扇状地
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扇状地(せんじょうち)とは、河川が山地から平野や盆地に移る所などに見られる、土砂などが山側を頂点として扇状に堆積した地形のこと。扇子の形と似ていることからこの名がある。扇状地の頂点を扇頂、末端を扇端、中央部を扇央という。複数の河川が複合してできた扇状地を合流扇状地、形成期が異なる扇状地が重なり合いできたものを合成扇状地という。
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[編集] 形成と地質
扇状地は、山地で土砂を大量に運び去った水が、山地を抜けたところで持っていた土砂を急に手放すことで生じる。平地部のある河道で堆積が進むと、その付近の土地が高くなり、洪水をきっかけに近くの比較的低い土地を川が流れるようになる。以後は変更された土地で堆積が進む。このようにして、周りより低いところを選んでの河道変更が何度も繰り返されると、山地の出口を扇のかなめとして、土砂が平地側の全方向にまんべんなく積もり、扇状地ができあがる。
扇状地は地図上ではきれいな扇形の等高線を描くが、その上にはいくつもの旧河道が扇の骨のように放射状に並んで跡を残している。そのため完全に平らではなく、小さな起伏が微地形としてある。
扇状地の土は大小さまざまな大きさの礫からなっており、大変水を通し易いが、その下には元からある平地が存在する。そこで、扇状地を浸透した地下水は下で受け止められる。そのため、扇央部では河川の水のかなりの部分が地下を流れる伏流水となり、地上の流量は減る。潜伏した水は、扇端部で湧水として現れ小河川を作ることが多い。水を失った結果、地上の川が水無川となることもある。扇頂下部では井戸が掘れ、さらに下がった扇央部では帯水層からの水圧を利用した自噴井が設置できる。
[編集] 扇状地の土地利用
扇頂部は勾配が大きく面積も小さいため利用しにくいが、峠越えの交易路となる場合があり、宿場町的な谷口集落が立地する。扇央部は河川の伏流により地下水位が低く乏水地となるため、水田には利用しにくい。このため未開発の雑木林になっている例が多かったが、戦前は北関東を中心に桑畑となり、戦後は果樹園や、上水道と交通網の整備により新興住宅地となっている例が見られる。また、富山平野や那須野が原などでは用水の整備や客土などの土地改良により扇央部も水田化されている。扇端部は湧水帯をなし水を得やすいため、古くから集落や水田が立地する。
建築フォーカスには扇状地は、扇端部付近以外では地下水位を深く、土木構造物の基礎等として十分の支持力を持っている。しかし、扇央部などにおいては、土石流や洪水流の危険性が高い。
また、西アジアの乾燥地では地下水路式の灌漑設備を用いて扇端部の集落・農地に導水する例が見られる。この灌漑設備はイランではカナート、アフガニスタンではフォガラ、中国ではカナルチンなどと呼ばれる。日本でも類似の灌漑設備がある。
[編集] 災害発生リスク
扇状地が形成される条件には、上流に土砂生産が活発な山系(大規模な崩壊地や地すべり地)が広がっていることがある。したがって、扇状地における土地利用には、集中豪雨時の土砂災害発生のリスク、天井川化した河川からの洪水発生のリスクを抱えることになる。
[編集] 日本の著名な扇状地
扇状地は日本各地に見られる。以下では、著名なものをあげる。
- 山形県 - 山形盆地
- 栃木県 - 那須野が原(複数の扇状地が重なり合った複合扇状地)
- 山梨県 - 甲府盆地
- 富山県 - 富山平野(複数の扇状地が重なり合った複合扇状地)
- 愛媛県 - 道後平野
- 滋賀県 - 琵琶湖西岸(複数の扇状地が重なり合った複合扇状地)
日本の扇状地の代表例として、よく甲府盆地が挙げられる。甲府盆地はフォッサマグナに位置する盆地であるため、盆地の両側が断層となっている。河川がこの断層から落ちる際に土砂を堆積させ、扇状地を作るからである。扇状地の斜面は戦前は桑畑として利用され、周辺の養蚕業を支えたが、戦後養蚕業の衰退とともに転用され、甲府市のベッドタウン化が進み住宅となったり、ブドウ畑になったりしている。