イルカ
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イルカ | ||||||||||||
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船首波を跳ぶカマイルカ |
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分類 | ||||||||||||
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科 | ||||||||||||
イルカ(海豚)は、哺乳綱クジラ目ハクジラ亜目に属する水生動物のうち、比較的小型の種類を呼ぶ通称名である。
生物分類上は、イルカとクジラは同じクジラ目に属する。実際、かなりの部分で生態も似通っているが、世界的にみても日常語レベルでは両者は別の生き物として認識され、別の通称名がついていることが多い。日本語では、成体の体長が4m前後以下の比較的小型のハクジラ亜目に属する種類をイルカと呼び、一方、比較的大きなハクジラ亜目およびヒゲクジラ亜目に属する種類をクジラと呼ぶことが多い。しかしながら例えばシロイルカ(ベルーガ)の成体は5mに達するにもかかわらず「イルカ」という呼び名がついていることからもわかるように、イルカとクジラの区別は日本語では厳密なものではない。
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[編集] 生態について
多くは海に生息するが、カワイルカ類のように淡水である川に生息する種類や、淡水と汽水域を行き来する種類もいる。
両顎に歯があり、人間と同じような眼球が両側面についている。 頭頂部に呼吸のための独立した噴気孔をもち、そこから肺呼吸する。呼吸の周期はおよそ40秒である。 イルカは一度も泳ぐのをやめず息継ぎもきちんとしながら常に泳ぎ続けている事から、かつてはイルカは全く眠らないのではないかと言われていた。しかし、イルカは右の脳と左の脳を交互に眠らせる事ができる特殊な能力があることが分かってきており、眠らないという説は現在ではあまり有力ではない。目をつむってから息をするまでの約一分間×300回~400回が一日の睡眠時間であり、一定方向に回転しながら眠ることが知られている。この回転方向は北半球のイルカは反時計回り、南半球のイルカは時計回りに回ると報告されている。ちなみに、右の脳が眠っている時は反対の左目を、逆に左の脳が眠っているときは右目をつむりながら泳ぐ。
体形は紡錘状で、背に鎌形あるいは三角形の背びれを有する種類が多いが、背びれがほとんどない種類もいる。 前足に相当する部分に胸びれがあり、後ろ足は退化してわずかに骨のカケラとして体内に残る。 尾側の最後部に尾びれを有し、尾びれを上下に動かして泳ぐ。
メスとオスに分かれ、生殖行為を通して一定期間妊娠の後に出産する。 誕生からしばらくの間は母親の母乳によって育てられる。
多くは魚類や頭足類などを捕食する肉食である。また、水分はあくまでも食料の魚類などから摂取する。水分として直接摂取するほか、脂肪を体内燃焼したときに生じる代謝水もある。海水からは摂取する割合はごく少量であり、意図的に摂取しているのではないと考えられている。
単独で行動するケースも見受けられるが、複数匹で群をなして行動することが多い。 また複数の実験・観察結果を通して、噴気孔付近から出すクリック音を使って同種の個体同志でコミュニケーションする可能性が指摘されている。 全般的に好奇心旺盛で人なつっこく、船に沿って泳いだりしてその姿を人間に見せることが多い。このような性格を興行やアニマルセラピーとして利用している。
しかし、上記のような平和的な印象の反面、野性のイルカでは子殺し(メスと交尾するのに邪魔となる仔イルカをオスが排除する)が確認されており、水族館では人間に攻撃する個体もいる。
より小型の種のイルカを襲うことも知られている。たとえばマレー湾では、ハンドウイルカの群が、自分たちよりもサイズの小さなネズミイルカを集団で追いつめてその歯で傷つけた挙げ句に殺してしまうといった行動がしばしば目撃されている。
同種の群れの中でも、いじめが行われることも多い。他の動物が行うような、争いという質のもの以外に、嫌がらせのような比較的小規模な攻撃を頻繁に繰り返すことにより、精神的な攻撃を行う場合もある。そのような攻撃を受けたことが原因で胃潰瘍を患うこともある。飼育環境では、そのような争いを人間に見せる行動も確認されており、上下関係を誇示する行動と考えられている。
イルカと一緒に泳いだ観光客が噛まれることも多い。また水族館で飼育されているイルカがトレーナーや観客を噛むこともある。これは手が使えないために口を使って物を掴む延長上の行動であり、多くの場合は攻撃的な意図は無い。しかし、力も体も人間の数倍あり、若い個体では歯も鋭い場合が多く危険である。
