下着フェティシズム
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下着フェティシズム(したぎ-)とは、フェティシズム的服装倒錯症(Fetishistic transvestism)の一種に分類されるフェティシズム。特に下着に、強い関心を示して執着したり興奮したりする傾向や、そのような傾向を有する人を指す。俗語としては下着フェチという言葉も用いられる。
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[編集] 定義のぶれとゆらぎ
もともとフェチとは、フェティシズムを略した俗語であり、その意味も使われ方によって大きく揺らぎがある。また対象者の傾向によりひとくくりにはできない概念を包括していることが多く、その解釈も多様である。ごく狭義には下着もしくは下着姿に強い性的興奮や執着をおぼえる傾向をさす。
[編集] 下着の概念
ブラジャー、パンティー(ショーツ)、ブリーフと言った洋風の下着が一般的である。反面腰巻やババシャツといった性的魅力に乏しいものへの執着は一般的ではない。同じ洋風であってもコルセットやガードルといった矯正下着に類するものへの執着は別の性的倒錯に分類される傾向にある。
[編集] 精神医学的な解釈
アメリカ精神医学会の定めた『精神障害の診断と統計の手引き』(以下DSM-IV-TR)をもとにすれば、
- 少なくとも6カ月間にわたり、女性などの下着に関わる強烈な性的に興奮する妄想、性的衝動、または行動がくりかえしおこる。
- その妄想、性的衝動、または行動によって著しい苦痛、または社会的、職業的な障害がおきている。
の二つを満たすことで下着に関わるパラフィリア(偏愛)とみなすことが出来る、とされている。
[編集] 一般的な解釈
いわゆる下着泥棒やブルセラショップユーザーのように、異性愛者(ヘテロ)が異性の下着を入手し自慰などの性的な用途に用いる傾向を下着フェチと解釈することがごく一般的である。ただし下着泥棒の中には下着収集癖とも言うべき、多くの下着を集めることに満足する者も存在している。自慰などの性行為を伴わない場合であっても、精神医学的にはフェティシズム的服装倒錯症に分類が可能である(上記参照)。
[編集] 着用する場合
異性愛者(ヘテロ)であるにも関わらず、異性の下着を着用することで性的興奮を得て、他の性行為に興味を示さない、あるいは著しく関心が低い傾向をさす。女装癖との境界は曖昧だが、女装癖、もしくは性同一性障害の場合は異性愛傾向が弱くなるので、その部分で分類することが多い。
[編集] 着用させる場合
性行為において相手に下着を着用させて行為に及ぶことが非常に多く、裸での性行為に興味を示さない、あるいは著しく関心が低い傾向をさす。これに関しては成人向け雑誌のグラビアやヌード写真集でも用いられる手法であり、これによって興奮することそのものは一概にフェティシズム的服装倒錯症とは呼べないが、長期にわたり続き、行動が顕著なものは可能性を有している。
[編集] 同性愛者の場合
同性愛そのものが社会的にタブー視されているために、代償行為との区別が曖昧である。同性の下着にのみ著しい関心を示し同性との性愛行為そのものに著しく興味・関心が低い場合は該当すると言える。
[編集] 該当しない傾向
フェチという俗語が非常にあいまいな解釈のために、日常使われている言葉にも多くの齟齬が生じている。フェチ=フェティシストと解釈するならばかなり強固な行動の固着を意味するが、近年は「好み・好き」程度の軽い解釈となっており、単なる下着着用姿への興奮すらフェチにされてしまう傾向にある。
[編集] 下着着用者への性的興味
異性愛者で、異性の下着姿に性的興奮をおぼえることはごく一般的な反応である。それが固着せず長期にわたらないものは厳密にはフェティシズム的服装倒錯症とは言えない。夏季に薄着になった女性の下着に性的興奮を覚えても、それは一般的な反応でありフェティシズムと言うほどではない。またスカートの奥の下着を見たい、という欲求は穿視症に分類される別の性的倒錯である可能性や、単なる性的興味の延長である可能性が高い。
[編集] 代償行為
異性愛、同性愛に関わらず思慕を抱く相手との性愛行為がかなわない場合に、衣類や下着といった、相手を感じさせるものを代替として性愛行為におよぶ場合がある。この場合はあくまでも性愛行為の相手の代償として、性行為を強くイメージさせる下着を選択するため、フェティシズムに分類されない。それが固着し、性愛行為に興味関心を失った場合はフェティシズムに分類されることもある。 また幼児性愛(ペドフィリア)の代償として女児用下着への固着など、タブー視されている性愛の代償も見られる。
[編集] デザイン・美的な興味
華やかなデザインや色、素材の手触りなど衣類の延長としての下着への興味は、女性を中心にごく一般的な傾向でありファッションの一部となっているため下着フェチと呼ぶにはふさわしくない。
[編集] 経済的な興味
ブルセラショップなどで下着を商品として扱う場合の興味・関心は下着フェチには分類されない。
[編集] 下着への関心か、性行為への関心か
基本的には下着という性器を包む衣類への関心は、性行為への関心の段階的な部分とも解釈可能である。特に性行為を経験していないあるいは性的発達の未熟な若年層にとっては、下着への興味はそのまま性行為への興味と直結しやすい。フェティシズム的服装倒錯症ならば、目の前の女性を裸にしたうえで性行為には及ばす、脱がせた下着を用いた自慰を行ないたいというほどの極端な性衝動が生じるべきであり、脱がせた下着よりも性行為を選択する傾向にある場合は(それ以前に下着による自慰を行なっていたとしても)フェティシズム的服装倒錯症には分類されない。
[編集] 洗った下着か、汚れた下着か
綺麗に洗濯された下着であっても満足する場合と性器を由来とする汚れに対する興奮とは似て非なるものと解釈可能である。例えば性器を由来とする汚れた下着に興奮する傾向は、多くの場合延長上に性行為を連想させ、性的興奮が高まることに何の疑問も生じない。もしその傾向を持つ者がハンカチやスカーフなど性をイメージさせない布製品に膣分泌液などが付着したものをも性的興奮の対象とし、通常の性行為に著しく興味関心を示さない場合が続いた場合はフェティシズムに分類可能と言えるが、汚れに関する性的興奮が、汚物であることに由来するならばそれはスカトロジーもしくは汚物愛好的フェティシズムに分類される。
[編集] 下着の入手方法による区別
下着泥棒に代表される、窃盗による入手は、入手することに興味が引かれている場合もあり何らかの代償行為と見なされる場合がある。
また暴力的な手段で着用している異性から下着を剥ぎ取り奪う行為は、脱ぎたての下着に強い執着がある場合が多いが、下着を異性から直接入手する行為、への固着がある場合もある。
ブルセラショップで購入する場合には、店員とのやりとりの中で虚栄心が発生する場合もあり、よりマニアックな傾向へと偏りが見られることもある。
[編集] 参考
アメリカ精神医学会「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)