ポルシェ・911
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ポルシェ911はポルシェ社のスポーツカー。開発コード901にて発表されたポルシェ 356の後継車種。当初は「901」と名乗っていたが、プジョーが3桁数字の真ん中に0の入った商標をすべて登録しており、クレームを入れたため、「911」と改めた。RRの駆動方式を取り、現代に至るまでポルシェ社のみならずスポーツカーを代表する名車とされる。
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[編集] 歴代モデル
[編集] 901型
初代生産型は開発コードの901からそのまま901型と称される。
[編集] 911型(通称ナロー911、1963年~1974年)
4気筒エンジンを搭載する356の後継車として1963年にデビューした911は新しい水平対向6気筒2リッターエンジンを搭載していた。1967年には180馬力を誇る911Sが追加された。911は仕様の違いにより、911T、911E、911Sの3グレードが用意される。1969年には全車ホイールベースを57mm延長して操縦性が大幅に改善される。1970年に全車排気量を2.2リッターに拡大し、パワーアップを図る。1972年には厳しくなる排ガス対策のため全車2.4リッターとなる。1973年には名車として現在まで語り継がれる2.7リッターエンジン搭載のカレラRSが登場した。
- 356に比べ価格が大幅に上がってしまったため、当初は911の車体に4気筒エンジンを搭載したポルシェ 912も存在していた。
[編集] 930型(通称ビッグバンパー、1974年~1989年)
1974年モデルの911は米国の保安基準に従った5マイルバンパーが装着され、外観が一新された。大きなバンパーが付いたことから、1974年から1989年までの911は「ビッグバンパー」などと呼ばれている。930という名称は本来ターボモデルのみを指すものであり、NAモデルは1977年モデルまで、ビッグバンパーであってもタイプ911のままである。2.7リッターエンジン搭載の911及び911Carreraの他に、3リッターエンジン搭載のCarreraRSが108台限定生産された。ボディの種類はクーペと脱着式のルーフをもつタルガの2種類。
1978年には全車3リッターエンジンを搭載しNAモデルもタイプ930となり、911SCとなる。日本市場においてはフル装備の911SCSが販売された。356で人気のあったオープンモデルであるカブリオレが1983年の911SCから復活。
1984年には全車3.2リッターエンジンとなり、馬力も1973年のカレラRSを超えたことから、かつてレーシングモデルにのみ与えられていたカレラの名称は以降NAモデルの名称として使用される。
ビッグバンパーは1974以降の2.7L時代 (911)、1978以降の3.0L時代 (930)、そして1984以降の3.2L時代 (930) に分けられる。1976年以降の911は亜鉛防錆処理がされており、それまでの911よりもボディの耐久性が大幅に向上している。
3.2Lカレラのほうがパワフルではあるが、クランクをターボ3.3Lと同じものを使用したため、レスポンスはSCのほうが軽い印象がある。国内では触媒の関係からパワーはやや低いが、3.2Lカレラの本国仕様は231馬力を搾り出した。
トランスミッションは1986年までは915型と呼ばれるポルシェ内製トランスミッション(ポルシェシンクロ)を、1987年からはボルグワーナー式のゲトラグ製G50ミッションを採用した。真の911のDNAを受け継ぐのは1986年までの911と言えるかもしれない。
1976年に260馬力の3リッターエンジンを搭載するターボモデルが登場。豪華な内装をもつ高性能スポーツカーとして高価格ながら販売は好調であった。トルクバンドが幅広いため、トランスミッションは当初4速MTだった(NAモデルは5速MT)。
ポルシェは「ありあまるパワーには4速で十分」と語っていたが、本当のところはポルシェシンクロトランスミッションの許容量がターボのパワーに耐え切れず、やむなく4速にしたというのが通説(4速には4速なりの味があるが)。1988年まではポルシェシンクロを採用し、1989年のみ5速のゲトラグ製ミッションを採用する。ターボの燃料制御はKEジェトロ、NA(カレラ)は3.2LからLジェトロ(フラップ式)を採用。NAは意外に燃費もいい。
1982年にはインタークーラーを装着し、排気量も3.3リッターとなる。
1987年には全ての車種においてトランスミッションのシンクロメッシュがワーナータイプに変更となる。
