断と統計の手引き』第4版 (DSM-IV) によれば、生活に支障を来す程の重度のものは「302.3 服装倒錯的フェティシズム」としてパラフィリアの一種に分類される。
- 性自認の表現
- 性別に応じた服装のパターンが果たしている1つの役割は、自己の性別に関する認識を表現することである。そのため、性同一性障害のように身体的な性別と性自認が異なっている場合には、性自認を服装によって表現すると身体的性別とは食い違う。このケースも異性装と呼ぶことがある。
- 性同一性障害者やその診断に関わる医師の一部には、性自認を無視して彼らの状態を異性装と呼ぶことに反対する意見がある。すなわち、異性装とは「本人の性別」に対して異性の服を身につけることであるから、本人の自己同一性を無視して「本人の性別」を定義することは不当であるとしている。
- 心理療法
- 神経症の治療法として異性装が有効な場合がある。
- 政治的主張の表明
- 文化的な性別役割を期待された服装規範をジェンダー規範の象徴と捉え、性差が曖昧な服装をすることにより、社会で必要以上に服装で男性と女性を区別しないファッションを主張する場合がある。この場合は性嗜好の逸脱がみられない為、「ユニセックス・ファッション」とされる。ただし日本ではユニセックスとは主に中性的な女性のファッションを表現することが多い。
[編集] その他
[編集] メンズ・スカート
メンズ・スカートとは、広義に言うと男性がスカートを着用することをさす。これはメンズスカートと、異性装の両者の定義が曖昧な場合が多いため、異性装に含まれるとされる場合と含まれないとされる場合がある。
詳細はメンズ・スカートの項目を参照のこと。