列車防護無線装置
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列車防護無線装置(れっしゃぼうごむせんそうち)とは、鉄道において緊急時に列車より特殊な電波を発信し、付近を走行する列車に停止を求めて二次事故を防止するための装置である。単に防護無線と呼ばれることもある。
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[編集] 概要
列車運転士が線路上で異音感知など緊急の異常を発見した際や、人身事故や脱線などで列車を緊急停止させたときに、乗務員が乗務員室に設置されている防護無線装置のボタンを押すと、その列車から非常信号を乗せた電波が発信され(発報という)、その電波を受信した列車の防護無線装置のブザーを鳴らす。受信した列車が走行中の場合、その列車の運転士は運転中の列車を、運転指令所から指示があるまで無条件でその場に停車させる義務がある。駅でもないところで突然停車し、「非常停止信号(または危険を知らせる信号)を受信しました。原因を調べております」と車掌による車内アナウンスがされる場合が多い。これにより、事故や支障の起きている地点に列車が進入するのを防ぐ事ができ、二次事故を未然に防ぐ事が出来る。なお、防護無線の電波が届く範囲は発報地点から半径約1~2km圏内といわれているが、電波の特性上それ以上届く場合もある。なお、防護無線は、ただ装置を作動させるための信号であり、その信号にどの列車が発報したのか、何が危険なのかなどといった情報は含まれていない。
防護無線が発報されると、路線が過密に入り組む大都市圏などでは、事故の発生している路線とは全く関係のない別の路線の列車にも影響することがある。これは路線が併走する箇所等で事故が発生した際、併走する路線から列車が事故現場に進入してくるのを防ぐためである。
[編集] 導入の経緯
防護無線は、1962年5月3日に常磐線三河島駅で発生した列車脱線多重衝突事故(三河島事故)を教訓に整備が進められた。この事故では、事故現場に他の列車が進入して二次事故が発生しないように防ぐための処置(列車防護)が適切に行われなかったことが被害をより甚大なものにしたと指摘されている。この事故を受けて、当時の国鉄は全国の路線で順次導入中だった自動列車停止装置 (ATS) の設置計画を前倒しする形で国鉄全線に設置するとともに、無線を利用して列車防護を行う装置を開発、常磐線に乗り入れる全列車に初めて列車防護無線装置が設置された。
1996年には、東日本旅客鉄道(JR東日本)において防護無線装置が盗難に遭い、沿線で発報され列車運行妨害事件が多発した(携帯型無線機で、設置法は運転室のラックに取り付けるという方式だった)。これを受けてほとんどのJR各社は、それまでのアナログ式から妨害を受けにくいデジタル式への変更が進められたほか、無線装置を鍵により運転台に固定するなど盗難による列車運行妨害への対策を行った。
[編集] 整備状況
JRにおいては基本的に全路線の列車に防護無線装置の設置が義務付けられているため、設置状況はほぼ100%である。
私鉄の場合も、二次事故を防止するためにJRと同様に防護無線装置の整備を行っている鉄道事業者が多い。しかし地方閑散地区に路線を持つ一部の鉄道事業者は、同装置を導入していないところもある。