ボーク
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ボーク(balk、baulk)とは、野球において投手の投球や塁への送球における反則行為である。このルールの目的は、投手が走者をだまして、盗塁やヒットエンドランなどを阻もうとするのを防ぐことにある。
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ボークの例
投球に関する動作
- 投手板に触れて、投球動作を途中で止めた。
- 2段モーション(投球時に足をいったん上げてから下げ、また上げて投球動作を行う)の投手は、投球動作中にわずかでも全身が静止するとこれに該当する。
- 投球動作中に転倒したり、バランスを崩したりした場合も、投球動作の中止にあたるので、ボークである。
- 以下の動作を行った場合には投球動作に入ったとみなされるため、引き続いて牽制動作をすると投球動作の中止にあたるので、ボークである。
- 自由な足と軸足が交差してからの牽制。
- 両肩が動いた後での牽制。(ワイルドピッチ投球の牽制はこれに該当する)
- 肩をセンター方向に向けながらの牽制。
- 足のつま先を打者方向に向けながらの牽制。
- 反則投球を行った。
- 打者と正対する前に投球した。
- 投手が投手板に触れることなく投球、あるいはそれに関する動作を行った。
- セットポジションで完全に静止しなかった。
- 実際には審判の取り決めによって決まるため、規約が改正された場合や、入団間もない外国人投手においてボークを何度も取られることがある。
牽制球に関する動作
- 投手板に触れた状態で、一塁へ送球する動作を起こして実際に送球しなかった(偽投)。
- 投手板に触れた状態でも、二塁、三塁への偽投はボークにならない。
- 投手板を外せば、一塁に対して偽投してもボークにならない。ただし、本塁(打者)に対しては偽投は認められない。
- 投手板に触れた状態で、自由な足を牽制方向に踏み出さずに牽制した。
- 投手板を外せば、どのような投げ方であってもボークにはならない。
- 三塁に踏み出して振り向きざまに一塁に送球した場合は、軸足が投手板の後方に外れていなければボークになる。しかし(日本では)、三塁に向かって腕を振って送球するふりをしたあとに振り向きざまに一塁に送球した場合は、軸足が投手板から離れてさえいればボークにはならない。この場合、外した軸足は投手板の前方にあっても構わない。
- 投手板に触れて、走者のいない塁に送球した、あるいはその動作を起こした。
- 盗塁しようとした走者をアウトにするために走者のいない次の塁へ送球するなど、プレイのために必要な送球であれば差し支えない。
ボールの扱いに関する動作
- 走者が塁を離れていないのに不必要にその塁に送球するなどして試合進行を遅らせた。
- ボールを持たずに投手板に故意に触れるか跨いだ。(隠し球の項目参照)
- 正規の投球姿勢をとった後、実際に投球または送球する場合を除いて、ボールから一方の手を離した。
- 投手板に触れていながらボールを落球した。
- 故意四球において、キャッチャーズボックスに両足が入っていない捕手に投球した。(プロ野球では事実上黙認されている)
処置
ボールデッド(その時点のボールの状況に関係なく次の処置が執られる)となり、塁上の走者はそれぞれ一つずつ進塁する。三塁に走者がいれば得点となる。ストライクまたはボールは宣告されない。
- ボークの後、連続して暴投、走者がいる塁への悪送球などが行われた場合、ボークで与えられた塁から、さらに次の塁へ進塁しようとした時点で、ボークと関係なくプレイは続けられる。
- 打者が、ボークの投球を打って安打にしたり、失策や野手選択、四死球などで出塁し、他の全ての走者が少なくとも1つ進塁した場合にはボークとはならず、プレイはそのまま続けられる。
- 上記の場合、打者走者を含む走者が1人でも進塁できない状況があれば、たとえ走者がアウトになっていても取り消され、さかのぼってボークが宣告される。
