大学通信教育
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大学通信教育(だいがくつうしんきょういく、英 university correspondence education)とは、大学(短期大学、大学院を含む)が行う通信による教育(通信教育)のことである。
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[編集] 概要
大学通信教育は、主に「印刷教材等による授業」(自己学習)と「面接授業」(スクーリング)によって行われることが多く、単位修得試験などの審査に合格することで単位を修得する。単位修得試験は、決して易しいものではないといわれている。
大学通信教育で学べる主要な分野は、主に文科系の領域であるが、文科系以外の領域も徐々に学べるようになってきてもいる。
入学者選抜については、学部(学部以外の教育研究上の基本となる組織を含む)の課程では、入学試験が行われることが少なく、大学院の課程では、筆記試験・実技試験を始め、研究計画書の提出を通じた選考が行われることが多い。
大学通信教育の卒業率・修了率は、各大学の各学科・課程ごとに異なっており、かなりの開きがあるといわれる。多くの人に入学の門戸が開かれていることや、学生自身が自ら計画を立てて学習管理を行う必要があることから、大学通信教育の卒業率・修了率に開きがあることは、否定的に捉えられることもある。しかし、大学通信教育は、個人個人の学習形態や興味・関心に応じた学習を可能にする制度であることから、高い学習意欲を持った上で卒業を希望する人が卒業出来ないことは少ないともいわれている。
このような事情は、世界的に同様であり、英語では「遠隔教育」(distance learning)と呼ばれることもある。
[編集] 日本における大学通信教育
学校教育法に定められている。卒業または修了すれば、通学課程と同様に学位が授与される。
[編集] 歴史
明治期には既にいくつかの大学によって「講義録」が刊行されており、これが日本における大学通信教育の嚆矢と見られる。ただし講義録は実際に行われた講義の内容を編纂して刊行するというものであり、今日の大学通信教育課程のようにスクーリングや試験によって単位や卒業が認められるものではなく、その意味で双方向的ではなくいわば一方的な性格のものであった。
現在のような形態の大学通信教育は、1946年3月に学校教育法によって制度化されたものである。1947年10月には法政大学で初めて通信教育課程が開講した。1948年には法政大学・慶應義塾大学において初めて通信教育課程のスクーリングが行われている。当初はまだ社会通信教育的な性格のものであったが、1950年3月に正規の大学教育課程として認可された(この時認可されたのは法政大学・慶應義塾大学の他、中央大学・日本女子大学・日本大学・玉川大学の各課程)。1952年には、法政大学・慶應義塾大学から初めて通信教育課程による卒業生が輩出された。
以後、通信教育を行う大学は関東地区の大学が多く、関西地区で一部の大学が実施している他はあまりなかった。特に放送大学の創立(1981年)を例外としてその前後10年余の期間は、新規に通信教育課程を設置する大学自体がほとんどなかった。しかし近年、少子化による学校経営への影響や生涯学習への意欲の高まりからか、少しずつ日本全国の大学で通信教育を開設する大学が増えつつある。
大学院の通信教育課程について長らく認められていなかったが、1998年3月に大学院設置基準が改正され、通信制大学院の開設が可能となった。1999年4月に修士の学位を授与する課程が設置された(最初に設置したのは日本大学・佛教大学・明星大学・聖徳大学)。次いで2003年には博士の学位を授与する課程も設置された。
通信教育を開設している大学の中には、併設関係にある専修学校の専門課程に在籍する生徒の便宜を図り、該当する課程に入学することで大学にも同時在籍・同時卒業できる通信教育の課程を置く所もある。このようなこともあり、大学通信教育を受ける学生の年齢層は、高等学校新規卒業者から高齢者まで極めて幅広くなっている。またこの影響で、大学によっては学生の年齢層による二極分化・入学目的の多様化(卒業のほかに、資格取得、知識向上など)が広がっている。
[編集] 専攻分野
