ファクシミリ
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ファクシミリ(ファックス、ファクス、FAX)とは、画像情報を通信回線を通して遠隔地に伝送する機器、あるいは仕組みのこと。ラテン語のfac simile(同じものを作れ)←{facere(為す)+simile(同一)}が語源。
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[編集] 概観
原稿の二次元情報を線または点に分解し読み取り、データ圧縮や変調等の信号処理をして、通信回線(多くは電話網)に送出する。写真等、中間調の画像を電送するものを写真電送、文字、図面等を電送するものを模写電送と言う。
通常は、電話機と一体になっているものがほとんどである。業務用の複合機などでは、受話器がないものもある。
[編集] 主な用途
企業や商店で、電話での言い間違い・聞き間違いなどのトラブルを避けるため、注文書・見積書などの急ぎの書類のやり取りに使用される。
また、家庭でも手書き文書などのやり取りがリアルタイムで行える特徴があり、とりわけ道順や地図などの音声だけでは伝えにくい情報の伝達には威力を発揮し、放送局ではテレビやラジオ番組の視聴者からのリクエストなどをFAXで受け付けていることも多い。
聴覚障害者にとっては、電話に変わる身近な通信手段でもある。
[編集] 規格
規格 | 公称伝送時間(A4 1枚当たり/秒) | 使用回線 | 最大解像度(dpi) | 特徴 | 伝送・変調方式 | 画像コーデック | ITU-T勧告 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
モデム | 最大通信速度(kbps) | 端末特性 | 伝送手順 | 制定年 | ||||||
G1 | 360 | 0.3~3.4kHz 音声回線 |
100× 100 |
アナログ伝送 | DSB AM | T.2 | T.30 | 1968 | ||
G2 | 180 | VSB AM | T.3 | 1976 | ||||||
G3 | 60 | 200× 200 |
全てのG3が対応 | V.27ter | 4.8 | MH | T.4 | 1980 | ||
30 | 家庭用 | V.29 | 9.6 | |||||||
20 | 業務用 | V.17 | 14.4 | MR | ||||||
Super G3 | 3 | V.34 | 33.6 | MMR JBIG | ||||||
カラーG3 | JPEG | T.30E | ||||||||
InternetFAX | Internet Protocol | パケット化してリアルタイム伝送 | MH MR MMR JBIG | T.38 | 1998 | |||||
基本的な機能を規定 | 画像データを電子メールの添付ファイルとしてSMTPで蓄積伝送 | T.37 Simple mode | ||||||||
送達確認・機器間の能力確認などの双方向・カラー伝送などの付加機能を規定 | MH MR MMR JBIG JPEG | T.37 Full mode | 1999 | |||||||
G4 | 3 | ISDN | 400× 400 |
G3の機能も備える | デジタルモード | 64 | MMR JBIG | T.6 T.503 T.521 T.563 | T.62 T.70 T.62bis | 1988 |
2005年現在では、家庭用・業務用とも、一般の電話回線を利用したG3 FAXがほとんどである。同一メーカー同士の通信の場合には、メーカー独自の手法でデータを圧縮して通信時間の短縮を行っていることが多い。
[編集] 送信受信の概要
原稿の読み取り部は、イメージスキャナである。
- 精細度や原稿の濃さを設定し相手先電話番号を入力すると、用紙を1枚ずつ送り込んで、イメージ情報として読み取られ、一度内部のメモリに記憶される。
- 交換機へダイヤル信号を送出し、相手のFAXに発信する。
- 話中の場合は、一定時間経過後にリダイヤルする。
- 回線接続後、送信側から受信側へファクシミリトーン信号を送出する。
- 受信側では、ファクシミリトーン信号を受信すると、FAXの受信可能方式などをファクシミリトーン信号として返信する。
- 受信側のFAXの受信可能方式にあわせた画像信号形式で送信側からデータを送信する。
- 受信側のFAXからの受信完了信号を確認しながら送信側はデータを次々送信する。エラーの場合は、再送信を行う。
- 送信終了または、相手から一定時間応答無い場合、回線を切断する。
