セルモーター
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セルモーターは、自動車やオートバイ、非常用発電機などで使われているエンジンを始動させるためのモーター(電動機)である。
セルモーター (cell motor) とは和製英語であるが、その語源はバッテリー(電池)を意味するセル (cell) に由来するという説と、セルフスターターモーター (self starter motor) の略であるという説がある。 このほか、スターターモーター、あるいは単にスターターともいう。
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[編集] 概要
セルモーターは、停止状態にあるエンジンを回転させて始動させる電動機である。 バッテリーから供給される直流電力によって動作する電磁石界磁形整流子電動機で、多くは直巻、少数ながら複巻がある。
セルモーターはイグニッションキーを回すことで、バッテリー(鉛蓄電池)に蓄えられた電気を電源として回転する。 セルモーターの回転速度はおおむね 50 rpm から 200 rpm 程度。 停止した状態にあるエンジンを回転させるだけの強力なトルクを発生する一方で動作時間は短く、日本工業規格 (JIS) においても連続30秒間とされている。 冬期においては低温によるエンジンオイル粘度の上昇やバッテリーの性能低下により、セルモーターの負担は夏期に比べ上昇する。
セルモーターが発生した回転は、ギアを通じてエンジンに伝達される。 エンジンのクランクシャフトにはリングギアという大歯車があり、これにセルモーターのピニオンギアをかみ合わせている。 このピニオンギアは電磁力によって伸縮し、エンジン始動時のみリングギアにかみ合うようになっている。
エンジンが始動した瞬間には、逆にエンジンの回転力がセルモーターに伝達されることになる。 これはセルモーターのピニオンギアが高速で回転するということであり、セルモーターにはこの高速回転から保護するためのクラッチや減速ギアが装備されている。
スターターモーターは、エンジンが一旦始動したら用は無くなり走行中は死重 (dead weight)となる。このためF1など純粋な競技用車両ではエンジン始動には外部から圧縮空気をシリンダ内の送り込むことでこれを置き換え、モーターは装備していない。
[編集] 緊急発進
万一、踏切など速やかに通過しなければならない場面においてエンジンが停止し再始動できない場合、マニュアルトランスミッション車であれば、以下の手順でセルモーターを回転させることにより、自動車を発進させることが可能である。
- 前進する場合はロー(一速)もしくはセカンド(二速)、後退する場合はバック (R) にギアを入れる。
- クラッチペダルから足を離す。
- セルモーターを回転させる。
この方法はオートマチックトランスミッション車はもちろん、マニュアル車でも「クラッチ・スタートシステム」と呼ばれる安全装置を装備し、クラッチペダルを踏んでいなければエンジンを始動させることができないものは不可能である。 なお、この安全装置は日本で現在製造されている四輪マニュアル車すべてに装備されている。
これはあくまでも緊急的措置であり、セルモーターに過度の負担が加わることになるので故障や発火・火災の危険がある。
[編集] はじまり
セルモーター(セルフスターター)のない時代は車両前方につきだしたクランク棒を回転させてエンジン始動をおこなっていた。これは大人の男でも大変な力仕事だった。欧米では運転手は専属ドライバーというのも多かったためクランク棒をまわすのも運転技術の一つであった。平等の国米国では、自身がドライバーであることが多く、また女性ドライバーも当初より存在し自身でも運転したため特に大変だったという。クランク棒の回転に失敗した場合、エンジンの爆発がクランク棒を逆回転させ、腕を骨折するものも多かった。
最初の電気式セルフスターターは1903年の米国で、クライド・J・コールマンというニューヨーク市の発明家が自動車用電気式スターターとして米国特許(番号745,157)を取得したが実用的ではなかった。
友人がクランク棒の逆回転でアゴを打たれ死に至ったデルコ創業者のチャールズ・ケタリングが、1910年、コールマンの特許を購入し1911年、ゼネラル・モーターズ(GM)のキャディラックでのテストを繰り返し実用的なものに改良した。1912年には市販車のキャディラックに搭載された。このときのスターターモーターは、エンジン始動後は発電機として動作した。現在、ハイブリッド車でこのコンセプトが再び使われている。1920年の米国では、ほとんどすべての自動車がセルフスターターを装備することとなった。デルコ社はのちの1920年にゼネラル・モーターズの研究部門(子会社)となり、チャールズ・ケタリングは研究部門の副社長として研究をつづけた。