宇宙論パラメータ
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宇宙論パラメータ(うちゅうろんパラメータ、Cosmological Parameter)とは、観測できる宇宙の組成から推定される値であり、初期宇宙において形成された物理指標値のことである。
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[編集] 概論
1929年のハッブルによる宇宙膨張の発見以来、様々なパラメータが80年間にも及ぶ天文学者の努力と宇宙観測によって推定されてきた。特に重要となった指標は「ハッブル定数 (H0)」と「物質密度定数 (Ω)」である。その目的は、「この宇宙が開いているのか、閉じているのか?」、「宇宙は将来どうなるのか?」などの論争に決着をつけるためであった。地上からの観測、さらには宇宙望遠鏡であるIRAS、ハッブル宇宙望遠鏡による観測をはじめ、1990年にはCOBE衛星を用いた観測によって宇宙背景輻射の観測が行われ、高い精度で現在の宇宙年齢が定まることになった。そしてさらに高い精度で宇宙論パラメータを推定するために、21世紀に入るとWMAP衛星などを用いた観測が行われ、高い精度で宇宙論パラメータが推定されることになった。
今後の探求の方向としては、ビックバンによって生じたパラメータを構成する過程等を検証することになると思われるが、実験物理学的にはビックバン直後から1分後に相当する領域での実験がこれから始まろうとしているところである。この領域では、ダークエネルギーの原因となっている可能性もある、ヒッグス機構等が顔を出す可能性がある(確率では、100万分の1パーセント)。
[編集] 近年の宇宙観測による宇宙論パラメータの推定値
2006年現在において求められている宇宙論パラメータには以下のものがある。
物質名 | 組成比 |
---|---|
バリオン | 4.4±0.4% |
ダークマター | 23±4% |
ダークエネルギー(宇宙定数) | 73±4% |
記号 | 推定値 | 意味 |
---|---|---|
Ωtot | ![]() |
全エネルギー密度パラメータ |
w | < − 0.78 | ダークエネルギーの圧力と密度の比(95%信頼度での上限値) |
ΩΛ | ![]() |
ダークエネルギー密度パラメータ |
Ωbh2 | ![]() |
バリオン密度パラメータ |
Ωb | ![]() |
バリオン密度パラメータ |
![]() |
![]() |
バリオン個数密度 |
Ωmh2 | ![]() |
全物質密度パラメータ |
Ωm | ![]() |
全物質密度パラメータ |
Ωνh2 | < 0.0076 | ニュートリノ質量密度パラメータ(95%信頼度での上限値) |
η | ![]() |
バリオン・フォトン比 |
Ωb / Ωm | ![]() |
全物質中のバリオンの割合 |
σ8 | ![]() |
半径 8 h−1 Mpc の球で平均したときの宇宙の密度揺らぎの値 |
n8 | ![]() |
波数 0.05 Mpc−1 の球でのゆらぎのスペクトル指数 |
![]() |
![]() |
波数 0.05 Mpc−1 の球でのゆらぎのスペクトル指数の微係数 |
τ | < 0.9 | 波数 0.002 Mpc−1でのテンソルスカラー比(95%信頼度) |
zeq | ![]() |
物質と輻射のエネルギー密度が等しくなる時期 |
zdec | ![]() |
脱結合時の赤方偏移 |
![]() |
![]() |
脱結合時の赤方偏移範囲(半値全幅) |
h | ![]() |
ハッブル定数 |
to | ![]() |
現在の宇宙年齢 |
tdec | ![]() |
脱結合時の宇宙年齢 |
tr | ![]() |
再イオン化時の宇宙年齢 |
zr | ![]() |
再イオン化時の赤方偏移 |
τ | ![]() |
光学的深さ |
[編集] パラメータの解説
- 全密度パラメータ:宇宙の全物質の密度を表すパラメータ。この値によって、宇宙は平坦であることが分かる。
- ダークエネルギーの圧力と密度の比:このパラメータによって、この宇宙はインフレーション宇宙を経ることによって当方であることが分かる。
- ダークエネルギー密度パラメータ:この値によって、ダークエネルギーの存在が明らかになっている。すなわち、宇宙初期において斥力が優勢であった時期があった。現在は、様々な観測手段によって、60億~70億年前に始まったとされる第2次インフレーション期にあると推定されている。なお、第2次インフレーション機構をもたらすエネルギーは不明である。今後の探求によって明らかになる可能性がある。
- バリオン密度パラメータ:宇宙全体におけるバリオンの密度平均を表すパラメータのことである。つまり、宇宙全体からすれば、これだけの割合がバリオンなのである。なお、このうち電子質量/陽子質量≒1/1800程度は、レプトンであると推定できるわけである。
[編集] 参考文献
- COBE&WMAPの観測成果に基づく論文集
- D. N. Spergel et al., The Astrophysical Journal Supplement Series, 148:175-194, 2003
- 同内容のプレプリント astro-ph/0302209
- 須藤靖,『一般相対性理論入門』,日本評論社,110-140, 2005
- 佐藤勝彦,『インフレーション宇宙論』,飛鳥新社
- 国際ジャーナル論文のCitationは以下参照
- 高エネルギー物理の論文は以下参照
- 天体物理学の論文等は以下参照