- 受信側では記録紙に印刷を行う。記録紙が切れた場合には内蔵メモリである程度まで受信(代行受信)を行う。また、受信中は内蔵メモリで記録しておき、他のFAXやパソコンなどへの転送、ディスプレイでの確認を行った上で、必要なものだけ印刷することが可能なものもある。
- 送信側では、正常終了または異常終了のメッセージが出力される。
[編集] 印刷方式
印刷部は、プリンターである。
初期には、放電破壊式が用いられた。表面に黒色の導電層と白色絶縁層の2層を塗布した放電破壊を使用し、走査を行う記録針に高圧を印加して導電層との間で放電させる。これにより表面の絶縁層を除去して内面の黒色を浮きだたせ、文字を印刷する物だった。印字中は放電に伴いオゾン臭がするという欠点があった。
暫くして、感熱方式が登場するが、用紙の保存性が悪い物が殆どであった。
この後、ヘリウム・ネオンレーザー管が普及すると、レーザーを用いた印刷方式が登場した。 直接、印画紙やフィルムにレーザーを当てて感光させる物等は階調を必要とする写真電送ファックスとして普及した。
後に半導体レーザー素子が普及すると一気に低価格が進み、レーザープリンタが普及するに至り、レーザー方式の複写機・プリンター・スキャナなどとの複合機が企業などで使用されるようになった。
印刷単価よりも機器の価格の安さが優先される家庭用の普通紙タイプのものは、単色の場合は熱転写インクリボン方式、カラー複合機の場合はインクジェット方式が使用されることが多い。
[編集] ファクシミリの歴史
電信、電話など通信の発達と共に画像電送の要望も高まり、19世紀半ばには開発が始められた。この時代電気工学の急速な発展に伴い、1920年代には基礎的な技術がほぼ出揃い、実用化の時代に入った。
ドイツのルドルフ・ヘル(Rudolf Hell)は、1929年に文字を小さな点に分解、走査して電気信号に変換し送信、受信は今日で言うドットプリンターの原理で印刷するヘルシュライバー(Hellschreiber)と言う機械を開発、特許を申請した、これは今日のファクシミリの原型とも言える。 ヘルのこの機械は、その後、新聞原稿電送装置、等として発展していく。
ドイツ軍は第二次世界大戦で野戦通信用として、可搬式ヘルシュライバー装置を導入、シーメンス・ハルスケ社が生産を担当したこの機械は Feld-Hell と呼ばれ、有線、無線に対応し、敵軍に探知され難い文字通信方法として、他国には見られない独特なものである。
日本では、日本電気の丹羽保次郎とその部下、小林正次の2人が開発したNE式写真電送機が、1928年11月10日に行われた昭和天皇の即位儀式を京都から東京に伝送したのが実用化第1号であった。即位儀式の時、速報を大阪毎日新聞社と朝日新聞社がかって出た。しかし、当時のFAXでは、画像が歪んでしまうため(周波数の違いによる)国は、ゆがんだ画像を文書に載せ、公開することを禁止する法律を制定した。朝日新聞社にドイツのFAXの技術者が、大阪毎日新聞社に当時のNECの技術者が就き、両社とも、テスト時はまったく成功せず、大阪毎日新聞社が本番のとき、初めて成功した。朝日新聞社は、大阪毎日新聞社が速報を出した数時間後に、やっと成功した。当時のNECは、周波数の違い(注)に悩み、送信側が電気信号を送り、その電気信号で、受信側のモーターを動かすという仕組みにした。
東日本と西日本では電源の周波数が異なる(日本の商用電源周波数参照)ため、東日本と西日本でFAXの速さが変わってしまった。現在のFAXは電子制御であるためこのような問題は起きない。
1936年に開催されたベルリンオリンピックではベルリン-東京間に敷設された短波通信回線により電送された写真が新聞紙面を飾り、それまでの飛行機便による速報写真は役目を終えていった。
戦後は、やはり報道や電報、警察における手配写真などの伝送に利用されたが、1970年代後半には業務用ファクスが開発され、1台目の電話機に接続する形で大企業にファクスが入り始める。1981年には旧電電公社により、通信料金の安いファクシミリ通信網(Fネット)が開始される。
その間、現在の主力であるG3ファクスが開発され、また1985年に電話機を始めとする端末設備の接続が自由化されると、中小企業や商店などで急速にファクスが普及し始めるとともに、パーソナルコンピュータなどのFAX内蔵モデムが登場する。
1988年に開催されたソウルオリンピックを目前に高解像度のカラーイメージスキャナーが登場し、同時に日本の主要都市に光ファイバーが敷設され、デジタル通信回線により高解像度の電送された写真が地方新聞社に送られカラー写真が紙面を飾った。
1990年代に入ると、コードレス留守番電話機と結合された形で、一般家庭でも使われるようになった。