WMAP
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WMAP (Wilkinson Microwave Anisotropy Probe) は NASA が打ち上げた宇宙探査機である。WMAP の任務はビッグバンの名残の熱放射である宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の温度を全天にわたってサーベイ観測することである。この探査機は2001年6月30日午後3時46分(EDT)、アメリカのケープカナベラルからデルタIIロケットで打ち上げられた。
WMAP の目的は CMB の微小なゆらぎを全天にわたって描き出すことによって、宇宙の性質を記述する様々な理論の妥当性を検証することである。この探査機は COBE の後継機で、"medium-class explorer (MIDEX)" と呼ばれる一連の中型探査機の一つである。
WMAP は計画当初は MAP (Microwave Anisotropy Probe) という名称であったが、このミッションの科学研究チームの一員で、宇宙背景放射の研究におけるパイオニアであったデビッド・ウィルキンソン博士(2002年没)の名前にちなんで現在の名称となった。WMAP の科学的目標は、CMB の相対温度を全天について高い角分解能と感度で正確に測定することである。それゆえ、探査機の設計に求められる最も重要な点は、最終的に得られる CMB マップに含まれる系統誤差をできるだけ抑えることであった。具体的な WMAP の目標としては、全天の CMB の相対温度を0.3°以内の角分解能で測定すること、この0.3°四方の1ピクセルについて20 μKの感度を達成し、系統誤差を1ピクセル当たり5 μK以内に抑えることが求められた。
これらの目標を達成するために、WMAP は天空上の2点の温度差を測定する差分マイクロ波ラジオメータを搭載している。WMAP は地球から150万km離れた太陽-地球系のラグランジュ点 L2 付近の軌道から観測を行う。(よって、WMAP を慣習的に「衛星 (satellite)」と呼ぶ場合があるが、宇宙機の軌道としては正確には人工惑星である。)
L2 は太陽から地球へ伸ばした直線上の地球よりも遠い地点にあり、この点では太陽の重力と地球の重力の和が向心力と等しくなるために地球と同じ周期で太陽を公転することができる。このため、L2 に置かれた物体は太陽や地球との相対位置を保ち続ける。具体的には、太陽からの重力加速度は地球からの重力 (5.9 mm/s2) よりも2%(118 μm/s2)小さいが、公転に必要な向心力の増分がこの半分(59 μm/s2) となり、両者の和が地球の重力 (177 μm/s2) とちょうど釣り合っている。
この地点は常に太陽・地球・月から離れて何にも遮られることなく深宇宙を見ることができ、観測にとっては例外的に安定な環境である。WMAP は以下の方法で空をスキャンする。すなわち、一日に全天の約30%をカバーし、地球の公転に合わせて L2 も太陽を周回することを利用して6ヶ月ごとに全天を観測する。CMB の前景となる我々の銀河系からの信号を排除しやすくするために、WMAP では 22-90 GHz の間にある5つの周波数帯を使う。
2003年2月11日、NASA の広報グループは宇宙の年齢と組成についてのプレスリリースを発表した。このリリースでは、今までに撮られた中で最も複雑な我々の宇宙の「赤ん坊時代の写真」と言うべきデータが発表され、将来予定されている Planck 探査衛星の打ち上げと観測結果が待たれることとなった。NASA によると、この画像には驚くほど詳細な情報が含まれており、近年の科学的成果の中でも最も重要なものの一つである。この画像は現在可能な最高の解像度の画像ではないが、CMB の全天画像としては現在最もノイズの少ないものである。
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[編集] WMAP による現在までの成果
WMAP は多くの宇宙論パラメータについて、過去の観測装置で得られた値よりも高い精度での測定を行った。現在の宇宙モデルによれば、WMAP のデータから各宇宙論パラメータは以下のように求まる。
- 宇宙年齢は137億年[1]。正確には (13.7 ± 0.2) ×109 年である。
- 宇宙の大きさは少なくとも780億光年以上。
- 宇宙の組成は4%が通常の物質、23%が正体不明のダークマター、73%がダークエネルギーである。このことからいわゆるΛ-CDMモデルと呼ばれる宇宙モデルとの一致が確認された。
- インフレーション宇宙論のシナリオは観測と一致している。ただし大きい角スケールには現状では説明のつかない不一致が見られる[2]。
- ハッブル定数は (71 ± 4) km/s/Mpc。
- WMAP のデータに現在の宇宙モデルの理論を適用すると、我々の宇宙は永遠に膨張を続けるという結果になる。
[編集] 他の観測実験
[編集] 過去の CMB 観測実験
WMAP 以前にも、CMB マップ観測の分野では少しずつ改良が重ねられてきた。COBE 以外の実験は空の狭い領域に限定して CMB のゆらぎを観測したものである。
- COBE(1989年-1993年、宇宙探査機)
- Cosmic Anisotropy Telescope(1995年、電波干渉計)
- Boomerang(1997年-2003年、気球)
- Maxima(1995年-1999年、気球)
- Cosmic Background Imager(2000年-2004年、電波干渉計)
- Very Small Array(2002年-2004年、電波干渉計)
[編集] 将来の CMB 観測実験
近い将来に WMAP 以上の精度と分解能を持つ以下の観測実験が計画されている。
- CLOVER(2008年、電波望遠鏡)
- Planck(2007年、宇宙探査機)
[編集] 参考文献
- NASAによる2003年2月11日のプレスリリース
- local cosmological parameters - WMAP team
- http://map.gsfc.nasa.gov/
- Seife, Charles, BREAKTHROUGH OF THE YEAR: Illuminating the Dark Universe, Science 2003 302: 2038–2039.
- Sizing up the universe