幸福駅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
幸福駅(こうふくえき)は、北海道帯広市幸福町にあった、旧日本国有鉄道(国鉄)広尾線の駅(廃駅)である。広尾線の廃止に伴い1987年に廃止された。駅名の縁起の良さから乗車券や入場券などで有名であり、廃止後も観光地として整備されている。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 「幸福」の由来
もとはこの一帯はアイヌ語で「サチナイ(乾いた川の意)」と呼ばれていた。1897年(明治30年)、福井県大野から集団移住が行われ、入植者によって幸震(震の字を「ない」にあてたのは地震のことを古語で「ない」といった事による)という字を当てられた。それが後に音読みされて「こうしん」となってしまった(1929年に広尾線が部分開通した際には幸震駅が設けられたが、この駅は後に大正駅と改名されている)。その後幸震には福井からの移住者が多かったことにちなんで、集落名を幸福と改めた。あえてこの名を選んだのは開拓の苦しさと無縁ではないという。なお、近くに位置する中札内村も「サチナイ」から転じた地名である。
その後、1956年11月1日、幸福仮乗降場を経て幸福駅が開業した。このころから片面ホーム一面に線路一線の棒線駅で、駅舎と呼ぶには小さな待合室だけの田舎の小駅にすぎなかった。
[編集] 「愛の国から幸福へ」ブーム
1973年3月、NHKの紀行番組『新日本紀行』において『幸福への旅 ~帯広~』として紹介されたことから知名度が上昇した。それまでもこの駅は一部の旅人に注目されていたが、片面ホームしか持たず交換すら出来ないこの小さな駅が全国規模で有名になるのはこの番組の放映の後なのである。
周りの駅は相次いで幸福駅までの乗車券を増刷し、幸福駅の周りの商店も入場券の販売をするようになる。この駅が十勝平野のまっただ中、北海道のいわば果てのような場所に位置し旅情があったこともこのブームに火をつける理由となった。特に幸福駅より二つ帯広駅寄りの愛国駅と併せて、「愛国から幸福ゆき」という切符が一大ブームとなる。1974年にはこれを元にした歌『愛の国から幸福へ』(歌:芹洋子)も登場した。前年には7枚しか売れなかった愛国→幸福間の切符が、この年は300万枚、4年間で1000万枚も売れたのだった。観光客が多数訪れるようになり、待合室の内外に利用者が名刺や使用済みの定期券などを記念に残していくようになったのもこのころからである。この時代はちょうどベトナム戦争末期やオイルショック発生など、世相に不安感が満ちていた頃であった。これらの世相が「幸福」を求める人々を後押ししたとも思われる。
隣の大正駅を始めとして広尾線には愛国駅など縁起の良い名を持つ駅が点在しており、これらの駅との間の乗車券も活発に発行された。例えば「大正駅 - 幸福駅」で「たいそう幸福」といった具合である。あるいはそれらの駅相互の間でも「新生駅 - 大樹駅」などの切符が人気を集めた。なお愛国駅の名前は、同地の開拓団が「愛国青年団」を称したことによる。
しかしこのブームも広尾線全体の営業改善にはあまり結びつかなかった。最末期は一日片道6本という同線の便数の少なさもあって、この駅を訪れる観光客自体観光バスやレンタカーを利用することが多かった。同線は1984年に第2次廃止対象特定地方交通線に指定され、1987年2月2日をもって幸福駅は広尾線とともに廃止となる。
[編集] 縁起もの入場券のブームへ
幸福駅は当時に始まり、現在もなお継続する縁起の良い駅名の入場券・乗車券を求めるブームの嚆矢となった駅であり、全国のローカル線やローカル鉄道会社に記念入場券で収益を補うという新たなサイドビジネスを提案することとなった。幸福駅の事例により全国の縁起の良い名前を持つ駅、たとえば学駅・妻駅・真幸駅などが入場券をアピールしようとするのである。そして松浦鉄道の大学駅やくま川鉄道のおかどめ幸福駅、南阿蘇鉄道の南阿蘇水の生まれる里白水高原駅など、特に第三セクター鉄道において、入場券の販売を目的とした新設駅の駅名選定あるいは駅名改称なども起こっている。
[編集] 現状
幸福駅は廃止後も待合室・ホーム・レール共々そのまま保存され、観光地として整備されている。待合室には現役当時同様に名刺や定期券などがびっしりと貼り付けられ、1990年代半ば以後はプリクラシールもしばしば見られる。レール上にはディーゼルカー2両とモーターカー1両が静態保存されている。ホームの入り口には「幸福の鐘」が、付近には後述するイベントのための小屋が廃止後付け加えられた。
駅舎近くの売店では「愛の国から幸福へ」として知られる愛国駅から幸福駅ゆきの切符などのレプリカが販売されている。これらは地元企業により通信販売もなされている。
さらに帯広市の商工観光部観光課によって、「幸福駅ハッピーセレモニー」という結婚式風のイベントが夏季を中心に行われている。帯広観光コンベンション協会からは同駅の訪問者に対して「幸福からのメッセージ」というクリスマスカードを送るサービスも行われている。
徒歩15分ほど、国道236号沿いの場所には「幸福神社」が建つ。
[編集] アクセス
幸福駅の場所は国道236号を帯広市街より南へ25kmほど。とかち帯広空港の西側。空港の付近には帯広広尾自動車道の幸福インターチェンジがある。