音素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
音素(おんそ,Phoneme)とは、音韻論で、任意の個別言語において意味の区別(弁別)に用いられる最小の音の単位を指す。音声学の最小の音声単位である単音とは異なり、実際的な音ではなく、言語話者の心理的な印象で決められる。音素は/ /で囲んで表記する。音素に使う記号は自由であり、各言語固有の音素文字が使われることもあるし、国際音声字母が使われることがある。なるべく簡便な記号が使われるのが普通である。
[編集] 音素の認定方法
音はさまざまな条件のもとで異なって発音されるが、言語話者によって同じ音だと認識される場合、それぞれの音は音素が同じということになり、それぞれの音はある音素の異音と呼ぶ。ミニマル・ペアを使うことによってその言語がもつ音素の範囲が特定できる。
例えば、日本語の音素/h/は、/a, e, o/の前では無声声門摩擦音[h]であるが、/i/の前では無声硬口蓋摩擦音[ç]、/u/の前では無声両唇摩擦音[ɸ]となる。これらの音はそれぞれ/h/の異音である。
上記の例のような異音は必ず決まった条件のもとで現れ、ある音が現れるときはそこに別の音が現れない。このことを相補分布しているといい、このような異音を条件異音という。またある言語では無気音の[k]と有気音の[kʰ]で意味を弁別して両者は異なる音素として現れるが、日本語では/k/が有気音であっても無気音であっても意味を区別しない。よって[k]と[kʰ]は日本語の音素/k/の異音であるが、その現れる条件は決まっていないので自由異音と呼ばれる。
[編集] 日本語の音素
音素の認定には心理的・物理的な基準など様々な要素があり、また音素表記を何のために使うかによっても変わってくる。このため概説書のなかでも学者により大きく異なる場合がある。また学派によって音素に関する考え方が異なり、認知言語学のように音素を認めない立場がある。
幅広く音素を設定すれば、現代の日本語の音素は最低、五十音表にそって以下のようなものを挙げることができる。
この他に撥音/ん/は環境に応じて[n, m, ŋ, N]などの鼻音から鼻母音まで多くの異音を含んでいる。これをそれぞれに音素を立てることもできるが、/N/として1つの音素とすることが一般的である。また促音は音節によって分析すれば、長子音の前半部分を切り取ったものであり、子音の種類によってさまざまな異音をもつ、これをそれぞれの子音を重ねるなどして表記する方法もあるが、日本人の意識として独立した音として認識されていることから/Q/として一つの音素として立てることもできる。長音も/V/とか/R/といった記号をつかって音素とする場合もあるし、母音記号を二つ重ねることもある。
また/ち, ちゃ, ちゅ, ちょ, つ/の子音を/c/とかを使って別に立てる場合もある。これは日本人が外来語で/ティ, トゥ/という発音ができるようになって/ち, つ/と区別が必要であると考えられるからである。もっと細かく/ち/と/つ/で別の音素を立てるという立場もある。これに反して音素は簡略である方がいいという立場や、例えば統語論的に勝つという動詞の活用を分析するにあたり、/kata-/ /kaci/…と分けるよりは/kat/を語幹として分析する方が合理的だとする立場からは別に音素は立てられない。