白血病
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
白血病(はっけつびょう、leukemia)
医学的には、腫瘍化した造血細胞が無制限に増殖して血液中に出現する疾患の総称である。白血球系の細胞の腫瘍であることが多いため白血病と呼ばれるが、実際には赤血球系や血小板系の細胞が腫瘍化したものもあり、これらも白血病と呼ばれる。
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
目次 |
[編集] 概要
血液中の白血球の一群が、異常に増殖し血液内で増加する疾患。白血球の数が増えるだけでなく、増加した白血球は通常とは形態が異なったものとなる。ただし例外的に形態のみに異常が見られ数は減少することもある。一般的には「白血球のがん」、もしくは「血液のがん」という広い意味合いで使われている。多くのがんが中高年に多発するのに対し、白血病は乳児から高齢者まで広く発生する。血液が生成される骨髄に病変の主座があり、固形の腫瘍を形成しないため外科手術の適応ではない。以前は治療が困難であったため、不治の病とのイメージを持たれてきた。しかし、1980年代以降、化学療法や末梢血造血幹細胞移植療法(peripheral blood stem cell transplantation; PBSCT)、骨髄移植(bone marrow transplantation; BMT)や臍帯血移植)の進歩にともない、治療成績は改善されつつある。
悪性リンパ腫や骨髄異形成症候群といった類縁疾患は、腫瘍細胞が血中には通常みられないため白血病には含まれないが、これらも進行すると血液中にも腫瘍細胞が出現することもある。このことを白血化と呼ぶ。逆に、白血病のなかでも成人T細胞白血病・リンパ腫 (Adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL) のように、病態によっては血液中に腫瘍細胞の出現しないものもある。
[編集] 症状
白血病細胞が増加し、正常な血球が減少するため、白血球減少に伴う感染症(発熱)、赤血球減少(貧血)に伴う症状(倦怠感、動悸、めまい)、血小板減少に伴う出血症状(歯肉の腫脹や歯肉出血など)により判明することが多い。
[編集] 血の色
白血球は透明な細胞なので、白血球が増える白血病であっても血は白くはならない。また同様に、赤白血病(FAB分類M6)も血がピンクになる訳ではない。一方、家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症では血の中に脂肪が溜まり血が乳白色となるが、これは白血病とは呼ばない。
[編集] 原因
原因は明らかでないものが多いが、多くの白血病細胞では染色体の欠損や転座が認められ、自律増殖能の獲得との関連が示されている。
放射線被曝、ベンゼンなど一部の化学物質などは発症のリスクファクターとなる。その他にウイルスが原因であるものが知られている。ひとつはエプスタイン・バール・ウイルス (EBV) が関わっている急性リンパ性白血病バーキット型(FAB分類ALL L3)である。もうひとつは日本で同定された成人T細胞性白血病で、レトロウイルスのひとつ HTLV-I の感染が原因であることが明らかになっている。
[編集] 分類
白血病における急性、慢性は一般的に用いる意味とは違っている。腫瘍細胞が分化能を失ったものを急性白血病、分化能を保っているものを慢性白血病と呼ぶ。
また、腫瘍の起源となった細胞が骨髄系の細胞かリンパ球系の細胞かによって骨髄性白血病、リンパ性白血病に分類する。このことから大きく以下の4種類に分類される。
- 急性骨髄性白血病 (acute myelogenous leukemia; AML)
- 慢性骨髄性白血病 (chronic myelogenous leukemia; CML)
- フィラデルフィア染色体と呼ばれる9番と22番の染色体長腕間の相互転座により、9番上のabl遺伝子が22番上のbcr遺伝子領域へ転座しbcr/abl融合遺伝子が形成される。この転座はt(9;22)(q34;q11)と略して表記する。この翻訳産物であるBCR/ABL蛋白は正常ABL蛋白よりも高いチロシンキナーゼ活性を持つ。このチロシンキナーゼ阻害剤がイマチニブである。
- 急性リンパ性白血病 (acute lymphoid leukemia; ALL)
- 慢性リンパ性白血病 (chronic lymphoid leukemia; CLL)
これらはさらに生物学的な性質から細分される。しかし、慢性骨髄性白血病だけはほぼ単一の疾患概念となっている(原因となる染色体異常がフィラデルフィア染色体(Ph1)以外にはほとんどない)。
細かい分類法はいまだに研究途上だがFAB分類が広く利用され、特に急性骨髄性白血病の診療において威力を発揮している。
[編集] 代表的染色体異常
白血病では腫瘍性血液細胞に染色体異常が存在することが多い。これらは染色体異常の血液疾患における代表的染色体異常の項に纏まっているので参考にしてほしい。
[編集] 治療法
- 化学療法
- 造血幹細胞移植
- 骨髄移植
- 臍帯血移植
- 末梢血幹細胞移植
- ミニ移植
- 分化誘導療法
[編集] 予後
白血病の場合、治療により症状が改善しても、腫瘍がすべて消失したことを確認できるわけではないため、治癒とは呼ばず寛解と表現する。造血細胞が正常に分化し、白血病の症状が見られない状態を完全寛解と呼ぶ。完全寛解を5年以上維持した場合、再発の可能性がほぼなくなったものと考え、治癒と見なす(ただし、治療を原因として発症する二次性白血病のリスクは残存する)。
1980年代以降、化学療法、および造血幹細胞移植が発達し、治療成績は向上しつつある。しかし、依然として重篤な疾患であることに変わりはなく、特に高齢者の患者においては治療が困難な場合も多い。なお、化学療法に関しては、制吐剤が改良されたため、施行中のクオリティ・オブ・ライフ (QOL) は改善されている。
白血病の中でも最も緊急性の高いものであった急性前骨髄球性白血病 (APL) は、ビタミンA製剤であるオールトランスレチノイン酸 (ATRA) が著効する(分化誘導療法)ことが発見されて以来、白血病の中では治療成績が良好な疾患となった。
2004年10月には、猛毒として知られる三酸化ヒ素(亜ヒ酸)製剤が再発または難治性の急性前骨髄球性白血病を適応として厚生労働省から承認された。催奇性のため大規模な薬害をおこしたサリドマイドも、白血病の治療薬として現在有望視されている。
[編集] 関連疾病
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
引用番号 | 書籍名 | 発行 | 版 | ページ | 著者 | 出版 |
(1) | STEP内科(3)代謝・内分泌 第2版 | 2002年11月1日 | 第2版第1刷 | p.74-75 | 監修:板垣 英二 | 海馬書房 |