シャドウラン
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シャドウラン (Shadowrun) はアメリカ合衆国のアナログゲーム・レーベル、FASAコーポレーションが1989年に発表したテーブルトークRPGシステムの1つ。現在はWizKids社が権利を保有し、FanPro LLC社がライセンスを取得して第4版を展開中。 日本では1994年に富士見書房が2nd Editionを翻訳出版している。
シェアード・ワールド化され、アメリカでは数多くの小説やゲームが作られており、日本でも一部展開された。
「シャドウラン」とは、非合法(少なくとも合法とは断言できないような)一連の活動を意味し、報酬と引き換えにこういった「仕事」(ラン)を実行する者達を、シャドウ・ランナー (Shadowrunner) と呼ぶ。
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[編集] 舞台
舞台は、21世紀半ばの地球。第1版では2050年で、それ以降は基本的には現実世界と並行して時代が経過していたが、第4版で2070年に早送り。 基本ルールにおいては、米国版はシアトル、日本語版は東京を主な舞台とする。
そこは、高度な科学技術と魔法が同居する世界である。
マヤ族の暦(約五千年ごとに世界が新しいステージに入る)に従い、2011年12月24日より、新たなサイクル「第六世界」が始まったとされる。
サイバーパンクSF、特にウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』を基調とする虚構世界にJ・R・R・トールキンの『指輪物語』に登場するような生物を混交させるという、既存のあらゆるジャンルのエンターテイメント作品群と比較しても十分に前衛的と言える舞台設定を特徴とする。エルフ・ドワーフ・オーク・トロールといったファンタジーの住人を近未来世界に落としこむ、という発想そのものは荒唐無稽であるが、それにより1980年代アメリカの様々な社会問題を投影させ、またその投影方法を仔細に渡り検討したことによって、辛うじてフィクションとしての優れたリアリティを提示することに成功した。その後は、大量の世界設定やアースドーン(FASAコーポレーションがかつて展開していたファンタジーTRPG)とのリンク付け、「バグ・シティ」事件や大統領選挙などの大イベントを通じて、独自の世界を構築していっている。
ゲームの参加者は、非合法活動の請負人“シャドウランナー”の役割を演じ、フィルム・ノワールに代表されるような複雑で混沌とした社会関係の再現を、あるいはアクション映画のような激しい銃撃戦闘のシミュレーション・ゲーム的な再現を遊ぶことになる。
[編集] ゲームシステム
ゲームシステムは、特定の技能値・能力値の数だけの6面体のサイコロを振って、目標値以上の目が出た数を「成功」とし、その成功数の多寡によって詳細な結果を計算するというもの。目標値の計算に関してはややウォー・シミュレーションゲーム的な煩雑さを孕んでいることは否めないが、振ったサイコロの数の多さに比べてその後の四則演算の手間が掛からない、すっきりした基本構成のシステムには定評がある。
制作元のFASAコーポレーションが倒産してからも、アメリカのWizkids社(権利保有者)とFanPro LLC社(ライセンス保有者)によって展開が引き継がれ、第3版以降の製品がその2社の名義で出版されている。
日本では第2版に当たるシャドウラン日本語版が1994年富士見書房より刊行され、グループSNEによるリプレイ、サプリメント、小説などのサポートが行われたが、現在は行われていない。日本語版の責任者はグループSNEの江川晃。
[編集] シャドウランニング
[編集] 典型的なラン
具体的な「シャドウラン」の仕事内容は、以下のように分類されている。
(各仕事の詳細はShadowrun Companion(3rd Edition 対応)p.100-102 "ARCHETYPAL ADVENTURE PLOTS"を参照のこと)
- 暗殺 assassination
- 恐喝 blackmail
- ボディガード bodyguard
- 突貫と抽出(誘拐を含む) Breaking & Extraction(include kidnapping)
