デハビランド コメット
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デハビランド コメット(de Havilland Comet)は、イギリスのデハビランド社が製造した、世界で最初に定期運行に用いられたジェット旅客機である。世界で最初に定期運行に用いられたジェット機というだけでなく、与圧された胴体の繰返し変形による金属疲労が原因で空中分解事故を起こしたことによって、航空技術史に残ってしまった航空機である。
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[編集] 概要
[編集] 就航
第二次世界大戦中より開発が開始され、1949年7月27日に初飛行した。3年間のテストを経て、1952年5月に最初の旅客飛行が英国海外航空(現在のブリティッシュエアウェイズ)のコメットMk.Iによってロンドン・ヒースロー空港からヨハネスブルグ間で行われた。
乗客数こそ従来のプロペラ機と変わらなかったが、従来の旅客機の約2倍のスピードで運行されることや、天候の影響を受けにくい高高度を飛行することによって好評を博し、初年度に30,000人の旅客を輸送し、1953年には東京にも就航するなど出だしは順調で、日本航空やパンアメリカン航空などの世界中の航空会社から50機以上の受注を獲得し、エールフランス航空やトランス・カナダ航空など諸外国の航空会社での運航も開始された。
[編集] 金属疲労による連続事故
1953年5月2日、カルカッタのダムダム空港を離陸したコメットMk.Iが離陸直後に墜落したのが最初の兆候であったが、この事故はパイロットミスによるものとされ、実際、その後に起きた一連の連続事故とは関係のないものであった。しかし、その後も1954年1月と4月に2機が続けて墜落した。
回収された残骸などの状況から空中分解が疑われたが墜落原因がわからなかったため、コメットは耐空証明を取り消されて全機運行を停止、ただちに英国の王立航空研究所によって徹底的な調査が行われた。これは巨大な水槽を建造してその中にコメットの機体を沈め、水圧を掛ける事で地上で人工的な与圧状態を作り出し、これを数万回に渡って繰り返すという極めて大がかりなものであった。なお、コメットが運航停止となった時、日本国内にも英国海外航空の1機が東京国際空港に滞在していたが、運航停止の報を受けて急遽イギリスに取って返している。
その結果1955年2月に、当時は全く未知であった要素が原因であった事が判明する。それは離着陸により何度も与圧を繰り返された胴体キャビン部が金属疲労を起こし窓枠の角などから亀裂が発生、これに気づかずそのまま使用を継続していると、機体に突然の減圧と構造の破壊が発生し、これにより空中分解に至る、というものであった。この事故により、その後のジェット機については、窓部に角を付ける事が絶対の禁忌とされる様になった。
これによりコメットは生産を完全に停止し、注文していた航空会社からのキャンセルが相次いだ。
[編集] 再デビュー
金属疲労の対策を行い、サイズアップしたコメット4は1958年にロンドン-ニューヨーク間の大西洋横断路線に定期航空便として復帰したが、その直後にデビューしたより高速でより大型のボーイング707やDC-8にジェット旅客機の市場を奪われてしまい、注文は大きく伸びることなく1960年代に生産を中止した。その後はアルゼンチン航空やダン・エアなど少数の航空会社で運行されていたものの、1980年代初期には姿を消してしまった。
[編集] ニムロッド
コメットを原型として、1967年にBAE ニムロッド対潜哨戒機が製作され、現在もイギリス海軍で使用されている。
なお、エンジンをロールスロイス・スペイ・ターボファンエンジンに換装しており、対潜哨戒機のMR型と電子偵察機のR.1型、MR型の後継機のMRA4型などが製作された。
[編集] シュド・カラベル
エールフランス航空が初期にコメットMk.Iを発注した際に、当時短・中距離ジェット機の開発をフランスの民間資材委員会の指導の下計画していたフランスのシュド・アヴィアシオン社との間で、開発期間を短縮することを目的にコメットの機首と尾翼の部分を新型機シュド・カラベルSA210に流用する旨の契約が交わされ、同機は後の1955年に初飛行した。
同機は世界初の短・中距離ジェット機として好評を博し、最終的にコメットを上回る279機が生産された。
[編集] 仕様 Comet Mk.I
- 全長: 28.61 m
- 全幅: 34.98 m
- 翼面積: 188.3 m²
- 全高: 8.70 m
- 自重: 5668 kg
- 最大離陸重量: 47620 kg
- 乗客: 36名
- 最大速度: 724 km/h
- 最高到達高度: 12800m
- 航続距離: 2414 km
- エンジン: デハビランド ゴースト50 Mk1型 4基
- 推力:22,3 kN Schub
[編集] 主なカスタマー(軍用機を含む)
- 英国海外航空(BOAC)
- 英国欧州航空(BEA)
- BEAエアツアーズ
- ダン・エアー
- チャネル・エアー
- エールフランス航空
- オリンピック航空
- ミドルイースト航空(MEA)
- ユナイテッド・アラブ航空
- エジプト航空
- イースト・アフリカン航空
- スーダン航空
- メヒカーナ航空
- アルゼンチン航空
- AREAエクアドル航空
- イギリス空軍
- カナダ空軍