テレキャスター
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テレキャスター(Telecaster)は、フェンダー社の創設者、レオ・フェンダーが開発したエレクトリックギター。世界初のソリッドボディ(ボディが一枚板で、空洞がない)構造、ワンピースメイプルネック(指板、ヘッド、ネック本体をそれぞれ別々の木を削り組み合わせるのではでなく、一本のメイプル材を削り出して作る)など、楽器としては革命的な構造が採用された。それ以前にもピックアップを搭載したエレクトリックギターは存在したが、このテレキャスターが事実上の「エレキ・ギターの母」と呼べるだろう。
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[編集] 歴史
当初はエスクワイヤー(Esquire)の名称で1949年に発表、ブロードキャスター(Broadcaster)という名前で1950年に発売された。(Esquireの名称は、テレキャスターのシングルピックアップ・モデル名として残る。)但し発表年や発売年、プロトタイプの内容など開発当初の事項については関係者の発言等に違いがみられる(以前には、レオの発言から1948年に発売されたことになっていた)。
グレッチ社が既に類似の名称(Broadkaster)をスネアドラムで商標登録していたため、フェンダー社は発売直後の1951年に「テレキャスター」への名称変更を余儀なくされた。ちなみに、テレキャスターの「テレ」はテレビから採ったもので、テレビが登場したときの衝撃にあやかったものである。(一時、製造済みのデカールが無くなるまで「Esquire」の名称の部分を削った古いデカールを使用したため、この時期の物を一般にノーキャスター(Nocaster)と呼ぶ)。
テレキャスターは伝統的なギターの概念からは大きく離れたものであったが、市場からは好評を博し、その後もフェンダー社の主力機種として、現在に至るまで生産が継続されている。
50年代後半にはローズウッド指板のモデルも追加され、バリエーションとしてカスタムやデラックス、エリートといった派生機種も多数存在し、部分的に中空部分を設けてfタイプのサウンドホールを開けたテレキャスター・シンラインというモデルもある。
[編集] 特徴
テレキャスターはボディに空洞部分がなく、さらにネックとボディを別々の工程で製作し最終的にボルトでつなぐ、という構造、製法である。(但しこれらはテレキャスター以前より存在した工法であり、これが初めてと言うわけではない。)
それまで主流だったフルアコースティックタイプのギターでは、ボディが空洞で、しかもネックとボディをニカワなどで接着していたため、非常に正確で緻密な作業が必要とされたが、フェンダーは工程を単純化する大胆な手法を採用した。
発売当初のボディはアッシュ材などを継いで整形した一枚板(ソリッド・ボディ)で、ギブソン社のギターのようにボディ表面をなめらかな曲面仕上げにせずフラットにし、ネックはメイプル材を削り出し、指板材を貼り合わせずにフレットを直接打ちこんだもの(ワンピース・ネック)であった。
さらにボリューム、トーン・コントロールなどのスイッチ類を、ボディ裏から木をくり抜いてセットするのではなく、一連のユニットとしてひとつのプレートにまとめてボディ表面にネジ止め(さらに配線もこのプレートの導通を生かして配線されている)し、ピックアップもボディ表面から取り付け、弦はボディ裏から通され、ブリッジユニットはリヤピックアップのマウント台も兼ねるなど、信頼性と音質とコストダウンを両立させ、流れ作業的な大量生産を可能にする構造になっていた。
ピックアップは、フロントとリヤにそれぞれ異なる構造のものが搭載されている。フロントピックアップは細いボビンに金属のカバーをかぶせたもので、リヤは幅広のボビンで、ブリッジ・ユニットに直接吊るされる。リヤピックアップにはフェンダーがそれまで作っていたスティール・ギターの影響が残っている。
意匠的には、ヘッドは6個の糸巻きを直列に並べたデザイン、ボディはマーティン社のドレッドノートモデルに影響を受けたシェイプに、高音域の演奏性を考えてカッタウェイを設けたスタイルである。樹脂製の大型のピックガードが装着され、色は木目の透けたクリーム色(ブロンド)がメインカラーで、追ってサンバースト、ブラック、レッドなど各色のバリエーションが増えていった。
[編集] サウンド
フェンダー社のギターの特徴はやはりシングルコイルを活かした、澄んだ高音域に特徴のあるサウンドである。後年のギブソン社のハムバッカーに比べるとノイズを拾いやすいという欠点はあるが、硬質ではっきりとした音が出せる。(音が硬質なのは60年代以降の傾向で、50年代のオールドはレス・ポールのような太い音がするという意見もある。) ストラトキャスター・ジャズマスターなど、トレモロユニットを装着した後年のフェンダー社のギターに較べ、テレキャスターはよりガッツのある、独特のアタックを持つ。ハードなコードストロークに応える力強さを備え、ソリッドボディ・エレクトリック・ギターの中では最もアコースティック・ギターに近いキャラクターであるとも言える(ピエゾピックアップを搭載した楽器はその限りではない)。
フロントPUは当時発売されていなかったエレクトリックベース代わりとしても使用できるように開発したらしく(ジャズミュージシャンに人気のあったギブソンのような音を狙った説もある)、若干パワー不足でキャラクターがはっきりしないと感じる者もおり、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズやポリスのアンディ・サマーズなど、フロントをハムバッカーに交換してしまうギタリストも見受けられる(テレキャスターの回路は時期によって変遷があり、全てのテレキャスターのフロントピックアップがこの傾向ではない。またキース・リチャーズはフロントPUを使用しないのでフロントPUがハムバッカーなのはサウンドによる理由からではないと思われる)。因みに後にフロントにハムバッカーを搭載したテレキャスターカスタムが発売された。
フェンダーオリジナルのハムバッカーを搭載したシンラインやデラックスといった派生機種も、ギブソン社のそれとは異なる独特な音色が支持されている。
[編集] 使用ミュージシャン
マディ・ウォーターズ、スティーヴ・クロッパー、ジェームス・バートン、キース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、マイク・スターン、ノーキー・エドワース、ジョー・ストラマー、ジョン・フルシアンテ、ブルース・スプリングスティーン、アンディ・サマーズ、クリッシー・ハインド、トム・ヨーク、エド・オブライアン、ジョニー・グリーンウッドジョージ・ハリスン(1969年のビートルズの屋上ライヴでオールローズモデルを使用)、ボブ・ディラン、リッチー・コッツェンなど、テレキャスターを使用するアーティストは枚挙にいとまがない。本来のターゲットであったカントリー系はもちろん、ロック、ブルースからジャズに至るまで、広い層のミュージシャンに愛されている。
日本でも徳武弘文、吉田拓郎、布袋寅泰、桜井和寿(Mr.Children)、山下達郎、桑田佳祐(サザンオールスターズ)、向井秀徳(ZAZEN BOYS)、新藤晴一(ポルノグラフィティ)、岡本仁志(GARNET CROW)、YUI、矢井田瞳など数多い。ヴォーカリストが弾くギターとして選ばれることが多いのも、テレキャスターの特徴のひとつである。