太政官布告・太政官達
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太政官布告(だじょうかんふこく)・太政官達(だじょうかんたっし、だじょうかんたつ)とは、ともに太政官によって公布された明治初期の法令の形式である。
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[編集] 概要
一般的には、国民に対するものを太政官布告として公布し、官庁に対する訓令としての意味を持つものを太政官達として公布することとされていた。しかし、実際の取扱いとしては、そのような区別が厳密にされていたとは言い難く、国民を拘束する内容を持つものであっても太政官達の形式により定めたものもあった。
また、明治初期の国家意思形成の不統一性の問題もあり、規制対象を同じくする法令が何度も公布されたり、法令の名称についても、「法」、「条例」、「規則」、「律」など様々であった。また、太政官名義ではなくその下部組織の名義で公布された法令もあったが、効力関係に上下はなかったとされている。
1885年12月22日に内閣制が発足したことに伴い太政官制が廃止され、それに併せて法令の効力や形式を定式化するために、1896年2月26日に公文式(明治19年勅令第1号)が制定され、従来の法令形式は廃止された。
[編集] 日本国憲法下における効力
一般原則として、法令が明示的に廃止された場合や後に内容が矛盾する法令が制定された場合に効力がなくなるのは当然であり、このことは太政官布告・達についても同様である。しかし、日本国憲法下においては立法権は国民の代表たる国会が行使することになっているため、特に太政官布告・達が法律事項について定めている場合は、議会の関与を経て制定された法令ではないという観点からも、日本国憲法下における効力が問題とされる。
この点については、まず、大日本帝国憲法(明治憲法)には、内容が違憲でない限り有効なものとして扱う旨の明文の規定があった(76条1項)。したがって、太政官布告・達が対象が明治憲法下で法律事項とされる場合(天皇に立法権があるが、帝国議会の協賛を必要とする)には法律としての効力を有し、命令事項である場合は命令としての効力を有するものとされた。
これに対し、日本国憲法には、同憲法施行前の法令の効力に関する明文の規定はないが、解釈上、明治憲法下で法律事項とされていたものは日本国憲法下でも法律としての効力を有するものとされている。これに対し、明治憲法下で命令事項とされていたものは、それが日本国憲法下でも命令事項である場合は引き続き命令としての効力を有するが、法律事項である場合は原則として1947年12月31日限りでその効力が打ち切られた(日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条、昭和22年法律第72号)。
しかし、前述した明治初期における国家意思形成の不統一性の問題や、規制対象を同じくする法令が何度も公布されたこともあり、布告・達が後の法令で明示的に廃止されなかった場合は、後に内容が矛盾する法令が制定されたとの解釈により効力を失ったのか否か疑義が生じたものもある。
[編集] 効力があると解されているもの
法令データ提供システムには、2006年10月現在効力があるものとされている太政官布告・太政官達が11件掲載されている。ただし、効力があるか否かについては解釈が分かれているものもあり、あくまでも行政解釈に過ぎないものも含むことに注意を要する。
- 改暦ノ布告(明治5年太政官布告第337号)
- 太陽太陰暦から太陽暦への改暦を布告したもの。グレゴリオ暦の導入を目的としたものであるが、西暦の年が100で割り切れてかつ400で割り切れない年は閏年としないというルールが脱落していたことが判明したため、閏年ニ関スル件(明治31年勅令第90号)により不備が補われている。
- 絞罪器械図式(明治6年太政官布告第65号)
- 死刑の執行に使用する器械の形状を定めたもの。法律としての効力があると解されている(最高裁昭和36年7月19日大法廷判決刑集15巻7号1106頁)。
- 勲章制定ノ件(明治8年太政官布告第54号) ※2003年(平成15年)4月30日までの旧件名「勲章従軍記章制定ノ件」
- 栄典の一種である勲章について定めたもの。行政解釈では政令としての効力を有するとされているため改正は政令により行われている(2002年(平成14年)8月12日公布の政令第277号による改正)。もっとも、憲法学者の間では、栄典の授与は日本国憲法の下では法律事項であるとして、違憲ではないかとする見解(1947年12月31日限り失効したものと解する)が有力である。
- 不用物品等払下ノトキ其管庁所属ノ官吏入札禁止ノ件(明治8年太政官達第152号)
- 国有財産の払い下げにおいて、その監督官庁に所属する公務員の入札を禁じたもの。ただし、実効性を喪失しているとする見解もある。
- 裁判事務心得(明治8年太政官布告第103号)
- 裁判の際の法源の適用原則などを明らかにしたもの。刑事に関する事項が失効していることは争いはないが、民事に関する事項について現在でも効力が残っているか、残っているとしてその範囲等については争いがある。効力があると解される場合は、法律としての効力があることになる。
- 大勲位菊花大綬章及副章製式ノ件(明治10年太政官達第97号)
- 大勲位菊花大綬章(及び副章)の製式を規定したもの。政令としての効力を有すると解されている。
- 刑法(明治13年太政官布告第36号)
- 日本の現行刑法(明治40年法律45号)の制定に伴い廃止された旧刑法のことであるが、刑法施行法(明治41年法律第29号)25条、37条により、附加刑としての剥奪公権・停止公権の内容に関する規定の一部、公選の投票を偽造する罪に関する規定が効力を有するものとされている。ただし、剥奪公権等の存続は、旧刑法下で科された刑の旧刑法廃止後における効力の整備を目的としたものであり、旧刑法廃止後も科すことを認めた規定ではない(各種の法律で欠格事由等として同旨のことが個別的に定められていることはあるが、刑罰としての扱いではない)。公選の投票については、公職選挙法の適用を受けない選挙(公法人の役員選挙など)に適用される。
- 褒章条例(明治14年太政官布告第63号)
- 栄典の一種である褒章について定めたもの。旧憲法下では勅令により数次の改正が行われており(旧憲法下では栄典の授与は天皇大権事項)、日本国憲法下の行政解釈でも政令としての効力を有すると解されている(2002年(平成14年)8月12日公布の政令第278号による改正など)が、勲章制定ノ件と同様の批判がある。
- 官報の発行(明治16年太政官達第27号)
- 官報を発行するとしたもの。
- 爆発物取締罰則(明治17年太政官布告第32号)
- 治安を妨げ又は人の身体財産を害する目的による爆発物の使用等を処罰するもの。法律としての効力を有する。
- 海底電信線保護万国連合条約(明治18年太政官布告第17号)
- 海底電信線保護万国連合条約に加入したことを示すもの。
なお、万歳三唱の方式を定めた太政官布告と称する「万歳三唱令」という文書が官公庁を中心に出回ったことがあるが、該当する布告は存在せず、偽物である。