- 運輸・密輸 courier / sumuggling
- データ奪取 datasteal
- 陽動 destraction
- 破壊工作 destraction
- 暗号化・暗号解読 encryption / decryption
- 特使 enforcement
- ハッキング hacking
- 詐欺・偽造 hoax / counterfeit
- 調査 investigation
- 物品設置 plant
- 物品強奪 retrieval of object
- 警護 security
- 追撃と逃走 tailchaser
- 戦争 war
- 狩猟・捕縛 wild things
実際の任務遂行においては、しばしばこれらの仕事が複雑に絡み合っており、そういった困難かつ予測不可能な任務全体を確実に解決できるだけの能力とプロ意識までをも求められるのがシャドウランナーという職業である(ただし、全てのシャドウランナーがその要求を確実に実現できるわけではない。チンピラ同然のシャドウランナーもいないわけではないので注意されたし)
[編集] ランの依頼元と報酬について
シャドウランを依頼するのは、ミスター・ジョンソン Mr.Johnsonという偽名の企業工作員である場合がほとんどである。複合企業体が過度に発達した第六世界では、大企業同士のシェア争いがプロの工作員同士の暗闘によって解決されるほどに暴力化している。そのような時勢にあって、「足が付かず、個人識別用のIDを持たない(System Identification Numberless;abbr.SINless)、いついかなる時でも否認可能な人材 Deniable Assetを起用することで、大企業はメディアや政府に攻撃されることなく、その勢力を確実に伸張させることができる。その否認可能な人材こそが、シャドウランナー達であるというわけである。ただし、企業だけがシャドウランナーの能力を独占しているわけではなく、犯罪組織や特定の団体・組織(営利/非営利問わず)、その他ある程度の資産を持った個人がシャドウランを依頼することも少なくない。
シャドウランナーに対する報酬は通常、現代の電子マネーに当たるクレッド・スティックによって支払われる(現金の文化はほとんど廃れ、闇社会以外では流通していない)。クレッドスティックにはIDや個人照合用の様々な機能が付随しているが、SINlessであるランナーに対して支払われるのは、“支払い保証済み”のクレッド・スティックである。サイン未記入の小切手のようなものだと考えれば良いだろう。
[編集] サイバーウェア
ランナーたちはさまざまなサイバーウェアを肉体に埋め込むことで体を強化している。
サイバーウェアには、肉体的強化を目的としたものだけではなく、様々な知識・技能のソウトウェアを脳にインストールするためのもの、マトリックス空間(コンピュータ・ネットワーク内の仮想空間)にダイブするためのデータジャックなど様々な種類がある。
[編集] 魔法
シャドウランの舞台となる「第六世界」において、魔力の根源は、マヤ暦における「第六世界」の到来によって増大したマナによるものであると説明される。確実な観測的事実があるわけではないが、幾つかの符号的事実によって、そのような定説が流布している。魔法の登場は、従来の科学技術では説明の付かないものであったが、ゲームのメイン舞台となる2050~60年代では、世界中の有名大学に魔法学・呪術祭祀研究科等が設置され、広くアートの一分野として、理論・実用の両面において研究が進められている。
魔法には、おおまかに以下のような能力がある。
- 魔術行使 sorcery
- 使役精霊の召喚 conjuring
- 呪物・使い魔の練成 enchanting
- 魔法的異次元の知覚 astral perception(abbr.assense)
- 魔法的異次元への精神体投射 astral projection
- 魔法的異次元からの招魂と憑依 possession
以上がシャドウランにおける「魔法」にあたる。魔力の才能または流派の違いにより、具体的な魔法能力の顕れは人によってまちまちである。ちなみにこれらの魔法の考え方は、文化人類学の呪術研究や現代オカルティズムの語彙に多く依存している。
