ロジバン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロジバン Lojban |
|
---|---|
話される国 | 全世界 |
地域 | - |
話者数 | - |
順位 | ランクされていない |
言語系統 | 人工言語 |
公的地位 | |
公用語 | 特定の国家なし |
統制機関 | The Logical Language Group(en) |
言語コード | |
ISO 639-1 | |
ISO 639-2 | jbo |
ISO/DIS 639-3 | |
SIL |
ロジバン(Lojban 、[ˈloʒban])は、1987年にログラン(Loglan)を元に、より完璧で、自由に使用可能なものとしてThe Logical Language Groupにより開発された人工言語である。正式な名前は「Lojban: a realization of Loglan」。
目次 |
[編集] 特徴
ロジバンは、ログランと共通ないくつかの特徴と目的を持っている。
- 述語論理に基づいた文法の導入。これは論理的に複雑な表現を正確に可能とする。
- 綴りや文法に曖昧さを持たない。これはコンピュータ上での解析を容易にする。
- 文化的にできるだけ中立であるように設計されている。
- 他の自然言語よりもシンプルに学習し、使うことができる。
- 文脈上の感情を有効にコミュニケーションできるように、複雑なシステムを持っている。
ロジバン・プロジェクトの最初の目的は、サピア・ウォーフの仮説を調査するためであった。活発的なロジバンのコミュニティは、この言語に次のような目的を付け加えた。
- 総合的な言語学的研究
- 人工知能および機械的な理解のための調査
- マン・マシン・インターフェース、記憶的存在論、コンピュータ翻訳の改善
- 言語教育のためのツール
- 個人的な創造活動
他の少数言語と同じように、ロジバンは著述に関する母集団の多くを欠いている。
[編集] 発音
ロジバンが使用するアルファベットは26文字である:「' , . a b c d e f g i j k l m n o p r s t u v x y z」。すなわち、h q w以外のアルファベットと、3つの記号からなる。アルファベット順は明確に存在し、ASCIIと同じである。
しばしば大文字が利用されるが、これはアクセント上非標準的な音節を含む語(例えば固有名詞)に対して、アクセントの強勢音節を強調するために使われる。このため、大文字はアルファベットの個別の文字とは扱われていない。強勢発音する母音だけを強調するか、それとも強勢する音節だけを強調するかは、記述者が選ぶことができる。例えば、英語名Josephine(ジョゼフィン)を表記するときには、「DJOzefin.」・「djOzefin.」のどちらも利用できる。大文字で強調されていない場合、ロジバンの普遍的なルールによって、上記の例では'ze'の部分が強勢とされる。
いくつかの文字は、複数の発音が許されている。特に、母音の一部には、円唇と張唇を使うことができる。標準的な発音は次の表の通り。
文字 | IPA | 説明 |
---|---|---|
' | [h],[θ] | 無声声門音または歯摩擦音 |
, | --- | 文節区切り記号 |
. | [?] | 声門閉鎖音または休止記号 |
a | [a],[ɑ] | 低母音 |
b | [b] | 有声両唇閉鎖音 |
c | [ʃ],[ʂ] | 無声硬口蓋歯擦音 |
d | [d] | 有声歯閉鎖音または有声歯茎閉鎖音 |
e | [ɛ],[e] | 前舌中母音 |
f | [f],[ɸ] | 無声唇歯摩擦音 |
g | [g] | 無声軟口蓋閉鎖音 |
i | [i]] | 前舌高母音 |
j | [ʒ],[ʐ] | 有声硬口蓋歯擦音 |
k | [k] | 無声軟口蓋閉鎖音 |
l | [l],[l̩] | 有声接近側面音(単独で音節を形成できる) |
m | [m],[m̩] | 有声両唇鼻音(単独で音節を形成できる) |
n | [n],[n̩],[ŋ],[ŋ̩] | 有声歯鼻音または有声軟口蓋鼻音(単独で音節を形成できる) |
o | [o],[ɔ] | 奥舌中母音 |
p | [p]] | 無声両唇閉鎖音 |
r | [r],[ɹ],[ɾ],[ʀ], [r ̩],[ɹ̩],[ɾ̩],[ʀ̩] |
R音(単独で音節を形成できる) |
s | [s] | 無声歯茎歯擦音 |
t | [t] | 無声歯閉鎖音または無声歯茎閉鎖音 |
u | [u] | 奥舌高母音 |
v | [v],[β] | 有声唇歯摩擦音 |
x | [x] | 無声軟口蓋摩擦音 |
y | [ə] | 中舌中母音 |
z | [z] | 有声歯茎歯擦音 |
頻繁に使われる破擦音の子音結合としては、「tc [tʃ]」と「dj [dʒ]」の二つがある。これらは、英語では一つの音素として表されるが、ロジバンでは二つの音素の結合と見なされる。
[編集] 文法
ロジバンは三つの品詞を持っている。一つ(brivlaと呼ばれる)は普通名詞と動詞のため、もう一つ(cmeneと呼ばれる)は固有名詞のため、さらにもう一つ(cmavoと呼ばれる)は構造のための要素:冠詞、数詞、強勢指示記号、その他修飾語など。cmavoはさらに「selma'o」に細分化されるが、これは品詞の概念の一部に接近している(例:"UI"は間投詞を広範に含んでいる)。インド・ヨーロッパ語族のような形容詞と副詞は持っていない。冠詞は、単数(individual)、複数(mass)、一式(set)、典型的な要素(typical element)を識別するために語尾変化する。brivlaは、時制、人称、数により語尾変化することはない。時制はcmavoの分割で表現される。言語学的な数は存在しない。全てのbrivlaは、一握りの借用語、例えばalgaを除いて、少なくとも5文字からなる。