- 北米市場の要望によりオープンボディのカブリオレ及びタルガがターボモデルにも追加された。
- ビッグバンパーの最終年となる1989年には限定モデルのターボSが少数製造される。
[編集] 964型(1989年~1993年)
944と928のセールスが予想を下回ったことにより、引き続き911シリーズは収益上の主力となっていた。相変わらず北米市場での人気は高かったものの、顧客数の増大は新たな要求を生み、それに応えるためには、アップデートが必要な時期に来ていた。さらにその後継車は911シリーズのイメージを継承する必要があり、外観を大きく変えることが許されなかった。
そのために、1989年にデビューした964(カレラ4)は、930似の外観をまとってはいるものの、80%ものバーツを新製するといった手の込んだ手法を採ることとなった。なかでも特筆されるのは、ボディー構造が一般的なモノコックとなったことと、サスペンションのスプリングが全てコイルスプリングに変更されたことの二つである。しかし、これにより964は一気に現代的なハンドリングを得ることに成功、「最新のポルシェこそ、最善のポルシェ」という言葉の価値を一層高める一助となり、エンジニアの多大な労苦は報われることになった。
排気量は3.6リッターとなり、フルタイム4WD機構に加え、マニュアルシフトモードを持つAT、「ティプトロニック」が搭載された。
1990年には2WDのカレラ2が追加される。1992年にはレーシングバージョンのカレラRSが追加された。この頃ボディタイプはクーペ、タルガ、カブリオレに加え、簡単な工具で脱着可能なウィンドシールドをもつスピードスターが加わり、ポルシェ創設以来もっともバラエティに富んだ商品ラインナップとなった。
大掛かりなモデルチェンジとなった964では、当初ターボモデルの開発が追いつかず、1991年に930モデルと同じ3.3リッターM30エンジンでデビューしたが、1993年に3.6リッターM64エンジンをベースとしたターボ3.6が登場した。
また、3.8リッターと空冷ポルシェ最大の排気量であるカレラ RS 3.8なども少量生産された。
[編集] 993型(1993年~1998年)
空冷最後のモデルとなる993。キャビン周りに964のシルエットを残しながら、太腿とも呼ばれたフロントフェンダーの峰は低くなり、テールエンドのデザインも一新された。リアサスペンションに採用されたマルチリンクのスペースを確保するため、リアフェンダーもそれまでよりさらに拡幅される(964までのNAモデルは日本の5ナンバー枠に収まる)。
拡大されたリアフェンダーはマフラー容量の増大と、左右独立等長のエキゾーストをも実現し、排気系の改善に寄与した。また、ターボモデルでは市販モデルの911で初めてターボ+4WDが実現。ポルシェ 959、またボット博士が実現しようとした965(964カレラ4ベースのターボモデル)のプロダクションモデルと見ることもできる。ターボSにはGT-2と同じエンジンが搭載される。
さらに特筆されるのはタルガで、964までとは異なり、ベバスト(Webasto、日本ではウェバストとも呼ばれていた)製電動スライディング・グラストップに変更され、スタイルもクーペのような美しいファストバックとなった。ただし、開放感は964までのタルガのほうが若干上か。
1995年、ビスカスカップリング方式の四輪駆動システムを搭載したカレラ4が登場、本国ではカレラと同様で排気量は3.6ℓだが、日本国内モデルのみRSと同じ3.8ℓエンジンを搭載する。
1996年、可変バルブタイミング機構であるバリオラムを装備、カレラで13psのアップ(285ps)、カレラ4で15psのアップ(300ps)を果す。ボッシュのH.I.D.ランプシステム、リトロニックをオプション設定。 また、この年にワイドボディー+ターボの足回りを纏ったカレラ4Sが登場。しかしながら本国同様3.6ℓエンジンの為、日本国内では カレラ4>カレラ4S のパワー逆転現象が起きた。
1997年、往年の356のグリルを彷彿とさせる、スプリットルーバーにワイドボディーを纏ったカレラSが登場。
このモデルまでは、ナローから連綿と続く室内レイアウトが共通であり(964以降は4WDに対応するためフロアセンターが高くなってはいるが)、「ポルシェを着る」とされたタイト感が残る最後のモデルとも言えよう。ただし、964同様エンジン音も静かになり、快適性は向上している。
「最後の空冷」のキーワードで中古での価格もなかなか下がらないが、それだけ往年の911ファンが空冷を今でも支持していることを証明しているのかもしれない。997が空冷のテイストを醸し出そうと努力しているのもその顕れと見ることができよう。
[編集] 996型(1998年~2005年)
