デイムラー

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デイムラー（Daimler）は1896年に創立されたイギリス最古の自動車メーカーで、現在はジャガーの最高級レンジを担うブランドとしてデイムラー・スーパーエイト一車種のみを製造・販売している。

[編集] 概要

デイムラーというブランド名の起源は言わずと知れたガソリン自動車開発者のひとり、ゴットリープ・ダイムラー（デイムラーはダイムラーの英語読み）にちなんだものである。つまり現在のダイムラー・クライスラーと起源そのものは同じなのだが、なぜ起源が同じであるにも関わらず別会社として歩むことになったかについて説明するには、時計の針を1893年に戻さねばならない。

この年イギリスの技術者フレデリック・シムズはイギリス本国およびカナダを除くイギリスの全植民地におけるダイムラーエンジンの製造・販売権を獲得した。シムズはこれに基づきロンドンにデイムラー・モーター・シンジケートを設立した。もっともこの時代のイギリスでは赤旗法が健在だった事もあって最初から自動車製造に乗り出した訳ではなく、当初はモーターボートへのダイムラーエンジンの架装を生業としていた。

赤旗法が廃止された1896年、シムズから会社を引き継いでいたハリー・ローソンは会社をコヴェントリーに移転、社名もデイムラー・モーター・カンパニーと改称し、満を持して自動車製造に足を踏み入れる事になる。デイムラーは自動車製造にあたってもやはりドイツのダイムラー車に範を仰ぎ、最初のデイムラー車はドイツのダイムラー車のフルコピーと言っても差し支えない物だった。1904年にはデイムラー独特の波状のフルーテッドラジエターグリルを採用、この独特の形状をしたグリルはエンジンの冷却効果を高めるために採用されたもので、ジャガーに吸収された後はジャガー車にも波及し両ブランドの象徴として受け継がれている（ただしジャガーはボンネット頂部の縦溝を省略するので、ジャガー自身はフルーテッドと称さないが、素人目には大差はない）。1910年にはデイムラーはバーミンガムのバーミンガム・スモール・アームズ（略称BSA）の傘下に入り、軍用車両の製造に乗り出している。

シムズがデイムラー・モーター・シンジケートを設立したその同じ年、長い英国皇太子時代の末期にさしかかっていた後の英国王エドワード7世は蒸気自動車を運転、初めて自動車を運転したイギリスの王族となった。そして1900年にはデイムラーがイギリス初の王室御料車に指名され、6馬力のフェートンが王室に納入されている。これにならって各国の王室はこぞってデイムラーを御料車に採用するようになり、日本の皇室も1912年、初の御料車にデイムラーを採用している。

第一次世界大戦が始まるとデイムラーも戦車（当時海軍大臣だったチャーチルの肝煎りで作られた世界初の戦車、Mk.1のエンジンもデイムラー製だった）や救急車、バス、トラックなどの軍用車の生産に力を傾け、第二次世界大戦中にはデイムラー・ディンゴなどの装甲車、そして戦後になってからはフェレット装甲車（アメリカ合衆国を含む36ヶ国に供給されている）の生産に携わった事はよく知られている。

[編集] デイムラーがジャガーに吸収される以前の主要車種

1896年 - 初のデイムラー車
1926年 - デイムラー・ダブルシックス（英国車初のV型12気筒エンジン搭載車種）
1936年～1953年 - デイムラー・ストレートエイト
1949年～1971年 - フェレット装甲車
1954年～1958年 - デイムラー・コンクエスト
1959年～1968年 - デイムラー・マジェスティック
1959年～1964年 - デイムラー・SP250

第二次世界大戦後、大量生産による大衆車に世の趨勢が傾くにつれ、手作りによる高級車製造を専らの生業とするメーカーには冬の時代が到来する。デイムラーもその例外ではありえず、1960年にデイムラーの親会社BSAは340万ポンドでデイムラーをジャガーに売却してしまう。新たなデイムラーの親会社となったジャガーはデイムラーのブランド名を廃止するという施策は採らず、デイムラーがそれまで製造・販売していたマジェスティックやSP250などの車種をいきなり廃止する事もしなかったが、デイムラーのラッドフォード工場ではジャガーの各車種の製造も請け負うようになり、1962年にはジャガー・マーク2のラジエターグリルをデイムラー伝統のフルーテッドに改めデイムラー製V型8気筒2.5リッターエンジンを搭載したデイムラー初のバッジエンジニアリングモデル、デイムラー・モデル250がデビューしている。

1966年、親会社のジャガーはBMC（ブリティッシュ・モーター・コーポレーション）に吸収され、デイムラーのバッジエンジニアリング路線が加速する。1968年から1992年にかけて製造・販売されたリムジン、デイムラー・DS420を除くすべてのデイムラーの車種はジャガーのバッジエンジニアリングモデルで占められるようになり、この時期のデイムラーはロンドンの有名な2階建てバスやトラックなど有力な製造元として気を吐いていたもの、こと乗用車部門に関する限りデイムラーとジャガーの違いを見分ける術はラジエターのデザインしかなくなっていく事になる。

デイムラーの親会社ジャガーは1966年にBMCと合併して成立したBMH（ブリティッシュ・モーター・ホールディングス）、1968年にBMHとレイランド・ローバーが合併してBLMC（ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション）、1975年のブリティッシュ・レイランド発足という変遷を経て1984年に分割・民営化される事になる。

しかし北米市場での販売不振によって、1989年に親会社ジャガーはフォード・モーターの傘下に下る事になる。1992年にはデイムラー・DS420の生産が中止された。1996年にはジャガーはデイムラー創立百周年を記念してデイムラー・センチュリーを発売している。

2005年7月、2002年以来3年間途絶えていたデイムラー・ブランドが復活する。新発売されたデイムラー・スーパーエイトはジャガー・XJのバッジエンジニアリングモデルでスーパーチャージャーを搭載したスーパーエイトのエンジンは実に406馬力をたたき出すという。