無期刑
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無期刑(むきけい)とは、刑の満期が存在しない刑罰で、禁固刑と懲役刑がある。日本では、2005年末現在の無期刑受刑者数は1,467名(矯正統計より、以下記載がない場合の数値は同出典)。最長50年2ヶ月、40年以上11名(1999年政府答弁書。新しい統計データがない)。1991年の870名以来、一貫して増加傾向にある。法制上は10年を超えると仮釈放の可能性が出てくるが、実際例は近年皆無で、仮出獄を許された者の平均在所年数は2005年が27年2ヶ月(1995年=20年、1985年=15年5ヶ月。これは仮出獄を許された者の平均であって、受刑者の在所年数の平均ではない)であり、2000年以降は20年以内の仮出獄者は受刑期間18年の2名のみである。仮釈放者数は毎年10名前後で高齢者、末期ガン患者なども含まれると思われる。これ以外に20年を超える有期懲役受刑者が32名いる(2005年末現在)。大部分が獄死しているとみられるが統計データはない。仮出獄者の中で再犯者は無銭飲食などの軽犯罪がほとんどで、重犯罪を犯した者はまれにしか記録されていない(その場合は厳罰化推進論者から殊更に強調される)。昨今は仮釈放機会そのものが激減しているため、再犯の報告数も激減している。過去5年の死刑判決が15名前後でほぼ横ばいであるのに対して、無期刑の判決は5年間で倍近くの119名(2005年)に激増している。一方警察白書によると凶悪犯罪は一貫して減少傾向にあるため、法改正を経ない運用上の厳罰化が数字上も実証されている。 「無期刑は10年で仮釈放があるので、10年の有期刑だ。日本も海外諸国のように死刑制度維持のまま無期刑を終身刑にするべきだ」(土本武司[1]など)という意見は現状認識の誤りか世論誘導のためのねつ造との批判を免れないだろう。 なお、無期刑の受刑者は、仮出獄が許された後も、恩赦などの措置がない限り、刑の終了自体はなく、一生仮出獄のままであり(終身保護観察に付される)、そういう意味では、文字通りの終身刑であると言える。
[編集] 海外先進国の現状
EU諸国は死刑制度を廃止しているが、仮釈放なしの終身刑制度が残っているのはイギリスのみである。そのイギリスでも、通常の終身刑の刑期は25年で、監獄における行状により15年から25年の幅で出所できる(2002年末現在で、5314人の終身刑受刑者のうち、終身の拘禁あるいは最低刑期(タリフ)が一生涯のものは22人)。ドイツやスウェーデンでは終身刑を「生きながらの埋葬」として廃止して、最長刑を20年にした。同様に、スペイン(最高刑30年)、スロヴェニア(同30年)、ポルトガル(同25年)、ノルウェー(同21年)、キプロス(同20年)(少しデータが古いのでその後もふえてるかもしれない『国際的視点から見た終身刑 』龍谷大学矯正保護研究センター)となっている。その他のEU諸国でも仮釈放があり、実質的な終身刑の刑期は日本より短かい。死刑や終身刑などの「逃げ道」が無くなったことで、犯罪者を社会に戻すことは、きちんと社会に貢献し税金を払う国民に戻す責任を国家が国民に対して負うことになるため、国家は本格的に矯正教育に力をいれ、そのプログラムも著しく発達したといわれる。一方、日本のように「収容」と「刑務所の秩序」だけが目的で、定員以上の受刑者を収容施設に隔離するだけで、まともな矯正教育もないまま刑期が終わると機械的に釈放してしまうシステムはむしろ無責任であるという批判がある。現在日本で議論されている「仮釈放なしの終身刑」(life without possibility of parole〈略〉LWOP)が実際に行われわれているのは、死刑制度も存続させている米国のいくつかの州のみである。したがって、「日本の無期刑は海外の終身刑よりも軽く、死刑と無期では格差が大きすぎる。よって無期刑は、終身刑にするべきである」という議論は説得力に欠ける。
[編集] 少年法と無期刑
少年法58条1項1号は、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者には、7年を経過した後、仮出獄を許すことができると規定しており、同法59条1項は、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者が、仮出獄を許された後、それが取り消されることなく10年を経過したときは、刑の執行を受け終わったものとすると規定している。 ただし、上記の規定は、不定期刑と同様、刑の言渡し時を基準としているため、刑の言渡し時にも20歳未満である者に対して適用される。なお、58条1項1号の「7年」というのは、あくまで仮出獄を許すことができる法律上の最短期間であり、実際に7年で仮出獄が許されることは皆無である。 また、同法51条1項は、罪を犯すとき18歳未満であった者については、本来死刑をもって処断すべきときは無期刑を科す旨規定しており、同法51条2項は、罪を犯すとき18歳未満であった者については、本来無期刑をもって処断すべきであっても、10年以上15年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨規定している。なお、51条2項の規定は、「できる」という文面が示すとおり、同条1項のような必要的緩和とは異なる裁量的緩和であり、本来どおり無期刑を科すこともできるし、裁判官の裁量により刑を緩和して有期の定期刑を科すこともできるという意味である。 また、同法58条2項は、51条1項の規定によって死刑から無期刑に緩和された者については、58条1項1号の規定は適用しない旨規定している。