- 実例として1998年7月15日に横浜スタジアムで行われた試合でのケースが挙げられる。読売ジャイアンツの槙原寛己投手の投球を打者の佐伯貴弘(横浜ベイスターズ)が打ってライトフライとなったが、ボークが宣言されていたためアウトは取り消しとなった。そして投げ直しとなった次の投球は、佐伯がホームランを打っている。
- なお、他の全ての走者が少なくとも1つ進塁した場合には、ボークで与えられた塁より先の塁でアウトになった場合でも、アウトは取り消されない。またその際に塁を踏み損なった(空過した)としても進塁したものとみなされる。
- ボークの投球に対して打撃妨害が起きた場合には、ボークが優先される。その場合、投球は取り消しとなる。日本プロ野球では、1999年のシーズンに限り攻撃側が有利になるように打撃妨害を選択することが認められたが、規則の整合性などの問題で翌シーズンから元のルールに戻った。
- 打者に対する処置は無い。
走者がいない場合
走者がいない場合にはボークにならない。
- ボークと同じような動作を行った場合には、それが反則投球とみなされる場合に限りボールとなる。
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- 実例として、2005年10月4日、甲子園球場での阪神対横浜戦がある。3-6と横浜がリードして9回裏、横浜クルーンは1死無走者の場面で、打者スペンサーに対して2ストライク0ボールからの3球目を2段モーションで投げたところ、一度上げた左足が地面についてしまい、三塁塁審は反則投球と判定した。スペンサーはこの反則投球を打ってショートゴロとし、一旦一塁でアウトになったがこれは取り消された。ここで反則投球はボールと扱われるので、2ストライク1ボールからのやり直しが正しいが、その試合の責任審判でもあった三塁塁審が場内アナウンスの際に「1-2からやり直し」と言ってしまったため実際に1ストライク2ボールからのやり直しとなってしまった。4球目がボールで1ストライク3ボールとなった時点で横浜牛島監督から指摘を受けて、カウントを2ストライク2ボールに訂正された(球審も気づいていなかった)。ちなみに、この後スペンサーは四球を選び、得点に繋がった。
- 投手板に触れていながらボールを落球した場合、ボールがファウルラインを越えると投球として扱われ、ボールが宣告される。そうでない場合は、ノーカウントで投球やり直しになる。
ボークにまつわるエピソード
サヨナラボーク
1998年8月16日の第80回全国高等学校野球選手権大会2回戦の豊田大谷-宇部商で、延長15回裏無死満塁からの4球目、宇部商の藤田修平投手が投球動作を止めてしまい、ボークとなり三塁走者が生還、豊田大谷がサヨナラ勝ち。高校野球全国大会でサヨナラボークは史上唯一。スコアは3-2。
盗塁王争いにおける故意のボーク疑惑
1998年のパ・リーグペナントレースにおいて、西武ライオンズの松井稼頭央選手と千葉ロッテマリーンズの小坂誠選手が盗塁王争いをしていた。10月12日、ペナント最終戦に西武とロッテの直接対決があった。この試合までに西武とロッテの順位は確定しており、タイトル争いに注目されるだけの消化試合になっていた。最終戦前、小坂は松井よりも盗塁数で1個上回っていた。
この試合の7回表にロッテの小坂が一塁に出塁。この後、西武の芝崎和広投手は一塁に牽制悪送球をした。だが、牽制悪送球では二塁に進塁しても盗塁にならないため、盗塁王を狙う小坂は二塁に進塁しなかった。すると、次の投球で芝崎はボークを犯した。ボークなので小坂は自分の意志に関わらず、盗塁にならないまま二塁に進まなければならない。ロッテの近藤昭仁監督は「故意のボークであり、野球協約が禁止する敗退行為にあたらないか?」と抗議するも認められず、小坂はしぶしぶ二塁へ進塁。この後、ショートの松井(盗塁王争いの相手)が二塁上に立つなどして西武守備陣のきついマークの中で、小坂は三塁盗塁を試みるも失敗した。そして、7回裏で一・二塁において、一塁走者の松井は重盗という形で二塁への盗塁に成功する。この盗塁で小坂と並び、盗塁王を分け合った。
後日、この盗塁王争いは新聞にも取り上げられ、社会問題化した。