アブ
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アブ(虻)は、双翅目(ハエ目)に属する昆虫のうちの一部のものの総称。名前にハエと付くアブの仲間がある一方、アブの仲間でないのに名前にアブと付くものもあるので注意が必要である。
- 狭義(アブ科)と広義(直縫短角群)-
- 1. 狭義には、双翅目(ハエ目)アブ科に属する昆虫を指す。ウシアブやイヨシロオビアブ(地方名:オロロ,ウルリ)など吸血性の害虫として知られるものが多い。詳細は→アブ科を参照。
- 2. 広義には、双翅目(ハエ目)に属する昆虫のうち、短角亜目・直縫短角群(Orthorrhapha)に属する昆虫の総称。これをより解りやすく言えば、触角が比較的短い仲間(短角亜目)のうち羽化の際に蛹の背中が縦に割れるグループのことである。蛹の"縫い目"が真っ直ぐであるとの意味で「直縫短角群」あるいは「直縫群」として、前方が円形に開く環縫短角群と区別される。1.のアブ科のほか、ムシヒキアブ科、ツリアブ科、ナガレアブ科、ミズアブ科など多様な科が含まれる。また、名前に~アブと付かずに~ハエと付くオドリバエ科やアシナガバエ科などもこのグループに入り、系統的にはこれらもアブの仲間である。
- ハエという名のアブ、アブという名のハエ-
上述のオドリバエ科などとは逆に、ハナアブ科やアタマアブ科など、「~アブ」と付きながらアブの仲間ではなく、ハエ(環縫短角群)の仲間に入るものがある。このようなわかりにくい「アブ」と「ハエ」の交錯は、そもそも虻や蝿という語には厳密な分類の概念などなく、単に見た目の感じで使い分けられてきたものであることと、そんな見た目の感じと実際の系統とが必ずしも一致しない場合があることに起因している。
一般に「~アブ」と名の付くものを見れば、「どこかしらハチに似た風貌を持つハエ目の昆虫」を指して「アブ」と呼んでいるらしいことがわかる。そしてそれらの多くが直縫短角群に属しているため、この群のものをまとめて広義でアブと呼ぶのである。具体的には、ツリアブ科には丸々としたハナバチ類に非常によく似たものがあり、逆にほっそりとしてヒメバチにそっくりなものもある。やはり広義のアブであるムシヒキアブ科にも同様にハナバチやヒメバチの擬態と思われる例が見られる。
ところが、これと同様の現象がハエ(環縫短角群)であるハナアブ科にも見られ、その多くがミツバチ他のハナバチ類に擬態すると同時に、一部の種群はヒメバチに似た細身となっている。ハエでありながら「ハナアブ」という名が付いたのは、このようなハチに似た(あるいは広義のアブに似たとも言えるが)外見からである。ハナアブが系統的にはハエの仲間であることを示すため、例えば「シマハナアブ」「オオハナアブ」を、「シマハナアブバエ」や「オオハナアブバエ」として、最後にやや強引に「ハエ」を付した図鑑も過去にあったが、結局はこれらの和名は定着しなかった。
逆に、系統上では広義のアブであるにもかかわらず、オドリバエ科やアシナガバエ科が「ハエ」と名が付いたのは、彼らがあまりハチに似ておらず「ハエのような外見」だからである。「ハエのような外見」とは、それらの名が付いた昆虫を見れば、「体が比較的が短く、あまりハチに似ていないハエ目の昆虫」のことを言うらしいことがわかる。そのため細長いものが多いカやガガンボの仲間(ハエ目・長角亜目)であっても、あまり細くない体をしているものにはチョウバエなどの和名があり、これもカの仲間であることを示すため「~チョウカ」の和名で掲載した図鑑もあったが、「~アブバエ」と同様に定着はしなかった。