現在、日本における大学通信教育の専攻分野は、経済学、法学、文学、教育学(主に教員養成)、臨床心理学など、人文科学系・社会科学系などの文科系の分野が中心になっている。
ただし、大阪芸術大学・愛知産業大学・武蔵野美術大学などでは、芸術系の学部が通信教育を行っている。また、倉敷芸術科学大学・北海道情報大学などでは、通信教育によって情報科学関係の科目も学ぶことが出来る。
さらに近年は、健康福祉学、社会福祉学などの専攻も増えてきている。
[編集] 授業の方法
授業の方法には次のものがあり、大学通信教育設置基準や短期大学通信教育設置基準に定めがある。大学は、次の授業を日本国内または日本以外の国において履修させることが出来る。
- 印刷教材等による授業(印刷授業・通信授業)
- 「印刷教材等による授業」とは、印刷教材その他これに準ずる教材を送付もしくは指定し、主としてこの教材により学修させる授業のことである。「印刷教材等による授業」の実施にあたっては、教員から提示された課題に対するレポートを作成・提出し、添削等による指導を併せ行うものとされている。レポートが合格すれば単位認定試験の受験資格が与えられ、この試験に合格すれば当該科目の単位が認定される。
- 面接授業(スクーリング)
- 「面接授業」とは、講義、演習、実験、実習もしくは実技のいずれかにより、またはこれらの併用により行う授業のことである。面接授業は、教室等における授業のことであり、大学における伝統的な授業形態である。「スクーリング」と呼ばれている授業の大半は、面接授業に該当する。大学通信教育のスクーリングでは全ての時間に出席することを条件に、実施科目の最終授業時間に単位認定試験が行われ、この試験に合格すれば当該科目の単位が認定される。
- メディアを利用して行う授業(メディア授業)
- 「メディアを利用して行う授業」とは、文部科学大臣が定めるところにより、講義、演習、実験、実習もしくは実技のいずれかによる授業またはこれらの併用による授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させる授業のことである。
[編集] 通信教育を行っている大学
以下のリストは便宜上、財団法人私立大学通信教育協会(“通信教育課程を設置する私立大学相互の協力によって、大学通信教育の振興を図ることを目的とする”団体)の加盟校・非加盟校に分けているが、加盟か非加盟かによって教育内容に差があるわけではなく、全て文部科学省に認可された正規の教育課程であることに注意されたい。
- 私立大学通信教育協会加盟校
※私立大学通信教育協会への加盟にあたっては、学部の課程・大学院・短期大学は、別個に扱われている。
- 愛知産業大学・愛知産業大学短期大学
- 桜美林大学大学院
- 大阪学院大学
- 大阪芸術大学・大阪芸術大学短期大学部
- 京都造形芸術大学
- 近畿大学・近畿大学短期大学部・近畿大学九州短期大学・近畿大学豊岡短期大学
- 慶應義塾大学
- 神戸親和女子大学
- 高野山大学大学院
- 産業能率大学・自由が丘産能短期大学
- 星槎大学
- 聖徳大学・聖徳大学大学院・聖徳大学短期大学部
- 創価大学
- 玉川大学
- 中央大学
- 中部学院大学
- 東京福祉大学・東京福祉大学大学院
- 東北福祉大学・東北福祉大学大学院
- 東洋大学
- 名古屋学院大学大学院
- 奈良大学
- 日本大学・日本大学大学院
- 日本女子大学
- 日本福祉大学
- 人間総合科学大学・人間総合科学大学大学院
- 佛教大学・佛教大学大学院
- 法政大学
- 北海道情報大学
- 明星大学・明星大学大学院
- 帝京平成大学
- 武蔵野美術大学
- 私立大学通信教育協会非加盟校
※私立大学通信教育協会への加盟にあたっては、学部の課程・大学院・短期大学は、別個に扱われている。
- 吉備国際大学大学院
- 九州保健福祉大学・九州保健福祉大学大学院
- 近畿福祉大学
- 倉敷芸術科学大学・倉敷芸術科学大学大学院
- 神戸常盤短期大学
- 第一福祉大学
- 中京大学大学院
- 帝京平成大学大学院
- 東亜大学大学院
- 東京リーガルマインド大学(通称「LEC大学」)
- 日本福祉大学大学院
- ビジネス・ブレークスルー大学院大学
- 放送大学・放送大学大学院 -(放送大学は、特別な学校法人である放送大学学園が設置する私立大学)
- 武蔵野大学
- 八洲学園大学
- 早稲田大学