デイヴィッド・サンシャス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』
デイヴィッド・サンシャス(David Sancious、1953年11月30日-)は、アメリカ合衆国のミュージシャン。キーボード奏者として有名だがギター演奏もこなす。ブルース・スプリングスティーン初期のバックバンドＥストリート・バンドに加入し3枚のアルバム製作に参加する。1974年に同バンドを脱退後、自分のグループToneを結成、数枚のアルバムを発表した。その後、著名なセッションミュージシャンやツアーメンバーとして活躍し、スタンリー・クラーク、ナラダ・マイケル・ウォルデン、ズッケロ・フォルナチャーリ、ピーター・ガブリエル、スティングらとの共演を数多くこなしている。
目次 |
[編集] 来歴
ニュージャージー州、アズベリー・パーク生まれ。7歳からクラシックピアノを習い、11歳からは独学でギターを弾き始める。アスベリー・パークの音楽に初めて触れたときにはまだ十代だった。
[編集] ブルース・スプリングスティーン&Ｅストリート・バンド
1960年代後半から1970年代初頭にかけて、同郷のブルース・スプリングスティーンや将来一緒にＥストリート・バンド結成するサウスサイド・ジョニーやビル・チノックなども所属していた「Glory Road」、「Dr.Zoom & The Sonic Boom」、「The Bruce Springsteen Band」、「The Sundance Blues Band」など数多くのバンドで演奏した。
1972年1月、ヴァージニア州リッチモンド,に移り住み、アルファ・スタジオでスタジオ・ミュージシャンとしての仕事を始めた。多くのセッションをこなしていた頃、そこでドラマーのアーネスト・カーターと出会う。同年6月にはスプリングスティーンのデビューアルバム『Greetings From Asbury Park, N.J.』にキーボード奏者として参加する。しかし、スプリングスティーンが後のＥストリート・バンドとなるメンバーとライブ・ツアーを始めた時に、そこには加わらず1972年にはアルファ・スタジオに戻りアーネスト・カーターやガリー・タレントらとデモ用の曲をいくつか録音した。(後、このデモ曲はプロデューサー・作曲家のウェル・ファレルが権利を獲得し、1976年にディヴィッドらに断り無く発売した。)
1973年6月からデイヴィッドはＥストリート・バンドの公演に定常的に加わり出した。彼は、モーツァルトやセロニアス・モンクの様なヨーロッパのクラシック的要素とジャズ的な部分をもイントロや間奏部分などに柔軟に取り入れ、バンド初期の音楽的性格に新たな様相を加えた。スプリングスティーンのセカンドアルバム『The Wild, The Innocent, & The E Street Shuffle』はサンチアスの才能が如実に発揮された1枚である。彼の貢献した部分として、「Kitty's Back」のオルガン演奏部分や「New York City Serenade」のピアノ前奏などがあげられる。さらには、他の曲での弦楽器の編曲、「The E Street Shuffle」でのソプラノ・サクソフォーン演奏など八面六臂の活躍を見せている。
1974年2月、ドラマーのヴィニ・ロペスがバンドを脱退（首になったとの説もあり）すると、友人のアーネスト・カーターを招き入れた。この2人はスプリングスティーンの「Born To Run」録音に参加した。
[編集] デイヴィッド・サンシャス&トーン
1974年、デイヴィッドとアーネストはＥストリート・バンドを脱退し、ジェラルド・カーボーイ(bass)と新たなバンド・トーンを結成した。トーンは様々なアーチストと共演し、そこにはパティ・スキャルファ(後のスプリングスティ－ンの妻)、ゲイル・モランやサンタナのボーカリストのアレックス・リガートウッドらもいた。スプリングスティーンは彼のソロ活動を応援し、デモ・テープを音楽業界の有力者らに紹介するなどしてEpic Recordsとの契約まで導いた。
トーンのデビューアルバム『Forest Of Feelings』はビリー･コブハムをプロデューサーに招いて製作され、1975年に発売された。これは、以前スプリングスティーンとともに仕事をしていた時の音楽とは根本的に異なり、プログレッシブ・ロックやジャズの融合を探求したもので、イエスや初期のジェネシスよりも先鋭的な取組みだった。
二枚目の『Transformation: Speed Of Love』が1976年に発売され、三枚目の『Dance Of The Age Of Enlightenment』の録音も行なわれていた。しかし、デイヴィッドとレコード会社との間で新レーベルArista Recordsの権利に関わる問題が生じ、この『Dance ～』はお蔵入りとなってしまい、2004年になってやっと陽の目を見る結果となってしまった。トーンは別録音の『True Stories』を1978年に発表するが、その後すぐに解散してしまった。
トーン解散後、デイヴィッドはソロ活動を行なうが、この時は2枚のアルバムを発売するにとどまった。1980年12月、WNEW-FMの企画で作曲・演奏したジョン・レノンを追悼する10分のピアノ曲も、当時彼の数少ないソロのひとつにあげられる。
[編集] セッションそしてツアーミュージシャン
デイヴィッドの才能はクラシック、ロック、ジャズ、ブルースからファンクまでジャンルを問わず発揮され、それがかえってソロ活動を阻害したのではとも言われている。その代わり、彼は周囲から尊敬を集め、ピーター・ガブリエルなどは彼を「ミュージシャンの中のミュージシャン」と称す程である。お陰で彼は食い詰めたことが無い。ソロを志向しようとしていた頃でさえ彼の能力は引き手あまたであり、1970年代には既にジャスやヒュージョン界でそれなりの評価を得ていた。スタンリー・クラークの公演に呼ばれたり、ジョン・マグローフリンやビリー・コブハムのバンドでギターやキーボードを演奏するなど仕事はひっきりなしにあった。
1980年代初頭は再びビリー・コブハムと組んでジャック・ブルース&フレンズの一員に加わったり、TV番組The Old Grey Whistle TestやRockpalastのバンドに参加するなどの活動をしていた。1984年には復帰するアレックス・リガートウッドとともにサンタナにも加入した。