約30年の長きに渡り大小のリファインを重ねて来た911が、この996型から完全に刷新されることとなる。これまでの911は、エンジンの排気量拡大、サスペンション形式の変更などの変更を受けて来たものの、骨格に大きくメスが入ることはなかったために、それまで上手く対処して来た改良も、これを契機に新設計されることになった。
1998年、996が発表された時に最大の注目を集めたのは、それまでトレードマーク的存在であった空冷エンジンが、欧州の環境対策基準をはじめとする世界的な環境問題への対処を主な目的として水冷化されたことである。それに伴い、ヘッド周りも全面改装され、新しいDOHCヘッドと組み合わせられた。ボディの大型化・水冷化に伴うエンジンの補記類の設置、更に衝突安全基準の適合のための安全装備の充実で先代の993と比較して重量は増加したが、それでも同じカレラ2との比較で70Kgの増加に留まっている。サスペンション形式はフロントはストラット式、リアはマルチリンク式と名目は993と変わっていないが、フロントはアライメントの適正化、リアに至ってはセミトレーリングアームに三本のアームを組み合わせた変則マルチリンク構造となっている。
1999年には、レースでの使用を前提としたGT3が市販される。これはワンメイクレースであるポルシェカップへの参戦を希望するユーザーや、GTレース向けに限定生産されたモデルで、それをロードカーに仕立て直した。エンジンはノーマルの3.4リッターから200cc増量しているが、エンジンブロックをルマンに参戦していたGT1のものから拝借している。レース用ユニットらしく高回転型ユニットで、370馬力を7000回転で発揮するスペックを持つ。
ポルシェの常で、目玉となるターボなどのモデルはのちに追加され、それは2000年に姿を現す。3.4リッターから3.6リッターに拡大され、更に片バンクにつき一基のターボとインタークーラーを割り振られ、420馬力を発生する。大パワーを路面に確実に伝えるためには2駆では辛くなり、駆動系にビスカスカップリング式フルタイム4WDを採用。後輪のスリップを検知し、フロントへの駆動力を増大させる制御を行っている。もともとリアにエンジンを搭載している911にとって主駆動輪である後輪へのトラクションは十分で、あとはコントロールを容易にするだけの駆動力をフロントに供給できればよかった。簡易的な構造であるがために、4WDシステム単体では約50kgの重量増に留まっている。
翌年には、カタログに載る量産車種として最強のスペックを引っさげて登場したのがGT2で、ターボをベースとしてエンジンパワーを約40馬力上乗せし、軽量化のために4WDシステムを撤廃したことで車重を1470kgまでダイエットしている。ポルシェのオートマチックトランスミッション、ティプトロニックSはオプションにはなく、マニュアルトランスミッションのみと、徹底的に走りのみに特化したモデルである。
上記のモデルの他には、これまでの911のラインナップを踏襲し、オープンスタイルのカブリオレ、4WDのカレラ4、ターボボディに4WDシステムと3.6リッターNAエンジンを組み合わせたカレラ4S、スライディング式グラスルーフを持つタルガ、ターボを更にハイパワー化したターボSがある。タルガに関しては、993型タルガがカブリオレの車体を土台に設計されていたのに対し、997型タルガではクーペの車体を土台にしているために車体剛性が向上していた。
また、ポルシェらしさを表していた丸目型ヘッドライトが廃止され、滴が垂れたような涙滴型デザインのヘッドライトが採用されたモデルでもある。これは、開発コスト削減のために車体前方部分がボクスターと共通であり、最初にボクスターで採用された涙滴型ヘッドライトがそのまま996型にも採用された結果。2002年モデルでは、差別化のためにボクスターとは異なるデザインのヘッドライトが採用された。
[編集] 997型(2005年~)
現行モデル。996型で不評だった涙滴型ヘッドランプの廃止と、内装のデザイン変更と質感向上を求めたモデルで、さらに後部コンビネーションランプと前後バンパー部分のデザインも変更。それ以外は基本的に996型と同じであるが、エンジンの出力向上も図られている。グレード展開は以下の通りで(追加および変更される可能性あり)、それぞれに6速マニュアルトランスミッションと、5速ティプトロニックSオートマチックトランスミッションが用意される(911GT3は6速マニュアルトランスミッションのみ)。
- 911カレラ
- 911カレラS
- 911カレラ・カブリオレ
- 911カレラSカブリオレ
- 911カレラ4
- 911カレラ4S
- 911カレラ4カブリオレ
- 911カレラ4Sカブリオレ
- 911ターボ
- 911GT3