メロトロン
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メロトロン (Mellotron)は1960年代に開発された、主にアナログ再生式(磁気テープを媒体とする)のサンプル音声再生楽器である。 アメリカのハリー・チェンバリンが作成したチェンバリンを元に、イギリスのレスリー・フランク・ノーマンのブラッドレィ3兄弟が、設計を作成を行った。
[編集] 概要
当時現代音楽分野での試みの一つとして、自然音や街頭の雑踏の音などをテープに録音し、それを切り継ぎ編集を行なったりミキシングして音楽作品とする、ミュジーク・コンクレート(musique concrète)というものがあった。
それと同様な事をリアルタイムな演奏として行なえるものとして、録音済みのテープを鍵盤ごとに取り付けておき、鍵盤を押すことで一定速度で送られ、音声が再生される仕組みが考案された。
この場合、個別の鍵盤ごとに全く異なる音声を割当てる事も可能であるが、鍵盤に対応した音程でそれぞれ録音された、ある音声(音色)を一式揃えておけば、音階を持った楽器として使用できる。大編成のコーラス(クワイア)などの再現に使用されたりした。
機構上の欠点として、テープは一定の長さであるため、「連続して長時間の発声が出来ない点(7秒程度まで)」、「送り出し・巻き戻しを繰り返されるテープが物理的に傷みやすい点」、「専用の録音済みテープの価格が非常に高価である点」、加えて、機能面での欠陥として、「(特にステージで使用する際には)電圧の強弱がテープ再生速度の変化をもたらし、音程が不安定になりやすい点」があった。もっとも、その音程の揺らぎが独特な味わいをもたらし、かえって楽器としての魅力を高めた面もある。
また、労働者のユニオンが力を持つイギリスでは、これを使用する事で演奏者を必要としなくなり、仕事を奪うものであるという批判がされたりもしたが、その構造的な欠点そのもののために、それほど一般的に使用される事は無かった。
後に、この原理をPCM音源再生方式に置き換えた楽器が登場し、サンプラー(サンプリング・シンセサイザー)と呼ばれた。
なお、現在でもメロトロンは販売されている。一つはカナダでメロトロンの商標を持っている「メロトロン・アーカイブス社」から、モデル400シリーズの新型を発売している。もう一社はイギリスの「ストリートリー・エレクトロニクス社」からリストアされたメロトロンを販売されており、音源であるテープも新規で録音された物も含めて取り扱っている。
[編集] 代表的なユーザ
- 1960年代には、ビートルズの、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」(1967年2月発売)他、ローリングストーンズ,ゾンビーズ他の曲で使用されている。
- 1970年代にはプログレッシブ・ロックのミュージシャンを中心に利用された。またクロスオーバージャズでも使用された例がある。
有名なメロトロン・プレイヤーとして、ムーディー・ブルースのマイク・ピンダーが、1967年11月にリリースされた『サテンの夜』で導入している事が確認されている。なお、マイク・ピンダーはメロトロンの設計の段階で携わっており、ユーザと同時に製作者としての立場にもある。
その後、キング・クリムゾンが1969年にリリースした『クリムゾン・キングの宮殿』のヒットや、イエス在籍時のリック・ウェイクマンが『こわれもの』や『危機』といったヒット・アルバムで活用した事などでメロトロンは知名度が上がっていった。
さらに、ジェネシスのトニー・バンクスやタンジェリン・ドリーム、ブライアン・イーノなどがユーザとして有名。
日本では冨田勲がシンセサイザーの多重録音作品の中で使用しており、人間の声を使って重厚なコーラスサウンドを構築している。
- 上記の年代以外でも数多くのユーザーが様々なジャンルの音楽で使用している。
[編集] 備考
- 楽器としてのメロトロンは概要に書かれてある通り、取り扱いにくい性質を持っているためシンセサイザー、サンプラーなどで、代用音源・音色などが数多くシミュレートされたきた。
現在(2006年12月)ではM-Audio GForece社よりスタンドアローン、また各デジタルオーディオワークステーションのプラグインとして動作するソフトウェアサンプリングシンセサイザー、「M-Tron」が発売されている。 メロトロン、チェンバリンの代表的な音色を搭載している。
- メロトロン、チェンバリンは、ほぼすべての機種で磁気テープを録音再生媒体として用いるが、光学式ディスクを用いる、OPTIGANという機種も存在する。