論理的言語として適合するように、種々様々な接続詞がある。論理的接続詞は、次のような語句を接続する時に、異なる形態を持つ:sumti(名詞句に相当)、selbri(動詞となることができる語句。全てのbrivlaはselbri)、tanruの一部(閉じた構文。英語で例えれば連続した名詞)、または文中の節。
言語類型論的にはSVO型を取るが、SOV型も共に一般的である。語句の並び方は合成的である。いくつかの基本的な5文字の基本語彙brivla(gismuと呼ばれる)は、rafsiと呼ばれる1つから3つの3文字フォームを形成して、さらに長いbrivlaを形成する。例えば、gasnuは「何かを起こす」という意味になるが、rafsiである-gauは常に「……を起こす」という意味となり、文法上の動作主として、従属する単語を述語とする。
ロジバンは語順型の体系を持つが、明確な小辞の区切りによる述語への印を付けることで、これを覆すことができる。例えばbramauは「より大きい~」を意味するが、それが指示する「大きいもの」は前の位置に置き、「小さいもの」は後の位置に置く。そして比較される対象のものを3番目に置く(後置記法を参照)。mi bramau do le ka claniは"I am bigger than you in the property of height"(私は高さという特性についてはあなたより大きい)とも、"I am taller than you"(私はあなたより背が高い)とも解釈することができる。しかし、記法を変えても似たような記述ができるであろう。例えばfi le ka clani fe do fa mi bramauは、"In height, you are exceeded by me"(高さにおいては、あなたは私により超越されている)。
- le cinfo cu bramau le mlatu = "The lion is bigger than the cat"(ライオンは猫より大きい)
- mi bramaugau le cinfo le mlatu = "I make the lion bigger than the cat"(私はライオンを猫より大きくする)
brivlaにおいては、与える意味はその語が置かれた場所に依存する。動物と植物については、第二の場所が種、変種、品種や、その他の分類群を表す。測定に関する動詞の次の位置は、測定された数となる。こういった例は他にもあり、たとえばklama("go"/"come"=「行く・来る」)の次の位置は、その目的地を指す。
このようなロジバン(と、ログラン)の特徴は、たとえば次のような電球ジョークで伝えることができる。
- Q: How many Lojbanists does it take to change a broken light bulb?
- (壊れた電球を取り替えるのに、何人のロジバン話者が必要?)
- A: Two: one to decide what to change it into, and one to figure out what kind of bulb emits broken light.
- (2人。一人は「何を変更するか」を決定して、もう一人は「どんな電球が壊れた光を放射するか」を考える)
このジョークは、ロジバンの二つの特徴を表している。まず、言語は多義性を排除する試みを行っている、すなわち、一つ以上の意味を持っている句があるということである。この例での英単語"change"は、「違う状態に移行すること」、「交換すること」はもとより、「小銭への両替」まで、様々な意味を持っているのに対し、ロジバンはそれぞれに違う単語が存在する。特に、brivlaである"change"(binxo)の述語の場所が、そこに何か変更すべきものがあることを暗示する。また、別の特徴として、英語にあるような文法上の曖昧さがない。たとえば英語で"big dog house"と書かれた場合、「犬用の大きな家」と「大きな犬用の家」との、二通りの解釈ができる。ロジバンでは、この点はcmavoにより明確に解決できる。語順により常に左から右に解釈されるので、"big dog house"は「大きな犬用の家」と特定できる。従って、上記ジョークの"broken light bulb"は、「壊れた光を出す電球」となる(これを解決するには、cmavoを利用して語順を変えるか、新語「broken lightbulb」を作ってあいまいさを回避することができる)。
[編集] ログランとロジバンの違い
ログランという単語は現在、ジェームス・クック・ブラウンが開発したLoglanと、ここから派生した全ての言語を指す、総括的なものとなっている。ブラウンが組織したThe Loglan Institute = TLIは、ログラン言語そのものをLoglanと呼び続けているため、この項の中では、派生した言語は「ログラン」や「ログラン派生語」と呼ばずに「TLI言語」と呼ぶ必要がある。
ロジバンとログランの最大の差は語彙である。ワシントンDCの分裂派(のちにLogical Language Group = LLGと改称)は、1986年にブラウンからの著作権についてのクレームにより、語彙を再作成する必要に迫られた。その後、長い法廷係争の末、著作権に関するブラウンのクレームは無効となった。しかし、その時までには新しい言語用の新しい語彙が一部固まりつつあり、これが支持者からLojban: A realization of Loglanと呼ばれた。
