有線放送電話
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有線放送電話(ゆうせんほうそうでんわ)は、農業協同組合(総合JA、専門JA)・漁業協同組合・市町村などの地域団体によって設置される、日本の地域内の固定電話兼放送設備。一般には「有線放送」「有線電話」「有線」と略される。
有線放送電話に関する法律によると、“有線ラジオ放送の業務を行うための有線電気通信設備及びこれに附置する送受話器その他の有線電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他これらの有線電気通信設備を他人の通信の用に供すること(有線ラジオ放送たるものを除く。)”を有線放送電話役務と定義し、これを提供する業務を有線放送電話事業と定義している。
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[編集] 概要
日本電信電話公社の一般加入電話が普及していない農林漁村で、市町村地域内の放送業務・地域内の音声通話等を行い、生活改善をする目的で設置されていた。
加入者相互間の通話料は多くが定額であり、加入工事費・月額基本料金も一般加入電話より安い。
形態は言わばアナログ音声専門の地域LAN。
[編集] 放送業務
全戸一斉・地区別放送を加入電話機付属や屋外設置のスピーカーで出来るのが特徴で、放送中は、緊急通報以外の通話は割り込ませない運用になっていた。
地震・津波・火災・交通事故などの緊急防災、行方不明者の捜索願、不審者・詐欺商法への注意などの防犯放送が随時行われる。定時放送としては、天気予報・交通情報・お悔やみ等の地域情報、市町村・農協・漁協からの広報、NHK等のラジオの再送信、電話リクエストによる音楽番組・通話機能を利用した聴取者参加番組などがあり、広告放送も可能である。
農林漁村の生活リズムに合わせた編成が行われていたが、都市化・サラリーマンの増加などで早朝からの一斉放送が迷惑との利用者の意見が出るようになっている。
一斉定時放送の番組の例
- 朝 : 天気予報・今日の行事・地域団体の広報など
- 昼 : NHKニュースの再送信・地域団体の広報など
- 夕 : 体操・音楽など
- 夜 : 農産物などの市況、明日の天気予報・行事予定など
利用者が選択できる4~8チャンネルの放送をしたり、屋外や加入者端末のスピーカーで加入者が営利・宣伝を目的としない呼び出しを行える地区もある。
[編集] 通話業務
通話は、一般電話の電話番号ではなく専用の特別な番号(有線番号)で呼び出しを行う。ただし一部の事業者に於いてはNTT東日本、西日本電信電話の契約を持っている契約者の場合には市外局番を除いた電話番号がそのまま付与されている場合もあり、NTT回線を使った市内通話と同じ感覚で使用可能である。ダイヤル自動化以前は、交換手に相手の名前を伝えて通話申し込みをする人も多かった。加入者線を3~10の加入者で共用する共同電話であるものが殆どで、初期のものは放送機能で加入者の呼び出しを行い秘話機能も無かった。後に個別呼び出し・秘話機能・ダイヤル即時自動化が実現された。また最近では、後述のIP電話化に伴い他事業者宛の通話が出来る場合もある。
単独電話化・放送と通話の分離、再ダイヤル・短縮ダイヤル・キャッチホン・転送・不在転送・3者通話・電話会議などの付加機能が実現されたものもある。また、市販のプッシュ式コードレス電話機・ファクシミリを接続可能なように、分岐装置を導入したものもある(DTMFを1秒以上連続して発信できる電話端末であれば分岐装置にそのまま接続可能)。
通話が定額制であることを生かして、聞き逃した一斉放送の再聴取・当番医情報・ワンポイント英会話などのテレホンサービスを充実させているものも多い。
有線放送電話加入者のみと通話可能な無料公衆電話を設置している地域もある。公衆有線電話の場合、基本的には契約者宛にしか発信できないが、NTT市内通話やIP電話網への発信を規制していない事例も存在する。
[編集] その他業務
2000年代に入り、定額制ダイヤルアップ接続やADSLによるブロードバンドインターネット接続の足回りとしても活用されている施設も多い。IP電話・インターネット電話による他地域の有線放送電話・一般電話との接続通話が行われるようになっている。また、中継網の光ケーブル・VoIP化が行われた地域もある。
機器接続の例
|スプリッタ|-|ADSLモデム|-|コンピュータ等| └|分岐装置|-|市販の電話機| └|スピーカー|
[編集] 歴史
放送機能を持ったものは、1944年に千葉県の亀山村(現在の君津市)の防空監視所・一般家庭で鴇田満により行なわれたラジオ共同聴取が最初とされる。1949年に近隣である松丘村の沖津一により通話機能を持ったものに改良され、1956年までに現在の君津市の市域に拡大された。
1957年(昭和32年)の「有線放送電話に関する法律」の制定施行に伴い郵政大臣許可により正式に日本全国で運用がはじまった。1964年に公社電話への接続通話・1985年に隣接市町村の有線放送電話との相互接続が解禁された。また、自動電話交換機の導入に対して電電公社の妨害があったとの説もある。
1969年に322万端末でピークに達した。その後、1958年に電電公社が開始した地域団体加入電話への置き換え・一般加入電話の普及、1985年以降のNTTの発足などの電気通信事業の自由化による他事業者の参入などで通話が減り、放送業務が中心となっていった。
1980年代には同報系市町村防災行政無線・1988年開始のオフトーク通信・1992年開始のコミュニティ放送、2000年代に入りケーブルテレビ・FTTHによるIP放送などの他の通信インフラストラクチャーへ放送業務も置き換が進み、老朽した設備の更新費用の負担問題などから廃止された地域も多い。
1997年9月より、長野県伊那市の「伊那市有線放送農業協同組合(愛称:いなあいネット)」でDSL利用実験が行われた。NTT東・西の電話回線より通信線路の芯線が太く抵抗値が低く、ISDNが無かったためである。以後、各地でADSLサービスが行われるようになった。