上に記した「魔法的異次元」のことを、オカルト用語にちなんで「アストラル空間」と呼ぶ。これは厳密にはエーテル空間 Ethelic Plane と、それより高次なメタプレーン Metaplane に分かれる。一般にアストラル空間と言う場合、それはエーテル空間のことを指示する場合がほとんどである。
魔法の行使スタイルによって、魔法使いは幾つかの種類に分けられている。普遍的な理論体系とイメージ操作に基づいて魔法を使う「メイジ」、自然の大いなる意志に従って魔法を行使する「シャーマン」、使用できる魔法が制限されている「アデプト」が基本となる。日本オリジナルの魔法キャラクターとして、さらに巫女と陰陽師の2種類がいる。また原書の展開においては、さらにハイチのブードゥー魔術やケルトのドルイド魔術、エルフ独自の魔術である「パス・マジック」、東洋的メイジとして新たに登場した「五行魔術師 Wujen」、ドイツの魔女など、世界中の民族文化や伝説にまつわる魔術の拡張ルールも数多く紹介されている。
第六世界では、魔法の力を持たない者を、蔑視の意味を込めて「マンディン mundane」と呼ぶ。これはニュアンスとしては小説『ハリー・ポッター』シリーズにおけるマグル(非魔法能力者)に酷似している。
人間に備わる魔法の力は、義体技術やサイバーウェアと非常に相性が悪い。魔法使いがサイバーウェアを埋め込むと、「エッセンス」と呼ばれる根源的エネルギーが減少し、それと共に魔力も減少する。一定数魔力を削った者は、特別な魔術的制約を負うと誓わない限り「燃え尽きた Burned out」とされ、「上級魔法使い Initiated Magician」への道を永遠に閉ざされることとなる。
ハイテクと魔法の共存という奇抜なアイディアをゲーム的仕掛けとして昇華しようとする試みが舞台設定の随所に見られるが、これがその好例であると言える。
[編集] シャドウラン舞台の時系列
- 1999年 - セレテック社判決。企業の軍事武装が認められる。
- 2001年 - シアワセ社判決。多国籍企業の治外法権が認められる。
- 2005年 - ニューヨーク大震災。死者20万人。
- 2006年 - 第2次朝鮮戦争。日本複合企業連合が朝鮮共和国に進軍、制圧、日本帝国の成立を宣言。
- 2009年 - ローン・イーグル事件。ユナイテッド・オイルがインディアン居住地を強制的に徴収、それに対し、アメリカンインディアン主権運動はこの軍事施設を制圧した。
- 2010年 - VTAS流行。VITASと呼ばれる病症が世界中で拡大、世界人口の4分の1が失われる。
- 2010年 - 千葉県に本拠を持つヤクザ・ワタダ連合の親分がシアトルマフィアの長となる。
- 2011年 - UGE発現。世界中でエルフやドワーフといった、取替え子が生まれ始める。
- 2011年12月24日 - 世界の覚醒、第六世界の到来。富士山にドラゴンであるリュウミョウが出現、預言者ダニエル・コヨーテがアビリーン再教育センターから脱出、魔法が世界に回帰する。
- 2014年 - NAN成立。ダニエル・コヨーテがアメリカ先住民部族諸国(NAN)の成立を宣言。
- 2015年 - 結社アズトランのフランシスコ・パボンがメキシコ大統領となり、メキシコはアズトランとなる。香港が中国からの独立を宣言。
- 2016年 - インディアン問題。ダニエル・コヨーテがアメリカに宣戦布告、ギャレット大統領が暗殺される。アレス社がNASAを買収。
- 2017年 - 大いなる交霊の舞。アズトランおよびアメリカ、カナダにある幾つかの火山が一斉噴火、ダニエル・コヨーテが魔法による噴火を声明する。
- 2018年 - デンバー条約。アズトラン、アメリカ、カナダの3国はNANとの条約と締結、主権を認める。
- 2021年4月30日 - ゴブリン化の発露。突如世界中の10%の人々が、オークやトロール、ドワーフといった人間型生物への突然変異が発生するようになる。日本帝国がフィリピンのヨミ島を制圧。カリブ諸国が連合を結成。
- 2022年 - VISTA再流行。世界人口の10分の1が失われる。
- 2023年 - 人間型生物の人権が認められる。
- 2025年 - ローン・スター・セキュリティー・サービス社がシアトルにおける司法活動権を得る。
- 2028年 - ロサンゼルス大震災。
- 2029年 - コンピュータ・クラッシュ。世界規模でコンピュータ・ウイルスによるシステム障害が発生、世界中のネットワークは崩壊する。