1977年にはナラダ・マイケル・ウォルデンのデビューアルバム製作にゲスト参加。これはプロデューサーとソングライターが共同作業を執る最初の例のひとつにあげられる。1980年代、ウォルデンは録音セッションを、デイヴィッドにランディ・ジャクソンとコッラード・ルスティーチも含めたチームで数多く行なった。このチームによる録音セッションを受けたミュージシャンには、アレサ・フランクリン、パティ・オースティン、Eストリート・バンド出身のクラレンス・クレモンスらがいて、製作は全てウォルデンが担当している。更に、ルスティーチがイタリア人ミュージシャンをプロデュースするにあたり、ウォルデンやジャクソンとともに加わった。このセッション参加は、ズッケロ・フォルナチャーリの複数のアルバムにおいて有名である。
一方、1988年までデイヴィッドはピーター・ガブリエルのツアーメンバーに加わり、アムネスティ・インターナショナルのヒューマン･ライツ・ナウ!ツアーにも出演した。それが縁で再びスプリングスティーンとEストリート・バンドを小規模な再結成をすることとなり、以後スプリングスティーンのアルバム製作に何枚か加わっている。また、ツアーメンバーとしてはスティングやユッスー・ンドゥールの公演にも参加、特にスティングは2枚のアルバム製作にも加わった。他にも、リビング・カラー、シール、ブライアン・フェリー、ジュリア・フォーダム、ロビー・デュプリー、ナタリー・マーチャント、エリック・クラプトン、イエスのジョン・アンダーソン、ダリル・ホール&ジョン・オーツといった多くのミュージシャンをサポートした実績を持っている。
2000年代に入ってから、久しぶりとなるソロアルバムを2枚リリースしている。
[編集] ディスコグラフィー
[編集] ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド
- 1973年 アズベリー・パークからの挨拶 - Greetings From Asbury Park, N.J.
- 1973年 青春の叫び - The Wild, The Innocent & The E-Street Shuffle
- 1975年 明日なき暴走 - Born To Run
[編集] トーン
- 1975年 Forest Of Feelings
- 1976年 Transformation: Speed Of Love
- 1978年 True Stories
- 2004年 Dance Of The Age Of Enlightenment
[編集] ソロ
- 1977年 David Sancious (非公認)
- 1979年 Just As I Always Thought
- 1980年 The Bridge
- '2000年 'Nine Piano Improvisations
- '2005年 'Cinema
[編集] 主なセッション参加アルバム
- 1975年 Journey To Love/スタンリー・クラーク
- 1976年 スクール・デイズ - Schooldays/スタンリー・クラーク
- 1976年 Live 1975-76/スタンリー・クラーク
- 1986年 Rispetto/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1987年 Blue's/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1988年 Snackbar Budapest (サウンドトラック) /ズッケロ・フォルナチャーリとデイヴィッド・サンシャスの協作
- 1988年 Hideaway/スタンリー・クラーク
- 1989年 Oro Incenso & Birra/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1989年 Passion/ピーター・ガブリエル
- 1990年 Zucchero/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1991年 Live At The Kremlin/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1991年 ソウル・ケージ - The Soul Cages/スティング
- 1992年 Miserere/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1992年 US/ピーター・ガブリエル
- 1992年 ヒューマン・タッチ - Human Touch/ブルース・スプリングスティーン
- 1993年 テン・サマナーズ・テイルズ - Ten Summoner's Tales/スティング
- 1994年 Diamante/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1995年 Spirto DiVino/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1995年 グレイテスト・ヒッツ - Greatest Hits/ブルース・スプリングスティーン
- 1996年 The Best Of Zucchero/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 1997年 The Bassic Collection/スタンリー・クラーク
- 1998年 トラックス -Tracks/ブルース・スプリングスティーン
- 1998年 18TRACKS～The Best Of “Tracks” - 18 Tracks/ブルース・スプリングスティーン
- 2001年 Shake/ズッケロ・フォルナチャーリ
- 2002年 UP/ピーター・ガブリエル
- 2002年 Long Walk Home/ピーター・ガブリエル
- 2003年 エッセンシャル・ブルース・スプリングスティーン - The Essential Bruce Springsteen/ブルース・スプリングスティーン
- 2003年 HIT/ピーター・ガブリエル
- 2004年 Guitar & Bass/スタンリー・クラーク
- 2004年 Trios/スタンリー・クラーク
- 2004年 Zucchero & Co/ズッケロ・フォルナチャーリ
[編集] 映画音楽
- 1988年 スナックバー・ブダペスト - Snack Bar Budapest/主演ジャンカルロ・ジャンニーニ