5文字で統一された語彙セットは、最初に再作成された語彙であった。ロジバンのための単語作成は、ログランと同じ作成法則で作られた。すなわち、語彙の候補は、この世で最も話された言語のうち、いくつが等価的な読みを持っていたかによって選ばれた。その後、この単語が文字を共通にしていた言語の話者数を掛けた。ロジバンの基礎語彙再作成にあたってのログランとの違いは、各言語の話者数の重み付けを変えたことである。この結果、単語の多くは英語と中国語の読みから得られた。たとえば、英語で"normal"(通常)を表す単語は、ログランではnormaであったが、ロジバンではcnano(中国語:「常」、ピン音:「cháng」となる。
言語の文法が作られたと共に、文法的な言葉もロジバンに徐々に付け加えられた。
ログランとロジバンは本質的に同じ文法を持ったままである。また、上記の類型学の項で触れたほとんどの事柄は、ログランにもそのまま当てはまる。この二つの言語間ではほとんどの単純な文章を一語ずつ翻訳することができるかもしれない。しかしながら、文法は、詳細において異なり、また形式の基礎においても異なる。ロジバンの文法はyacc形式に合わせて設計されており、少数のプリプロセッサの記法も取り入れている。ログランはさらに機械文法も取り入れている。しかし、これらは決定的ではない。ログランの文法は、数十年を通して変わらなかった文の比較的小さな集成に基づいており、それらが不一致な場合は、先行する方が採られる。
英語の述語で語る時、これら二つの言語間にはさらに多くの違いがある。ブラウンが書いたところによれば、多数の単語は英語、ラテン語、ギリシャ語に基づいており、これらのうちいくつかは、わずかに異なる意味ながら、既に確立された。一方でロジバン陣営は、文法用語を自由にロジバンそのものから借用した。従って、言語学者がRoot(根)またはRoot word(根語)と呼ぶ用語を、ログランではprimitivesまたはprimsと呼び、さらにロジバンではgismuと呼ぶ。ログランでのlexemeと、ロジバンでのselma'oは、言語学で言うところのlexeme(語彙項目)とは異なる。これらは実際には話法の一部であり、下位分類としての文法用語群または小辞は、ログラン話者はlittle wordsと、またロジバン話者はcmavoと呼ぶ。これらの文法構築を、ログランではmetaphor(暗喩)と、ロジバンではtanruと呼ぶ。これは実際には暗喩ではないが、修飾語-被修飾語、または名詞-名詞といった構築関係になる。ログランでは借用語をシンプルにborrowingと呼ぶが、ロジバンではfu'ivlaが使われる。これは恐らく、ロジバンではログランと異なり、CVテンプレートのセットが借用語のために予約されているからである。
ロジバンのための新しい音韻論では、一致するqおよび母音のwは削除された。また、一致するxとhは取り替えられた。子音 ' (アポストロフィー)は国際音声記号上で言う[h]の役目を与えられた。しかし、これは母音間にしか現れない。また、形態論と音韻論の議論では、これは適切な子音ではないが、「無声わたり音(半母音)」であるとされている(この音声は実際の話者間ではもっぱら[θ]として話される)。ロジバンのために厳密な音素配列体系が製作されたが、ログランではそのような体系は作られていないように見える。
[編集] ロジバンのロゴ
ロジバンのロゴは、LLG(Logical Language Group)のメンバーの投票で決定された。デザインは、直交座標系とベン図を元にしたものである。この決定には色の指定はないが、伝統的に直行座標系には赤が、またベン図には青が使用されている。
公式には、このロゴが意味するところは説明されていないが、一つはベン図が述語論理を表し、その一方で直行座標系が合理性、数学、自然科学を象徴していると合理的に仮定できるかも知れない。
[編集] 自然言語処理への適用
人工知能研究における自然言語処理の研究分野では、しばしばその研究に直接的に適切でない、自然言語が持つ特性、語彙や文法の曖昧さなどにより、身動きが取れない状態になることがあった。この問題について、何人かの言語学者及び人工知能研究者は、ロジバンのような人工言語を使用することを選んだ。これは、親しみ深い自然言語のニュアンスや微細な点をすべて表現することができるが、たとえそれが無意味語だったとしても、文が何を表現しようとしているかについてのあらゆる混乱を削除するために、論理的に汚されていない文法および綴りを持っているからであろう。
[編集] 参考書籍
(すべて英語)
- Cowan, John Woldemar. The Complete Lojban Language. Fairfax, Virginia: The Logical Language Group, 1997. ISBN 0-9660283-0-9
- Nicholas, Nick; Cowan, John Woldemar. What is Lojban?. Fairfax, Virginia: The Logical Language Group, 2003. ISBN 0-9660283-1-7
- Goertzel, Ben: Potential Computational Linguistics Resources for Lojban. Self-published, March 6, 2005. [1](PDFファイル)
- Speer, Rob; Havasi, Catherine: Meeting the Computer Halfway: Language Processing in the Artificial Language Lojban. Massachusetts Institute of Technology, 2004. [2](PDFファイル)
[編集] 外部へのリンク
(すべて英語)