[編集] イルカの知性について
イルカの知性はその潜在的可能性が古くから指摘され、世界的にも数多くの研究者の研究対象になり、世間一般からも興味の対象とされている。高い周波数をもったパルス音を発して、物体に反射した音からその物体の特徴を知る能力を持つ。更にその特徴を他の個体にパルス音で伝えたりとコミュニケーション能力が高い。このことから、人間とは違った世界観を所有していると考える科学者もいる。
SF作品では、しばしばイルカが人間と同様の知性を持つ、あるいは人間以上の知性をもった存在として描かれることがある(実際には科学的根拠はない、優劣は別にしても人間と同質で語る知性でない為である)。
[編集] イルカの利用について
[編集] 海洋資源として
クジラが日本を含む海産国の間では貴重な資源として骨の髄まで使い尽くされるのと違い、イルカを中心にした産業が成立しているケースは世界的に見ても少なく、ごくわずかに南太平洋の島国や日本の一部の地域で肉が食用に供されているに過ぎない。日本の場合、比較的イルカがよく観察されるところでは食用にする習慣が残っているところもあり、各都道府県知事許可漁業の「いるか突き棒漁業」として認可を受けて操業しているところもある(突き棒漁業とは銛を打ち込んで漁獲する漁法である)。例えば静岡県東部や和歌山ではこうした漁法でしとめたイルカの肉を町中の魚屋やスーパーマーケットなどで日常的に売っている。ただしイルカの肉が食用として売られていること自体知らない日本人も多い。一般的には肉を削ぎ切りにし、醤油味醂砂糖で作ったタレに漬けてゴマをふり天日に干したものを焼いて食べる。肉と脂皮の角切りが一緒にパックされていることも多い。煮物にする場合は牛蒡とにんじん、大根ともに味噌煮にすることが多い。また動物性油を天ぷら油として使用する一部の地域では、豚の脂身の代わりにイルカの脂肪の油を使用することもあるようである。ただし日本全国の傾向としてはイルカの肉を食べることには積極的ではない。食用として敬遠されているのは、平和的な動物であるという認識が広まりつつあること以外に、もともとイルカの肉はクジラの肉と違って固くて調理がしづらく味が苦いのと、酸化が早くて管理が難しく、なおかつ血管の走り方が独特なため寄生虫の心配が多いからというのが主たる理由のようである。しかし近年になってクジラの捕獲量に制限が加えられ、流通に支障が出てくるようになると、クジラの肉と称してイルカの肉が食用市場に出回るケースもあるようである(歯クジラでも、大きさによりクジラと分類されるゴンドウクジラなどの肉は、元々クジラとして流通していた)。イルカの漁獲量は一般の漁業と異なり、重量ではなく頭数管理とされており、漁獲したイルカについては全てDNA登録を義務付けられている。
なお日本の厚生労働省は、2005年8月、イルカやクジラ類の肉には、マグロなどの魚介類よりも遙かに高濃度のメチル水銀などの人体に有害な有機水銀類が、大量に濃縮されている可能性があるとして、主に妊娠時の女性に対して摂取を控えるように警告した。少なくとも5年前には同種のデータを把握していたが、他省庁との関係で大々的に公表していなかったのである。
[編集] その他
バンドウイルカなど一部のイルカは水族館において展示飼育されることも多い。訓練された曲芸(海面上へのジャンプや立ち泳ぎ等)によるショーなどに使用されることも少なくない。また、動物療法(アニマルセラピー)として、イルカと触れ合うことで心が休まることなど、精神的な病状への治療も試みられている。船でイルカと併走しながら泳ぐ様を観賞するドルフィンウォッチング(ホエールウォッチング)が開催されている。
アメリカ合衆国海軍においては動物兵器(軍用イルカ)として、機雷の探知、ダイバー救助などに利用されている。米海軍が日本の漁港からハナゴンドウを買った事もある。
[編集] 主な種類
以下に現在確認・分類されているイルカの名称をあげるが、なかには身体全体が一度としてまともに発見されていない種もいることから、将来的に新しい種が発見されたり、分類学上の基準が変わったりして、1つの種が複数の種に分かれたり、逆に複数の種が1つに統合されたりする可能性があることには留意されたい。また上述の通り日本語でのクジラとイルカの線引きは曖昧な点もあるため、ここでは生物分類の科名としてイルカという語が含まれる種類(2科1上科)をイルカとして挙げている。
[編集] 参考文献
- 「クジラ・イルカ ハンドブック」S・レザーウッド/R・リーヴス著……この項のイルカの分類と名称は完全にこの書に負っている。
- 雑誌「GEO」1998年5月号、同朋舎刊……特集記事「イルカ大百科」のなかで、マレー湾でのハンドウイルカたちによるネズミイルカの殺害のエピソードが載っている。