- 2030年 - UCAS建国。アメリカとカナダは合併し、カナダ・アメリカ合衆国(USCA)となる。
- 2031年 - ユーロ戦争。ヨーロッパ諸国とソビエト連合間での戦争が勃発する。
- 2033年 - ナイトレス空爆。所属不明の爆撃機ナイトレスにより、NATOおよびソビエト連合両陣営が爆撃される。これによりユーロ戦争は終結。
- 2034年 - アマゾニア建国、マトリックスの構築。コンピュータ・クラッシュの沈静後、ネットワークシステムであるマトリックスが構築される。
- 2035年 - アズトランがサンディエゴに侵攻。日本帝国がサンフランシスコを植民地化。フチ社が第三世代サイバーデッキを発売。
- 2039年 - 憤怒の夜。人間による人間型生物に対する排斥運動が活発化、憤怒の夜と呼ばれる暴動にまで発展する。これにより、多くの死傷者が発生する。
- 2041年 - ユーロエア墜落。憤怒の夜の報復として、ドラゴンによりユーロエアが攻撃され、墜落する。ヨーロッパ回帰運動が活性化する。
- 2045年 - ドイツ連合の成立。
- 2050年 - 第7世代のサイバーデッキが開発・発売。
- 2052年 - バイオウェアが市場発売。
[編集] デザイナー情報
初版のメインデザイナーはポール・ヒューム、ボブ・キャレット、トム・ダウドの3名。
第2版のデザイン及びディベロップメントはトム・ダウド。
第3版のデザインはマイケル・マルヴィヒルとロバート・ボイルが担当している。
日本語版サプリメントのデザインは江川晃。
[編集] シャドウランの販売展開履歴
- 1989年 アメリカで初版刊行
- 1992年 アメリカで第2版刊行
- 1993年 日本で月刊ドラゴンマガジン誌ではじめて紹介記事が書かれる
- 1994年 日本で第2版の邦訳(富士見書房版)刊行
- 1994年 『シャドウラン』(スーパーファミコン用ソフト、データイースト&FASA) 販売
- 1996年 『シャドウラン』(メガCD用ソフト、コンパイル&SNE)販売
- 1997年 日本語版のサポートが終了
- 1998年 アメリカで第3版刊行
- 2001年 FASAコーポレーション倒産,Wizkids社がFASA社の版権を買収
- 2003年 Topps社がWizkids社を買収
- 2005年 第4版展開が8月に開始(予定)
- 2007年 春より第4版の日本語版がアークライト/新紀元社にて展開(予定)
[編集] 日本における展開
[編集] ルール
- 『シャドウラン ルールブック』(ジョーダン・ワイズマン著、江川晃訳、富士見書房)
- 『TOKYOソースブック シャドウラン・ソースブック』(江川晃、グループSNE著、富士見書房)
- 『TOKYO EYE-SHOT』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
- 『シャドウランがよくわかる本』(村川忍、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
[編集] シナリオ、リプレイ
- 『裏切りの構図 シャドウランシナリオ集』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
- 『失墜の魔術師 シャドウランリプレイ集1』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
- 『悪夢の刻印 シャドウランリプレイ集2』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
- 『影への助走 シャドウランリプレイ集3』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
- 『侵蝕の魔手 シャドウランリプレイ集4 』(江川晃、グループSNE著、富士見ドラゴンブック)
[編集] 小説、漫画、ゲーム
- 『漆黒の戦鬼 シャドウラン・ノベル First Run』(江川晃、富士見ファンタジア文庫)
- 『シャドウラン』全五巻(斉木一馬、富士見ドラゴンコミックス)
- 『シャドウラン』(スーパーファミコン用ソフト、データイースト&FASA)
- 『シャドウラン』(メガCD用ソフト、コンパイル&SNE)