ピーター・カッシング
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ピーター・カッシング(Peter Cushing, 1913年5月26日 - 1994年8月11日)はイギリス・サリー州出身の俳優。怪奇映画(フランケンシュタインやドラキュラに代表されるクラシックなホラー映画)の大スター。マッドサイエンティスト役や吸血鬼ハンター役として名高く、1950年代後半から30年近くこの分野の第一人者であった。またシャーロック・ホームズ俳優としても高い評価を受けた。
主にクールで知性的、貴族的な役柄を得意とし、その演技力と存在感でクリストファー・リー、ヴィンセント・プライスととも怪奇映画の戦後の三大スターと称された。特にリーとはホラーの黄金コンビとして記憶されている。映画での多くの役柄と違い、その素顔が温厚な紳士であることでも知られている。
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[編集] 略歴・人物
- 大戦前、アメリカに渡り映画俳優となるが戦中に帰英、1940年代はシェイクスピア等の舞台を中心に活動した。ローレンス・オリヴィエに認められて出演した『ハムレット』(1948年)や『赤い風車』(1952年)などの名作映画での好演を経て、1950年代半ばには草創期の英国テレビドラマ界随一の人気スターとなった。
- 1950年代後半、英国の映画製作会社ハマー・フィルム・プロダクションは戦前の怪奇映画ブームの再興を図っていた。カッシングはその第一作『フランケンシュタインの逆襲』(1957年)にフランケンシュタイン男爵(怪物を創造した博士)として、続く『吸血鬼ドラキュラ』(1958年)には吸血鬼ハンターのヴァン・ヘルシング博士として主演した。二作は世界的ヒットとなり、カッシングも国際的な知名度を得た。この二役は1970年代半ばまで当たり役として演じ続けた。また両作で共演したクリストファー・リーも同様にスターとなった。カッシングとリーは22本の映画で共演した怪奇映画の黄金コンビとして、また無二の親友として知られる。
- 以降、カッシングはクールで知的・高貴な雰囲気溢れる演技と存在感で多くのホラー・ファンタジー映画ファンから支持され、この分野の第一人者として30年近くにわたり活躍した。ハマー作品での主演に加え、1964年の『テラー博士の恐怖』を皮切りに、後発のホラーメーカー、アミカス・プロダクションの看板スターも務めた。メジャーな作品としては『スター・ウォーズ(エピソード4)』(1977年)の悪役である冷酷な帝国軍司令官、グランド・モフ・ターキン役が知られる。しかしまったく異なるコミカルな、あるいは憐れな役柄も評価が高い。
- 日本にはほとんど紹介されなかったカッシングの当たり役に、シャーロック・ホームズがある。映画はハマー制作の『バスカヴィル家の犬』(1959年)のみだが、1968年には英BBCのテレビシリーズ、さらに1984年には単発のオリジナルテレビムービーでホームズを演じた。映画公開時には米ニューズウィーク誌が「生きて呼吸する過去最高のホームズ」と絶賛したとも、英国のホームズファン協会が唯一公認するホームズ俳優であったとも伝えられる。
- スクリーンでは冷徹な役柄が多かったカッシングだが、素顔は誰もがその人格を讃える温厚な紳士として知られた。大変な愛妻家でもあったが、1971年に妻へレンを亡くして以降は体調を崩し、容貌も衰えが目立つようになる。それでも1970年代は、準主役・脇役に回ることも多くはなったが、精力的に活動した。しかし1980年代に入ると出演は少なくなった。1984年には癌を発病、1985年の『ビグルス 時空を超えた戦士』が最後の映画出演となった。
- その後長くスクリーンから遠ざかったが、亡くなる3ヵ月前の1994年5月、ハマー・フィルムをテーマとしたTVドキュメンタリーにナレーターとして出演、リーと奇跡的な最後の共演を果たした。収録会場の英国カンタベリーのスタジオでは2人によるトークライブも行われ、詰めかけたジャーナリストやファンを感動させた。
[編集] 主な出演作品
*印はクリストファー・リーとの共演作
[編集] フランケンシュタインシリーズ
- フランケンシュタインの逆襲(1957年)*
- フランケンシュタインの復讐(1958年)
- フランケンシュタインの怒り(1964年)
- フランケンシュタイン死美人の復讐(1967年)
- フランケンシュタイン恐怖の生体実験(1969年)
- フランケンシュタインと地獄の怪物(1974年)
ピーター・カッシングがフランケンシュタイン男爵役で主演したハマーのシリーズは以上6本である。1は邦題がまるで何かの続編のようでややこしいが、メアリー・シェリー作『フランケンシュタイン』の映画化作品。それ以降はオリジナルで、主に男爵がヨーロッパ各地を転々と逃亡しながら、生命の実験に続けるという内容であった。男爵の性格は比較的まともな学者肌から、実験の為には手段を選ばない冷酷漢まで、作品により違いがある。3以外は怪奇映画の名匠テレンス・フィッシャーの監督によるもので、最終作まで高いクオリティを保っている。クリストファー・リーがモンスターを演じたのは1のみ。
[編集] ドラキュラシリーズ
- 吸血鬼ドラキュラ(1958年)*
- 吸血鬼ドラキュラの花嫁(1960年)
- ドラキュラ'72(1971年)*
- 新ドラキュラ/悪魔の儀式(1972年)*
- ドラゴンvs7人の吸血鬼(1973年)
ピーター・カッシングがヴァン・ヘルシング博士(一般に“教授”と呼称されることが多いがこのシリーズの1,2では教授ではない)を演じたハマーのドラキュラシリーズは以上5本である。1はブラム・ストーカー作『吸血鬼ドラキュラ』の映画化、2以降はオリジナル作品。このうちリーがドラキュラを演じたのは1,3,4。カッシングは原作とはやや異なるクールで行動力に富むヘルシングを創造し、後の吸血鬼・怪物ハンター像に影響を与えた。尚、1はリーが主演であるかのように表記されることが多いが、主演はカッシングである。後年の3,4では立場が逆転している。またハマーは2から3の間にカッシング不出演の、リーがドラキュラを演じた映画も4本制作している。
[編集] その他の主な出演映画
- ハムレット(1948年)*
- 赤い風車(1952年)*
- ミイラの幽霊(1959年)*
- バスカヴィル家の犬(1959年)*
- 死体解剖記(1959年 カッシングが実在の解剖学者ノックス博士を演じた名作恐怖映画)
- 幽霊島(1962年)
- 妖女ゴーゴン(1964年)*
- テラー博士の恐怖(1964年 アミカスプロのオムニバスホラー第一弾)*
- 炎の女(1965年)*
- Dr.フーin怪人ダレクの惑星(1965年 英国の有名キャラクター、ドクター・フー役)
- 地球侵略戦争2150(1966年 ドクター・フーシリーズの第二弾)
- 狂ったメス(1967年)
- バンパイア・ラヴァーズ(1971年)
- 怪奇!二つの顔の男(1971年 リー&カッシングによる『ジキル博士とハイド氏』)*
- マッドハウス(1974年 ヴィンセント・プライスとの本格共演作)
- 地底王国(1976年 エドガー・ライス・バローズの『地底世界ペルシダー』の映画化)
- スター・ウォーズ(1977年)
- 魔人館(1983年 リー、プライス、ジョン・キャラダインとの怪奇四大スター共演作)*
- トップ・シークレット(1984年)
- ビグルス 時空を越えた戦士(1985年)